知略と情報戦

 ※今回の話はちょっと難しいです。心構えの程をよろしくお願いします。


 さて、情報戦とは何でしょう?


 剣や銃を使わずに、「情報」で戦うことです。

 そのままじゃないか、こいつは何を言っているんだ?


 まあまあ、落ち着いて。


 情報で戦うとは? の前に、そもそも情報とはなんでしょう?

 戦いを想定した「情報」について述べてみましょう。


 「情報」とは、必要な時に、必要な人に、必要な内容で与えられる、情報です。

 そしてこの情報は「行動の決断」をするための根拠になります。

 

 この情報をコントロールすることで、何ができるのでしょう?


 敵の行動を予測して効果的な一撃を与えたり、防御している敵を誘い出したりできます。


 ここでわかると思いますが、戦いは情報戦だけで完結しません。

 情報戦は、おもに戦闘力を高めるための行動として定義されます。


 情報戦で敵国の内部に反乱を起こしたとしても、最終目的(敵対勢力の破壊)の達成には、軍事力、政治力の行使が必要となるはずです。


 以下は情報戦の一例です。


 予測

 ・水を大量に集積? 敵は河川を避けて内陸から進行するつもりかも?


 操作

 ・敵の防御陣地に対して、南側の包囲が手薄、突破可能という情報を流す。すると戦力保全のために彼らは陣地を捨て離脱を試みる。


 弱体

 ・稀代の名将が謀反をたくらんでいると、敵の皇帝の周りに噂を流す。そして、能力に乏しい、忠義だけが取り柄の将軍を大将にさせる。


 ね? 情報戦だけでは完結しないでしょう?

 情報戦とは、こういったものを指します。


 しかしその本質、情報戦がどうやってなりたっているのか?

 そこを掘っていくとしましょう。


 まず、情報戦とは人の心理をつくものです。

 その人の心理とは、※「損をしたくない」というもの。「負けたくない・死にたくない」という生得的な前提があるから、情報戦は成り立っています。

 

※これは「得をしたい」でも意味が通ると思いますか? いえ、それではダメなのです。なぜダメなのか? それについては後述します。


 ナッシュ均衡という言葉を知っているでしょうか。

 J・F・ナッシュが提示した概念で、彼はこれにより1994年にノーベル経済学賞を受賞しました。


 この概念は、すべてのゲームの参加者が、一定のルールのもと、自らの利得が最大となる最適な戦略を選択し合っている状態のことを指す言葉です。


 つまりどういうことか?


 「ザ・コンビニ」というゲームをご存知でしょうか。

 このゲームではプレイヤーはコンビニを経営するのと同時に、街に施設を誘致して、コンビニと街を発展させるのがゴールとなっているゲームです。


 このゲームではライバル店が存在し、街の「出店するのにいい場所」を取り合うことになります。もしあなたがライバル店の横に店を出したなら、そのお店はライバル店とお客を取り合い、大した売上が出ないでしょう。


 別の会社のコンビニが横並びに立っている光景を見たことがあるでしょうが、あんなかんじです。お互いに消耗する一方で、同じリソース、またはリソースに差がある場合、何も良いことがありません。


 この場合、相手より離れた、ちょっと劣っているが良い場所を取りに行く方が、ずっと会社を成長させることができます。


 言い換えれば、「お互いがお互いの戦略に満足している」状態です。

 これが理想的な闘争状態なのです。


 しかし1950年のランド研究所(ディズニーランドの大きさを決めたことで有名なあの研究所)では、人間の行動観察の実験から、ナッシュ均衡に則した行動は稀だと知ることになります。


 これが切掛となり、「囚人のジレンマ」という話が生まれます。


 「囚人のジレンマ」とは、どういったものか?

 概要を事細かに説明すると、難しくなりますので、単純化してお伝えします。


 ――あなたは、とあるMMOゲームで、鉱石を掘っています。

 とにかく利益を上げるため、鉱石を掘りまくれば良いのですが、資源が枯渇すると、レアな鉱石やお宝は中々取れなくなります。


 しかし自分が我慢したとしても、他のプレイヤーは採掘ポイントにかじりついて掘り続けます。あなたが鉱石を掘るのを我慢しても、ひとり損をするだけです。

 なので、あなたとライバルは、枯渇した採掘ポイントを目の前にして立ち尽くし、リスポンをじっと待ち続けます。


 これが「囚人のジレンマ」の本質の説明です。


 現実に存在する問題で説明すると、国同士の軍拡競争です。

 軍拡は非常にお金がかかります。軍隊は特にお金を生みませんから。

 ですが、やめたくても「お先にどうぞ」とはいきません。


 そしていつの日か技術革新が起き、それまでの兵器が陳腐化します。


 結果、大量に時代遅れの兵器を抱えて、経済的に疲弊したという結果だけが残ります。兵器が残ったということは、使われなかったということ。

 戦争抑止という目的は達成したかも知れませんが、どうにも納得がいきません。何か他の手段があった気がします……そう、これが「囚人のジレンマ」です。


 それだけ「損をしたくない」という心理は強いのです。


 軍拡の場合、占領という最悪の結果が見えています。

 第三者からは不合理な決定に見えます。しかし当事者間では、非常に切実な問題なのです。お互いほどほどの軍を持っていればそれでよかったはずです。


 ――閣下、本当にそうでしょうか?


「もし連中がこちらの軍を圧倒的に上回れば、すべてを失いますよ」


 この一言で生じる疑心暗鬼が、すべての始まりになります。


 一度これが始まれば、あとは相手方との意思疎通もままなりません。そうなると情報不足になり「戦場の霧」に自ずから突っ込み、全体像すら見えなくなり、全てが出たとこ勝負、行き当たりばったりになるのです。


 不合理な判断を決定してしまう土壌があるのです。

 情報戦は、正気を酸のように蝕み、付け込んできます。

 

 相手の最悪だけは避けたいという心理、これを利用するのが情報戦の基本です。


 そして敵に情報戦を仕掛けられたら、これの逆をします。

 最悪は本当に最悪なのか? ただのブラフや脅しではないのか?


 情報戦で防御側に回った貴方がすべきことは、いち早く霧から抜け出し、正しい情報で意思決定をすること。これが情報戦の基本です。


 まとめます。


 ・情報戦とは、「決断」を行うための「情報」を攻撃する戦い。


 ・人は「最悪を避けたい」という心理が働く。情報戦はそこを突く。


 情報戦を演出するのに最低限必要な要素は、この2点です。

 是非参考にしてみてください。


 次は知略での逆転劇について考察してみたいと思います。

 ブクマ等していただき、そちらも読んでくださると嬉しいです。


 ではでは。

 

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