閑話 

1,クゥとミルの冒険者登録


「何、冒険者に成りたいだと」

 それはダンテがダビ攻略を宣言して作戦の内容を詰める会議を終えて、帰路に(ホントは帰らずに宿屋に泊まりたい)つこうとしたダンテにクゥが言い出したことだった。

「ふむ」

 ダンテは天井を仰いで無精ひげの生えた顎先を撫でながらしばし考えてみる。

「ダメかな?」

 クゥはダンテを上目遣いで見上げながら眉根を寄せて不安げにしている。

 それをダンテは視線だけで見返してクゥの可愛さに心を掴まれていた。

「……良いだろう。冒険者登録するか」

 結局ダンテはそう答えた。

 クゥの顔は満面の笑顔になって。

「やったーーーーー」

 と叫び、会議室に残っていた者達から何事かと視線を向けられた。


「おーい、ミル」

 ダンテはクゥの冒険者登録に行くことにしたのだがついでにミルもダビに行くのだし登録しようと誘うことにしたのだ。

 ちなみにレーヴァテインはもう帰った。

「どうしたんですかダンテさん」

「ミルは冒険者登録してるか?」

「いえしてません」

「じゃぁちょうどいい。ミルも一緒にしよう」

「え、でもボクは神父ですし」

「冒険者の中には神官を雇って冒険に出るものも多い。ヒーラーとして必要だからな。だから、神官でも冒険者登録して兼業でやってるやつも多いぞ」

「なるほど」

「本来のミルの立場からすると自ら動くことは無いから今まで縁が無かっただろうが、俺の嫁になるんだ。冒険者登録しておいた方が何かと便利だろうと思うが」

「ダンテさんの嫁」

 と、そこに反応して顔を赤くするミル。

「ははは、ミルは可愛いな」

 ヘラヘラと笑いながらミルの頭をなでるダンテ。

「ちょっとからかわないでください」

「それよりエイラ達と何か話してたんじゃないのか」

「それでしたらお屋敷に住まないかと誘われたんです。断りましたけど」

「そうなのか。俺が言うのも何だが、あの下町のボロ教会よりずっと豪華でいいところだぞ。俺は全然落ち着かないが」

「ボクはかりにも神父ですよ。ボロくても教会を開けっぱなしには出来ません。あそこが僕の家です」

「そうか」

「それに、ボクも王族の屋敷なんて落ち着きませんから」

 そのセリフでダンテとミルは2人して笑った。


 ダンテはエイラに冒険者登録をすることを伝え、ついでに晩飯も食ってくることにした。

「冒険者登録ってやっぱり冒険者ギルドでするんですよね」

「もちろんそうだが」

 ダンテとミルは間にクゥを挟んで手をつないで議事堂を出た。

「ボク冒険者ギルドの建物を見たこと無いですよ」

「この町のほとんどの人がT字教団の教会の存在を知らないぞ」

「うぐ、そうですけどね」

 3人は議事堂前の通りを抜け中央広場に出た。

 この町の中央広場は昼までマグ・マーケットと呼ばれる市が開かれており、夜に成れば祭りが執り行われる会場にもなる。

 一昨日のクゥお披露目の祭りもここで行われた。

 ダンテはその広場から酒場や宿屋が多く集まる界隈に2人を連れて来た。

 いつもは田舎なので閑散とした通りも今は商隊が町に来てる時期なのでにぎわっている。

 その奥まったところに2人を連れてきたダンテは昼間からやっている大きな酒場に入って行った。

 酒場「クレイジー」

 外観は石と木で作られたこの町の中に有って1・2の大きな3階建ての建物だ。

 中央に木で出来た丈夫そうな観音開きの扉がありここが店の入り口となる。


「昼間っからお酒ですか」

 ミルによる抗議を無視してダンテは酒場のホールへと足を踏み入れる。

 ホールは広く、いくつかのエリア分けをされているようだ。

 今は昼間だからだろうか、席はガラガラでお客さんは中央付近のテーブルに居る5人の老人たちだけだろうか。

 老人たちは皆眼光が鋭く酒場に女子供を連れてやってきたダンテを見て貫禄のある笑みを浮かべていた。

 ダンテはその5人に近づくと気さくに挨拶した。

「いよぉう。景気はどうだい」

 木のジョッキでお酒を飲んでいた白い髪と髭をモッサリと生やしたしわの深い老人が、ジョッキから口を離してドスの利いた声で答えた。

「景気かい」

 5人の老人は怖い顔で目配らせすると―――

「誰かさんのおかげで安穏とさせてもらって居るわ。ガハハハハ」

 と笑い出した。

「クゥは祭りのときに挨拶したから覚えてるだろ。ミル、この5人がこのローゴの守護者、Cランクパーティーの「鉱壁の担い手」だ。もう何十年もこのローゴを拠点に冒険者をしている先輩冒険者だ」

「先輩と言ってももう老いぼれだがな」

「は、初めまして。東門のあたりでT字教団の神父をして居るミルです」

「ふむワシが「鉱壁の担い手」のパーティーリーダーをして居るグランガってもんよ」

 グランガは背が低いが筋肉ムキムキのガタイのいい老人で白い毛が特徴的なドワーフであった。

「私が副リーダーのルッチです。冒険では斥候を担っております」

 そう答えたのは黒い毛並みのケモ耳を持つ獣人族の御老人。

「拙者がグランガと共に前衛をして居るムネノリで御座る」

 そう名乗ったのは眼帯にミルも実物は初めて見るちょんまげの姿勢がやたらいい老人。大陸の東、極東のサムライだ。

「ウチがミーアだにゃ。紅一点のソーサリーで、今はダンテ君の師匠もしてるにゃ」

 黒いローブに黒いとんがり帽子からケモ耳を生やす獣人族の魔女。

 ルッチがイヌ科ならばミーアはネコ科の獣人である。

「最後に拙僧がヒーラーを務めさせていただいている、名をトウリンと申すものです。そこなムネノリとは同郷の身、共にここまで旅してきてこの地に骨をうずめる決意をした者であります」

