ふるさと新潟ゆたかな地 4話
「真希ちゃん、楽しんでますか?」
食事を大体終えたところで祐太郎さんが話しかけに来た。酔っているのか、顔が赤い。
「ああ、はい。楽しんでますよ」
「そうですか。それはよかったです。僕、真希ちゃんに朔の話を聞きたくて来たんです」
「朔の、ですか?」
「はい。今日これから同室なので、いつも一緒にいる真希ちゃんに話を聞こうと思って」
うーん、それならつるぎの方が適任だと思うんだけど……まあいいか。
「朔の話ねぇ……朔って大人っぽく振る舞ってるけど、たまに照れちゃって可愛いんですよ。例えば、初めて私をDAM本部に連れて行ったとき、下着屋に入るのに顔真っ赤にしてて。いつもは早朝とか深夜に出入りしているみたいなんですけど、その日は私がいたので仕方なく一緒に入ってくれたんです。可愛くないですか?」
祐太郎さんは考えるような顔をして反応がない。この空気、もしかして引かれた!?
「あの、すいません! そういう話が聞きたいわけじゃないですよね! えーっと、他の話は……」
「ああ! いえ、とても興味を惹かれる話だったので。……そんな方法があったのか」
「はい?」
「本部への入り方ですよ。僕は女装して入っているので」
「ええ!?」
「女性なら簡単に入れるかと思って、姉の服を借りているんです。姉の方も面白がっているのか協力的で。結構うまくできるんですよ。それで、隠し扉の中に入ってから暗がりでこっそり着替えています」
突然のカミングアウト。これ、聞いてよかったのか……?
「写真見ますか?」
「み、見ます見ます!」
見せてもらった写真はどっからどうみても可愛い黒髪ギャルだった。
「他の人には秘密にしてくださいね」
祐太郎は口元に人差し指を立てた。
部屋に戻ると布団が四組敷いてあった。
「あたし、窓側がいい!」
寧々は一番窓側の布団に飛び込んだ。その様子を見てつるぎがお説教モードに入る。
「ちょっと寧々! お行儀悪いですよ」
「まあまあ、つるぎ。旅先くらいは羽目を外してもよいではないか。わしも小さい頃は布団に飛び込んだり、でんぐり返しをしたり、よくしたものじゃ。羽目を外すと言えばこんなものを用意したんじゃが、いるかの?」
そう言って杏奈が取り出したのはビール瓶だった。
「ちょっと、杏奈さん! さすがにお酒はだめですって!」
「ふふん。予想通りの反応で嬉しいぞ、真希。ほれ、ラベルをよく見るんじゃ」
真希はラベルに目を凝らした。
「『こどものビール』……?」
「そうじゃ! 見た目はビールそっくりじゃが、中身はフルーツ味の炭酸ジュースだから安心安全! これで酒を飲んだ気分だけでも味わえるだろう。わしはまた支部に戻るから、あとは若いもので楽しむんじゃな」
そう言って杏奈は出て行った。
「せっかく貰ったからみんなで飲む?」
「おう! 飲もうぜ!」
「どんな味か興味あります!」
「とか言って柚葉、本当に酔っぱらったりしてな」
「お酒じゃないんですから、大丈夫に決まってます!」
寧々ちゃんと柚葉ちゃんは乗り気みたいだ。
真希はつるぎが探してくれたコップにビール風ジュースを注いだ。ビール風というだけあって黄色い液体にシュワシュワと白い泡が立っている。見た目は本当に本物みたいだ。
お正月とか家族が集まった時にやってた乾杯の音頭ってどうだったかな。
「こほん! それでは皆さん、グラスを持って、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
私達は飲み会を始めた。
飲み始めてから一時間くらい経っただろうか。杏奈さんが用意してくれた二本の瓶は空になった。
「だーかーらー、ほんとにあたしは最強って呼ばれてたんだってぇー」
「たしかにー寧々ちゃんの能力の高さは知ってますけどぉー。こんな、ちいーさくて、かわーいい子にそんな異名つきますぅ? 最高の間違いじゃないですかぁ?」
……寧々ちゃんと柚葉ちゃんが完全に出来上がっている。
「つるぎ、本当にお酒じゃないんだよね」
「はい。成分表示もよく確認しましたがアルコールは入っていません」
「それでこれかぁ……」
二人は雰囲気で酔えるタイプらしい。
「真希!」
「真希ちゃん!」
言い争っていた二人が真希のほうを振り向く。
「「どっちが正しい(ですか)!?」」
「えぇ……」
もうこの偽酔っ払い達は寝かせたほうがいいか。
「はいはい、もう明日もあるし、歯磨きして寝ましょうね」
二人の背中を押して洗面所に連れて行こうとする。すると二人は真希の腰に抱きついてきた。
これって……私の能力が発動しちゃうんじゃ……?
