第6話 とにかく誠実に
一晩考え今後の方針を決めた。
「ひとまずキャラ変だ。リヒトのままじゃセシリアルートには入れない。傲慢で不遜な態度を封印し誠実で愛嬌のあるキャラでいこう」
前世の俺は八方美人だ。その場に合わせたキャラなんぞいくらでも作り出せる。
「ただなぁ……」
この特性には問題があった。
「ある程度までは仲良くなれるけどその先まで行けないんだよな。結局いい人止まりだ。仲良くなってからもう一押し欲しい所だが……今は考えても仕方ないだろう。とりあえず仲良くなる事から始めよう。なにせ今の好感度はゼロだからな」
過去やらかしたリヒトの行いのせいでセシリアとはかなり距離というか壁ができてしまっている。それでもセシリアは婚約者という達立場上俺と仲良くしてきた。そこに恋愛感情など欠片もない。むしろ婚約破棄を望んでいる節すら見られる。まずはこの壁を取り払うため、俺は翌日から行動を開始した。
まず始めにセシリアの登校時間に合わせる。
「おはようセシリア」
「え? リヒト様? お、おはようございます。どうしたのですか? 今日はいつもより早いのですね」
「ああ。執事に頼んで公務を少し減らしてもらったんだよ。王子とはいえ俺もまだ学生だからさ。学生の本分は勉強だろう?」
「え、ええ。ですが学園の授業はリヒト様がすでに学び終えた範囲では?」
「まあそうなんだけどね。より完璧にするために復習しようかなってね」
「な、なるほど?」
俺はセシリアに尋ねた。
「ちなみにセシリアは今までの授業で何か問題はない?」
「私ですか? そうですね……特には」
「そ、そうだよな。だ、だが何かわからない箇所があれば尋ねてくれ。俺のわかる範囲で教えよう」
「そんな。私などのためにリヒト様の御手を煩わせるわけには……」
「ははっ、それくらいさせてくれ。と言うか……」
俺は周囲に誰もいない事を確認しセシリアに頭を下げた。
「なっ!? リ、リヒト様! なにをっ!」
「これまで冷たくしてすまなかった!」
「え?」
下げた頭を上げ、真っ直ぐセシリアを見る。
「俺はどこかで婚約者がいるという立場に甘えていたのかもしれない」
「甘え……?」
「ああ。何をしても婚約は覆らないだろうと婚約者である君を蔑ろにし過ぎた。本心を言えばだな、平民は恋愛して将来の相手を決めるだろう?」
「は、はい」
「それが生まれた時から相手が決まっててさ、子どもだった俺は親に反抗してみたくなってたんだ。どうにもならないなら嫌われてみたらどうなるんだとか考えてたんだよ」
そこでセシリアは昔を思い出したのか厳しい目を向けてきた。
「……ではなぜ今さらあんな事を。望み通り今の私はリヒト様になんの興味もありませんが」
「それはだな」
「きゃっ」
俺はセシリアの手を取り抱き寄せた。
「な、ななな何をっ!?」
「考えた結果、将来王妃となるために己を磨いてきたセシリアを失う事は国にとって損失になると気付いたんだ」
「は、はい?」
「今までの事を心から謝罪する。今は俺の事を嫌いでも構わない。そして、これまでの償いとして俺にできる範囲でセシリアを助けていく」
「リヒト様が……私を助ける……?」
「ああ。例えば……友人作りとかな」
「うっ」
セシリアは幼い頃から俺との婚約が決まっており、同年代の令嬢から疎まれてきた。そのため真に心を許せる貴族の友人がいない。俺はそこに光を見出した。
「べ、別に友人など……」
「そうか? 俺のパーティーでは壁の花」
「くぅっ!」
「他のバーティーはいつも欠席」
「はぅっ!」
だいぶ効いているようだ。ここでダメ押しだ。
「令嬢達の中にも俺ではなく国を愛する者がいる。その令嬢達とセシリアを繋げる事こそが将来の国のためになると俺は確信している。確かにクラスには友人もいるだろう。だが卒業後はそれぞれの道に進みずっと一緒というわけにはいかなくなる」
「うぅぅ~っ!」
「ぼっちは辛いぞ? このままだと友人の一人もいないまま王宮に入り俺や世話係としか会話ができなくなる。そんな生活が望みか?」
セシリアは思いっきり頭を振った。
「そ、そんな生活は嫌ですわっ!」
「そうだろう。俺もセシリアにはそんな生活を送って欲しくないんだ。セシリアには毎日笑顔でいて欲しい。俺達は将来国の顔になるんだ。そこに笑顔がなければ民も不安になろう。今からでも遅くない。俺がセシリアを笑顔にさせる。そうしたら俺を認めて欲しい」
セシリアはかなり迷い小さな声でこう言った。
「わ、私もパーティーで一人ぼっちは嫌でした。皆が私に嫉妬し、リヒト様に群がって落とそうとしている光景を見るのも嫌でした。そんな方々と友人など無理です。だから……本当にリヒト様に感心があるのではなく、国を愛する者となら友人になりたいと思います」
「大丈夫、俺に任せてくれ。今週末学園にある俺の屋敷で細やかなパーティーを開く。そこで顔合わせをしよう。皆ちょっと変わってるけど根は悪い奴らじゃない」
「……変わってる……ですか?」
「あ、ああ。そこは当日になればわかる。どうだろう。俺の開くバーティーに参加してもらえるだろうか」
セシリアは将来の孤独を思い浮かべているのかかなり悩み首を縦に振った。
「わかりました。もしそのパーティーで私に心許せる友人ができたらリヒト様を許します」
「ありがとう、セシリア。そしてこれまで本当にすまなかった。こんな事で全て許してはもらえないだろうが提案を受けてくれて感謝するよ」
それから普通に授業を終え、俺は屋敷に戻りセシリアの友人になれそうな令嬢達に招待状を認めた。
「……大丈夫だよな。こいつら全員変人だけど俺と恋仲になろうって奴はいないし、あったとしても願い下げだ。はぁ、こんな奴らが将来国の重要なポストに就くかと思うと胃が痛くなる。何せエンディング後の世界は俺でも知らないんだからな」
俺は胃薬を片手に筆を進めるのだった。
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