御神籤 凶の未発生事件簿:バカンス

羽暮/はぐれ

ep1 夏だ!

 辺りは夏まっ盛り。

 なんせ12月なのに気温が36℃ある。異常だ。


 バカンスに行くことにした。


「行くぞ」

「HEY HO!!」


 ヒマワリのサングラスを掛け、夏色ビキニで空港を通る。『Excuse me』と止められたのでビンタで歓迎してやった。

 私たちは今、エアコンの効いた旅客機で空を飛んでいる。


「操縦桿ってこんな感じなんスねぇ~ちょっと握らせてくださいよ」

「あ、あの……」

「悪いが泳がせてもらうぜ。暑いからな」

 

 操縦室いっぱいにビニールプールを広げ、炭酸水を注いで泳いだ。


「うひゃあぁ~~こりゃ天国行きだぜ。シュワシュワァアっってよぉ」

「お客様!」

「凶さぁん。なんだか私ら、暑すぎてオツムおかしくなってませんか?」

「かもなぁ~ウヒャヒャヒャヒャ」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 客室から届いた女の悲鳴を聞き、私たちは我に返る。操縦室で何をしているんだ?!


「えらいすんませんした」

「根はいい子なんです、ウチら」


 ドアを開けると、機内の窓にびっしりと手が張り付いている。血まみれだ。

 ここは高度10000mだから、たぶん幽霊だろう。


「借りるぜっ!」


 近くの席の折り畳みテーブルをたたき割ると、その衝撃でイヤホンが抜け、おじさんが聴いている『FLYING IN THE SKY』が流れ始めた。

 

「いい曲やね」


 おじさんの禿頭とくとうにキスをして、非常ドアから羽ばたく! テーブル越しに飛行機を踏みつけ、スケボー感覚で滑降した。


 ズババっ!

 

 手の幽霊を弾き飛ばし、私の身体は冷たい空に躍る。


「行くぜ!」

「行きます!」


 落夢とともに、私は眼下の大海原へとダイブする!


 目指すはバミューダトライアングルの中心。

 空港もない謎の島に、私は決死のバカンスに行く!


「イカしたバカンスの始まりだッ!!」

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