三軒茶屋DOGGY DOGS

堀川士朗

第1話


 「三軒茶屋DOGGY DOGS」

           (前編)


          堀川士朗



今日、僕は会社を退職した。


中小企業の建築資材設計会社だったが、退職金8000万円を現金でもらった。

札束が入る大きな封筒がなくて、A4の紙を何枚か使ってセロテープで止めて箱にしてその中に現金を入れた。

その作業中、同僚の宮沢さんからは、


「……良いなあ。うらやましいなあお前。まだ入社二年目なのに」


と言われたが、無視した。

札束箱をカバンに入れた。

8000万円の退職金はかなり大きく、また、重かった。

会社をあとにする。

二度とここには来ない。


会社は渋谷にあり、まだお昼だったので三軒茶屋にご飯を食べに行こうと思った。

青空。

良い天気。

若い美人ばかりが歩いている。

良い日だ。

僕は会社を辞めて、大金を手にしてウキウキウハウハしていた。



『三軒茶屋DOGGY DOGS』という店を見つけた。

ラーメン屋だ。

かなり大きな店構えだ。

入ってみると満員で少し待たされた。

席が空いた。

座ろうとしたら、店員に

「お客さん、食券を先に」と言われた。

僕は字面から美味しそうな雰囲気のする焼肉ラーメンのボタンを押した。1000円ちょっとだった。

店員に食券を渡す。

席に着いた。

8000万円が入ったカバンは床に置いて、足で踏みつけて奪われないようにした。

貼り紙がしてあった。

そこにはこう書かれてあった。


「三軒茶屋DOGGY DOGS。

店名の由来は昔、三軒茶屋に住んでいた三匹のお犬さんたちがこのお店を始めた事に由来します。

清潔な店内と、行き届いたあたたかい人情あふれるサービス!

そして至高の一杯のラーメンを皆様お楽しみ下さい!」


自信満々だなあ。

楽しみになってきた。

次々とお客が来て注文が入り、店の雰囲気もすごく忙しくて活気がある。

店内BGMにはあのクラシックの名曲、『翼に翼が生えたんだ』が流れていた。


♪翼に~翼が~生えたんだ~

付け根部分が~

ちょっとか~ゆ~い~


30分後。

全然ラーメンが来ない。

無情だ。

無常だ。

虚しい。

焼肉ラーメンまだかな。



           ツヅク


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る