「真希ぃ……『あたしほんとに最強って呼ばれてる時があったんだ……昔、十人くらいの仲間連れてケンカばっかりしてた。そこら辺の小学生の中じゃ負けなしだった……でも中学生になった時に転校生とケンカになって……そいつがすっげー強くてさ、ボコボコにされたんだけど、仲間は相手が強いって知ったら途端に逃げ出して。次の日あざだらけで登校したあたしを見ても知らんぷりしてたよ。まあ、あたしが強かったからつるんでただけで、あいつらはあたしのこと仲間なんて思ってなかったかもしれないけど。それからはもうケンカはやめたんだ。一人でただ強くなるために鍛えてた』」
寧々はつるぎのほうを見た。
「『だから仲のよさそうなお前ら見てたらムカついてきて……つるぎ、あの時はごめん。ひどいことばっかり言って。真希も、みんなにも、ごめん。だって羨ましかったから! 私が欲しかったものを持っているみんなが! 私も仲間に入れてほしい……!』」
つるぎは寧々の頭を撫でた。
「寧々はもう私達の仲間ですよ。だってあの日、私を助けてくれたじゃないですか。だからもうずっと、寧々は私達の仲間です」
「つるぎぃ……」
寧々はまた泣いてしまった。
「もう……『寧々ちゃんは泣き虫ですね……私は寧々ちゃんが仲間想いのいい子ってこと知っていましたよ。私は寧々ちゃんも真希ちゃんもつるぎちゃんも、さっくんも祐太郎さんも杏奈さんも神谷総監督も、みーんな大好きです……私はまだ頼りないですけど、みんなのことを守れるようになりたいですぅ……』」
二人を引きはがして何とか歯を磨かせ、布団に寝かせた。二人はすぐに寝息を立て始めた。
「寝ちゃったね……」
「ええ……二人がそんな風に思っていたなんて。寧々の過去も驚きました」
「能力で聞いちゃったのが悪い気もするけど……」
「いつか本人の意思で聞けたらいいなって思っておきましょう」
つるぎが私の目を見つめた。
「あの、真希はどうしてガーディアンを引き受けたんですか。朔が強引だったっていうのはあるかもしれないですけど、やめようと思えばやめるタイミングはいくらでもあったんじゃないですか」
前に朔にも似たようなことを聞かれたな。
「一言で言えば自分のため、かな。朔に声をかけられた頃は、ずっと続けてた剣道もやめちゃって毎日無気力に過ごしていたんだ。朔から話を聞いたときは、そりゃ最初は信じられないって思ったよ? でもこれが現実だって分かって怖くなった。無我夢中でマナンを倒して、その後に朔が言ったんだ。『僕らと一緒にこの世界を守ってくれないか』って。朔は剣を捨ててくすぶっていた私を掬い上げてくれたんだ。世界を守りたい。家族や友人を守りたい。それはもちろんそうなんだけど、私の心を救ってくれた朔を守りたい。そのために私の剣が役立つならこんなに嬉しいことはないよ。……こんなこと言ったらよくないかもしれないけど、今すごく幸せなの。大切な仲間がいて、大好きな剣をまた振れている。世界からマナンがいなくなった後もこの時間のことをずっと忘れない」
「そうだったんですね……私も皆さんと一緒に過ごす時間が大好きです。マナンを撲滅した後もずっと一緒にいられればいいのにって思います。どうなるかは、その時にしか分からないことですけど」
つるぎは私を見て微笑んだ。
「真希は朔のことが大好きなんですね」
「え!? そ、そりゃあ好きなのは好きだけど、そういう好きじゃないよ? 第一、朔とつるぎは相思相愛なんだから……」
ふふっとつるぎが笑う。
「そんな風に思っていたんですか? 私達の関係は大切な幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもないですよ。真希がこんなに鈍かったなんて……」
つるぎがわざとらしくため息をつく。
「つるぎに鈍いなんて言われたくないなぁ!」
あんなに朔の気持ちに気づいてなかったのに。
「それにね……」
つるぎが私の耳元に口を寄せる。
「真希になら朔のこと任せたいって思うんですよ」
思わず顔が赤くなる。
「まあ、そうなったら私という名の小姑がついてくるんですけどね。二人でせいぜい幸せになってください」
つるぎはいたずらっぽく笑った。
その後、私達も布団に入った。
「おやすみなさい、真希」
「おやすみ、つるぎ」
しばらくするとつるぎの寝息が聞こえたが、私はつるぎの言葉が頭を回ってなかなか眠れなかった。
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