初めてのチーム 4話

 真希は走って朔とつるぎのところまで追いついた。

 ……びっくりした。杏奈さんが変なこと言うから。

「真希、どうかしたか」

 朔が振り返って尋ねる。

「ううん! なんでもない」

「そうか。……ここが総監督のいる部屋だ。変な人ではあるが尊敬できる人だ。入るぞ」

 朔が扉をノックする。

「神谷総監督、大月です」

「入れ」

 中から声がした。

「失礼します」

 校長室のような部屋の中には、美しい大人の女性がいた。軍服に身を包み、腰には刺突用の片手剣である「レイピア」を差している姿はさながら女騎士のようだ。

「DAMの総監督、神谷蘭だ。チームでの初めての任務、ご苦労であった」

 この人がDAMの創設者か……

 神谷総監督は真希のほうに近づいてくる。

「真希、挨拶が遅くなってしまったな。改めてガーディアンを引き受けてくれたこと、礼をいう」

「いえ! そんな……」

 近くで見るとより美人なのが分かるなあ。佇まいも凛々しくてまさに組織のトップが似合う。

「ところで真希に一つ聞きたいのだが……」

「はい! 何でしょう?」

 神谷総監督は近くの棚から何かを取り出した。

「真希のために戦闘服を用意したんだが、どちらがいいだろうか? 私のお勧めはこの魔法少女タイプなのだが、メイド服タイプも捨てがたくてな……」

 見せられたのはパステルピンクのふんわりとしたミニスカワンピースと、黒と白のクラシカルなメイド服だった。

「えーっと……?」

 これはどういう状況?

「真希、言っただろ。総監督は変な人なんだ」

 朔はため息をついた。

「本部への入り口をあんな店につくったのも、ガーディアンの武器をどピンクにしたのもこの人だ」

 そうだったの!?

「だって、困ってる男の子の顔似たかったし、ピンクの武器って可愛いだろ」

 そう言って神谷総監督はフッと笑う。さっきまでの総監督へのイメージが音を立てて崩れ落ちていく。

「はあ……ここで文句を言っても聞き入れてもらえないのでもう言いませんが、真希へのその戦闘服は不要です。そんなもの着ていたら目立ってしょうがないし、ネットにあげられて晒し物になりますよ」

 そういえばマナンはほとんどの人から見えないんだよな。できるだけ目立たないように気を付けよう……

「ちぇ、朔のケチ」

「事実です」

 まるで大人と子供の立場が逆転しているようだ。

「まあ今回はあきらめるとして、せっかく来てもらったから『マナン可視化』の儀式をやってしまおう。朔、こっちへ来て」

 神谷総監督は朔をこちらに呼び寄せた。そして朔と額を合わせる。

「次は真希だ」

 神谷総監督は真希とも額を合わせた。

「これで儀式は終了だ。これから真希は朔がいることでマナンが見えるようになる」

「僕やつるぎはもともとマナンが見えなかったが、総監督に見えるようにしてもらったんだ。ただ、ガーディアンには体質的に負担が大きいから相性のいい指令官が仲介してマナンを見えるようにするんだ」

 そうだったんだ。じゃあもしかして、もうあのあんぱんはもらえないのかな。ちょっと残念。

「今日はこれで終わりだ。朔とつるぎは先に帰ってくれ。疲れただろう。ゆっくり休め」

「分かりました。……あと、絵理さんによろしく伝えてくださいと言われました」

「分かった。今度お店に顔をだす。ありがとう」

 二人は神谷総監督に礼をして部屋をあとにした。

 神谷総監督は真希に向きなおった。

「さて、真希。さっきのやりとりで分かったかもしれないけれど、私は人に能力を与えることができるんだ。そしてさっきの儀式で真希にマナン可視化とは別に能力を与えた」

 能力……

「何の能力を与えることができたか私にもわからないが、どうやら能力を受け取る側の願望が反映されるみたいだ。何の能力か分かったら私に報告してほしい」

「分かりました」

「それと、チームワークを高めるために近々3人で合宿に行ってもらおうと思っているんだが、そこで一つ頼みがある」

「何でしょうか?」

「朔とつるぎの関係を取り持ってもらいたいんだ。……二人はもともと幼馴染だったんだが、DAMで再会してからはあんな調子でな。お互いを大切に思っているのに上手く通じ合えていない。全く見ていてもどかしい。お節介なおばさんの頼みだと思って引き受けてくれないか」

 二人にはそんな関係があったのか……チームメイトになる訳だから私も努力するべきか。

「分かりました。できるだけやってみます」

「ああ、頼む」

 とりあえず家に帰ったら作戦を考えてみようと思った。

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