一年前の私へ 2話

 ゲームセンターを出るとさすがにお腹がもうペコペコだった。よし、ゲームセンターに行ったから、

「次はあのカフェに行こう!」

「はいはい。じゃああっちな」

 察したように朔が歩いていく。

 店に着くと朔が言った。

「この後も食べるからほどほどにしておけよ」

 蘭さんの呼び出した用件は食事だったか。

「じゃあ、少なめのやつねー……」

 メニューをめくると一際目を惹かれるページで手が止まった。

「……真希、お前さっき少なめって言ったよな」

 それはあの『アリス名物もくもくパンケーキ』のページだった。

「どこが少なめなんだ! 前回もそれで残してつるぎに食べてもらっただろ!」

「言った……言ったけど! だって美味しそうなんだもん!」

「はぁ……つるぎもなんか言ってやってくれよ」

 朔にそう言われ、つるぎは真希を見た。

「真希、それが一番食べたいんですか?」

「うん、これが一番食べたい! それに今日はほんっとにペコペコだから全部食べられると思う!」

 その答えを聞いてつるぎは朔を見た。

「真希もこう言っていますし、いいんじゃないですか」

「つるぎがそう言うならもういいよ……」

「やったぁ! すいませーん! 注文いいですかー!」

 真希はもくもくパンケーキ、朔とつるぎはアイスティーを注文した。


「おい、真希。今日は全部食べられるって言ってたよな」

「……はい。すいません」

 真希はパンケーキを六割食べたところでフォークを置いた。

「というか、前回よりも食べた量少なくないか?」

「いや……あの、空腹過ぎて逆にあんまり食べられなかったというか……すいません!」

「学習しない奴だ……」

 朔は頭を抱えた。

「つるぎぃ……」

 真希はつるぎを見る。

「残りは私が食べますよ。……まあ、こうなるとは思っていましたけどね」

「そんなぁ……」 

 つるぎにも呆れられていたのか……。そんなつるぎを朔が見る。

「ならどうして真希を止めなかったんだよ!」

「だって、せっかくだから食べたいものを食べて喜んでほしかったので」

 つるぎ……優しすぎる。

 つるぎが残りのパンケーキを食べ終わったところで朔がもういい時間だと言うので、私達は蘭さんの元へ向かった。


 朔とつるぎに連れてこられた先は、行きたくても行けなかったあのデパートだった。

「ここって……」

「ほら、行くぞ。みんなが待っている」

 下着屋はシャッターが半分降りていて、臨時休業という張り紙がしてあった。シャッターの隙間から入り、本部へと続く階段を下りる。

 すると、

「「「真希、誕生日おめでとう!」」」

 そう言ってクラッカーが鳴る。そこには蘭さんだけでなく、杏奈さん、祐太郎さん、柚葉ちゃん、寧々ちゃん、絵理さんの姿があった。

「みんな……!」

「マナン関連の仕事がようやく片付いて、みんなを集めたいと思ったんだ。ちょうど真希の誕生日が近いと知って、お祝いの会にしようと思ってな」

 そう言って蘭さんが笑った。

「ありがとうございます!」

「食べ物と飲み物を用意したから、好きに楽しんでくれ」

 本部の中は風船や花で飾り付けられていて、とても可愛らしい。それに奥のテーブルにはいろいろな料理が並べられていた。

「真希、久しぶりじゃのう」

 話しかけてきたのは杏奈さんだった。

「お久しぶりです。杏奈さんも蘭さんと一緒にテレビ出ていましたね」

「いやぁ、蘭だけで十分じゃと言ったのにマナンの研究者にも出てほしいと頼まれてのぅ。こっちはマナンの報告書をまとめるので大忙しじゃったというのに」

「確か、その報告書のおかげでマナン事件の再審が決まったんですよね。凄いです!」

「まあ、朔やつるぎの親も救えてよかったわい。……そういえば、のう、真希」

「なんですか?」

「わしと初めて会った時のこと、覚えておらんかのぅ。あれからわしはずぅっと待っておったのに」

「……何のことでしょうか」

 嫌な予感がする。杏奈さんは私の腕を引き寄せて耳元に口を寄せた。

「惚れた男の話じゃよ」

 やっぱりそういう……! 赤くなる私をよそに、杏奈さんは腕を離した。

「まあそういう話は他人がとやかく口出しするものでもないからのぅ。いい報告待っておるぞ」

 杏奈さんはひらひらと手を振って行ってしまった。なんかいつもからかわれている気がする……

「真希ちゃん。誕生日おめでとうございます」

 次に声をかけてきたのは祐太郎さんだった。

「ありがとうございます、祐太郎さん」

 祐太郎さんといえば、聞きたいことがあった。

「今日も女装して来たんですか?」

「そうそう、せっかく着替えてきたのに店がお休みになっていたので着替え損でした。まあ、帰りの手間が省けるんですけど……って、何で知っているんですか!」

 祐太郎さんは驚いたように私を見る。酔ってて覚えていなかったか。

「祐太郎さんが新潟の夜に教えてくれたんですよ。……黒髪ギャル、可愛かったです」

「やめてくださいぃ……」

 祐太郎さんは赤くなった顔を両手で押さえた。

「大丈夫ですよ。誰にも言っていませんから」

 いつか生で見せてもらいたいものだ。私は祐太郎さんと別れて歩き出した。

「真希ちゃん!」

 呼ばれて振り向くと、そこには絵理さんがいた。

「誕生日おめでとう。はい、これ! うちの商品からだけど誕生日プレゼント!」

 そう言って絵理さんは紙袋をくれた。うちの商品ってもしかして……下着ってこと!?

「あ、ありがとうございます!」

 いつも店を通りながら見ていたけど、絵理さんの店の下着って大人っぽいんだよな……

 紙袋の中を覗くとそこには可愛らしいパジャマが入っていた。

「うちのランジェリーはちょっとセクシーだからパジャマにしたの。でも、大人っぽいのに挑戦したくなったらいつでも来てね。私がおすすめ出してあげる。……その代わりと言ったらアレだけど、前に三人で着てた衣装の写真撮らせて!」

 三人で着てた衣装って、あの戦乙女のやつか!

「それはちょっと……!」

「ね! 一枚でいいから! お願い!」

「ごめんなさいー!」

 私は逃げるように絵理さんの元を去った。 

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