第1-3話「エアルドネルの王は、きっとあなた」

 □登場人物

 https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654753920140


 □本編スタート


 馬車に入った早苗は、その黒髪の女を見て固まる。


「生きていたのね」

 日本語で言われた。


心菜ここな、なのか……?」


 ◇


『ジャア、情報交換です! 私はカーミット。16歳で、イスラエルから!』


 栗色ミディアムヘアの少女が言う。滑り出しにアクセントのある英語だ。

 握手を求められるが、早苗は返さない。


『オレはマックス。フロリダからだ。19歳』

 

 早苗とララは続けて自己紹介をした。

 左側には、こちらをチラチラ見て、頬を赤くしているララ。

 右側には、先ほどから無口な黒髪ロング。その彼女に小声で訊く。


「……心菜、だよな?」

「どうでしょう」

「いや、心菜だ。多少相違点があるが、君は――」

「疲れてるの、話しかけないで」


 肯定も否定もされない。


(……別人なのか)


 彼女は、前世の恋人に、あまりにも似ていた。

 聞きたいことが多すぎる。

 だが彼女は、明らかに会話を拒んでいる。


 シーンと静まり返った中、手をポンとするカーミット。


『疲れてます? ドコかに寄りましょう。王国からお金貰ったので、食事でも――』


 瞬間、 ガタっと馬車が揺れ、無数の小銭が飛び出した。


『ウワー! 旅費が!! どこに落ちて――』

『82枚。小さいのが1枚、靴の中に』


 はい? というカーミット。

 早苗は視線を合わせず続ける。


『銀が6枚、銅が42枚、小さいのが32枚』

『ウワ! 本当に靴に入ってた!?』


 カーミットは、すべてを拾う。


『デモ、合計は80枚ですよ?』

『袋の中に2枚残ってる』

『ソンナ、一瞬見ただけ――うわあああ、本当だ!?』


 そこで、マックスが気づく。


『オレの縄も、パッと見ただけで解いたよな』

『アア、空間認知能力ってヤツですか?』


 そう言ったカーミットに、ジロジロ観察される。


『ウワー、いい顔。日本の俳優かアイドルのように見えますが……』


 前かがみでガン見され、居心地悪が悪い。

 ふと――


『――エッ、うそ。まさかあのサナエ!?』


 カーミットが、咄嗟に羊皮と筆を取り出す。


『一応。【8,612 × 3,224】 は?』

『27,765,088』


 計算式を書いた後、カーミットが続けた。


『アッテル! 本物だ。サヴァン症候群で、完璧な記憶力を持った天才科学者!!』


 だん、と彼女は立ち上がる。


朝霞あさか早苗さなえ! ノーベル賞受賞の日に、トラックに轢かれて死んだ世界最強の科学者!』

「……??」


 ほとんどの単語を理解できてないララが、こちらを見ている。


『本物ですね! アハハ! センパイ、ワタシにぜひご命令あれ! なんでもしますよ!』


 やめてほしいが、騒ぐカーミットは止まらない。

 ふと、腕がかゆくなる。


『………なんでもするの?』

『ハイ! エッチなこと以外なら』

『なら、清潔な服が欲しい。拾った服なんだ』

『コノ世界の基準だと、もう十分清潔な服ですよ』

『……あと石鹸と水。今すぐ全身を洗いたい』


 と、くすくす黒髪ロングが笑った。



 https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654657123317



『あんた潔癖症だから、大変ね。この世界には石鹸も、清潔な水もないわよ』

『あれ、ココナサン、知り合いですか?』


 そうかも? と答える黒髪。いや、その前に。


「やっぱり、心菜じゃないか……」

『そうかもね。ねぇ、あんたこの世界をどう思った?』

『……この世界?』


 早苗は、困惑した。

 だが前世の恋人であろう彼女に、答える。


『……未開の世界だ。無学で衛生概念もない』

『正解。悲惨さで言えば、この世界全体がホロコースト並みよ』

『……ココナサン。ワタシに刺さる例え、やめません?』

『でも事実よ。全ての街で虐殺と伝染病が。死に過ぎて、そのうち死者に祈りを捧げる人間すら残らない』

『つまり、歴史通りの中世か……』


 早苗は絶望した。どうしてこんな世界に……


『この世界は滅亡する。でもあんたなら、現代文明を作って世界を救える。そうでしょ?』

『……それは』


 だが途中で遮られ、カーミットに肩を掴まれる。


『――オオ、サナエサン!!』

『触らないでくれ』

『ワタシ、この未開な世界が嫌なんです! 現代文明つくってください!』

『……現代って、21世紀のことか?』


 たぶん? と頭を傾げられる。


『……なら約束できない。19~20世紀あたりならいける』

『ンー? どういう意味です?』

『車や通信機は作れる。複葉機で空も飛べる。スマホやジェット機はまだ無理』


 もちろん、今想定できる条件なら、の意味だが。


『か、神……!! やっと人間らしい生活が!』

「……???」


 ひとりだけ理解してないララに、カーミットが答える。何故か日本語で。


「このハンサム、1000年後の文明作ってくれるみたいです」

「えっと、どういウ……」

「人が空を飛んで、次は宇宙かなーって時代です」

「ええええエ!!?」


 ララに、熱のこもったまなざしを向けられる。


「きゅ、救世主さマ……」

「………」


 視線をそらして、心菜を見た。


「君の、あの研究はどうなった? 君の体は――」

「私は健康体よ」


 人差し指で早苗の口元を押さえる心菜。


「……わかった。あの『研究』を続けるのが、僕にとっての全てだ。その為に、この世界に近代文明を作る」

「なら、元の世界――21世紀に到達しないとね」

「……はぁ」


 見ると、ララはまだ早苗に熱いまなざしを向けていた。


 そんな中、馬車がガタガタ進んでいく。

 木材の車輪の為、誰もが腰を痛めていた。


 □心菜

 https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654786776790

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