 最後にやたら丁寧な口調の糸目で禿頭の男。

 極東の神官だったらしい。

「今からクゥとミルの冒険者登録をしに行くんだ」

 ダンテがそう説明すると5人からクゥとミルに応援の言葉が投げかけられた。


 5人と別れた後ダンテはホールの脇の階段を上がった。

「先ほどの方たちは何時もあそこで飲んでるんですか」

「そんなわけないだろミル。この地方の山岳部は他に居ない動植物が多く住んでるんだ。その狩猟や採取に行くのが基本的な仕事だよ」

 そう擁護して2階に上がると大きな受付カウンターや掲示板なんかが並んだホールに出た。

「ここが冒険者ギルドの窓口だ」

「こんなところに、しかし誰もいませんね」

「パパ。ここでホントに冒険者に成れるの?」

「成れるよ。ちょっと待ってろ」

 そう言うとダンテはカウンターを乗り越えて、奥にある扉を勝手に開いた。

「お~い、シータさ~ん」

「きゃあああああああああ!」

「あっ、着替え中でしたか。すんません」


 改めて、カウンター前に並んだダンテとクゥとミル。

 カウンターを挟んで顔を赤らめたお姉さんが立っていた。

「ダンテさん、扉はノックしましょうね」

「パパ~。このお姉ちゃんの裸見たの~」

「履いていたわ。下着は履いていたわよ」

「ああ、黒くてきわどい奴だった」

「ちょっと、ガン見しないでよ」

「ははは、パパのエッチ~~」

「……ダンテさんのエッチー」

 クゥは笑いながら、ミルはジト目でダンテを非難してお姉さんは何とか平静を保とうとしている。

「ははは、おじさんもう枯れてるから安心だって」

「……どうだか」

 ダンテの弁明にミルは目線を逸らして呟くのだった。


「改めて、こちらのお姉さんはシータさん。ローゴの冒険者ギルドの看板受付嬢でギルマスでもあり、————唯一の職員だ」

 そう紹介されたシータはギルド職員の制服なのか、タイトスカートにジャケット。ネクタイを締めて頭には羽飾り付きベレー帽をかぶっている。

 全体的に紺色の落ち着いた色合いでシータ自体の化粧っ気も少ないので新人職員のお姉さんぽい印象がある。

「なんだか建物は立派なのにさびれてますね」

「ははは、昔はエルガ山脈に挑む冒険者の宿場町として栄えたのですが、10年前から一気に人が離れていきましたからね」

「パパ、10年前に何があったの?」

「今度行くダビの町が滅びてダンジョンと化したことだな」

「それだけ?」

「いやこれに―――」

「いやちょっと待ってください。ダンテさん今、今度ダビに行くって言いませんでしたか」

「あぁ、それも伝えに来たんだった。エイラがダビ攻略の号令を出した」

「はぁあああ?Sランク任務ですよ。しかも想定される戦力はBランク以上のレベル30ぐらいは無いと参加も難しいのに2個師団。2個師団クラスの人員が必要なんですよ」

 1個師団は1万から2万人の軍隊だ。

 つまり3万か4万人の戦力が必要だと言っているのだ。

「少数精鋭の4人パーティーでのダンジョンコア狙いの作戦だ」

「……正気?」

「マジだ。質も相性もばっちりそろってる」

「そうですか。その2人がその戦力ですか」

「そうだ。この2人の冒険者登録をしたい。ホントはもう1匹居るけどあいつは欲しがった時だけでいいだろう」

「分かりました。ではまず実力を測らせてもらいます」


 冒険者登録。

 それは冒険者の神「オデッセイ」の神秘を用いてその者の冒険者としての適性を鑑定することで登録証、通称ランクカードが発行される。

 そのランクカードをギルドのネットワークをつかさどる神「ナコト」の神秘で世界中に広がるネットにアップロードすれば完了だ。


「意外と簡単だね」

「クゥ、これは登録だけでギルドの利用には色々なルールがあるんだ」

「まぁまずは鑑定してランクカードを作るところからですよ」

 そう言ってシータは鑑定装置のある部屋にダンテ達を導く。

「これを使うのも久しぶりですね」

「それじゃあミルママからお願い」

「————え?ミル……ママ。なんで」

「だってパパと婚約したんだからミルママは私のママだよ」

「そ―――そうなるの?」

 ミルがダンテの方にうかがいの視線を向ける。

「俺も似たようなもんだ、受け入れろ」

「ママか……ママ、—————まぁいっか」

「意外とさっぱりしてるな」

「そうでもしないと――――人生つらいですもん」

「分かる」

「子供の前でやさぐれないでください。それよりミルさんですね」

「はい」

「今から鑑定を始めますが個人情報取り扱いの戒律に基づき我々ギルド側が照会できるのは限られますが、犯罪にかかわるなどがあるとこちらの要請に対して開示義務が発生します。よろしいですか」

「了解しました」

「それでは始めます―――――


 神髄開帳「オデッセイ・アナライズ」」


 シータは装置を操作して鑑定を始めた。

 まずは部屋に光があふれてミルの体に吸い込まれていく。

 そして今度はミルの体が光り、体から神聖文字の帯が何本もあふれ出して装置に収束していく。

 そしてすべての文字が一か所に集まるとそこにプラチナ色のカードが現れた。


「はい。できました。どれどれ、ミルさんは――――って、何ですかこれは~~~~~~~~~!」


                  ~~続く

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