第23話

 世間ではベゴニアが泉の発見者だと思っているが、ベゴニアはウィスタリアの事を隠すつもりはなかった。発見したのは紛れもなくウィスタリアなのだ。それで爵位でも貰えればいいし、婿も決まれば言う事はない。

 女性の位置はまだまだ低いが活躍した女性には陛下から爵位が授与される。その夫が引き継ぐ事はない。

「分かりました。覚悟を決めます」


 後日、兄と共にウィスタリアは登城を求められた。謁見の間に行くと陛下や各貴族の顔があった。そして兄と共に泉の発見時の事情を聞かれた。兄と共にというのが助かった。一人では受け答えすらままならなかっただろう。

 発見の報告の仕方も注意はされたがお咎めなしだった。私的に使っていた訳でなかったからだろう。ウィスタリアは心底安堵した。 

 そしてまた後日には、ウィスタリアが言っているモヤモヤという者が本当に魔素にあたる事なのかという事になり、テストや実験を何度も繰り返した。総合的にモヤモヤと言っているのが魔素であると各貴族からも認められ、正式に国から魔素が見えるギフト持ちだと認定を貰った。

 だがそれを貰ったからと言って今までの生活が変わる事は何もない。実は肩書は父の恩恵で侍女のままになっていた。もちろん事実は違うが誰の侍女にもなれない下っ端侍女であるという認識になっている。

 泉の件で爵位を授与するかどうかの検討も行われていた。魔力なしの女性である事や侍女にもなれないからと今回はない事になるのかもしれなかった。しかし、兄はそれは不公平だと意義を申し立てたりと父と兄、弟、妹が頑張った。

 父は伯爵であり、その兄は栄養剤の発明者で、弟は神獣の世話役で、妹は王女の侍女で頭補佐だ。母はその昔社交界の花であったりした事が追い風になり、一代限りのナイトの称号をもぎ取ったのだ。両親は喜んだ。

 これで婿も決まるだろうし、妹の結婚も進みそうだとした。妹には昔から婚約者がいたのだが姉の結婚が決まるまで出来ないとしていたのだ。

 4人も子供がいるのに誰も結婚をしていない事は両親に取って最大の心配事だったのかもしれない。



 ウィスタリアは正式にギフト持ちが認定され、その力で魔法水を発見した事が知れ渡った。魔素が見えるギフトからスキュラーと呼ばれた。昔からある物語で人間の魔力が見えるという設定の主人公の名だ。

 そして、ウィスタリアは陛下から爵位を授与され王都の端に小さな邸を貰った。


 ウィスタリアはこれから正式な貴族として名を残す事になる。城の女中で働いていたという事はなかった事になった。あくまでも城の侍女だったという事だ。両親に知られると哀しませてしまうのでそれはそれでよかった。なにより貴族の娘を女中にしてしまった事に他の者が罰せられるかもしれない。黙認するのが吉だろう。


「ギフト持ちで泉を発見したなんて、あんたは本当にラッキーだったね。なんのとりえもないかと思っていたけど…まぁよかったじゃないか、これで結婚も決まるだろう」

 マリアは女中を卒業してしまうウィスタリアに言った。ちょっと寂しそうでもあった。

「私は女中を続けてもよかったんだけど…」

「何を言っているのさ、ギフトは神様から与えられた使命だよ?ちゃんと国のために働きな!女中なんていてもいなくてもいいような仕事に使わなくていいんだよ」

「でも女中をやっていたから魔法水の泉を発見出来たのよ?出来もしない侍女をしていたら発見は出来なかったわ」

「…仕事が出来なかったのは魔力が極端に少ないためだったんだね。ずいぶん辛く当たって申し訳なかったよ」

 それは同情した言葉であった事からウィスタリアはちょっと傷ついた。自分ではそんなに不自由だとも同情される事もないと思っていたからだ。仕事が出来ないのはそんか理由とかでもないと思ってもいた。

「マリアはちゃんと叱ってくれたし、私が出来ない事は無理やりさせなかったわ。それに私は救われたのよ。悪かったなんて思わないで…それにミスが多かったのは魔力とは関係ないし…」

 一瞬の間があり、マリアは豪快に笑った。

「ハッハッハ、そりゃそうだわな…あんたはこれからもっと活躍するよ。気に入った男とも結婚できるだろう。立派な屋敷持ちになったんだからもう叱れないね…」

「ありがとう、マリア。ギフト持ちとして頑張る」


 涙の別れとなった。

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