セシリア・クリアベルルート
第4話 セシリア視点
私の名はセシリア・クリアベル。ここフェイルハウンド王国において伯爵位を賜っている父【アーガス・クリアベル】の長女です。
父と陛下は学生時代から交流があったそうで、自分達に子が生まれたら将来結婚させ家族になろうと昔から約束を交わしていたそうです。
そうして陛下にはリヒト様がお生まれになり、父には私が生まれました。
そう、私達は生まれながらにして将来が決まっていたのです。
私は幼い頃からリヒト様に相応しい妻となるよう様々な教育を受けて育ちました。私は両親から「次代の王妃として己を高めなさい」と常々言われ、私も両親の期待に応えられるよう努力してまいりました。
そんな私がリヒト様と初めてお会いしたのは共に六歳の頃でした。
リヒト様六歳の生誕祭に招かれ、両親と王城に上がり、挨拶したのです。
ですがリヒト様は私に興味を抱かず他家の令嬢を目で追っておりました。私はもう一度リヒト様に挨拶をしました。
「うるさいな。お前は親が決めた婚約者なだけだろ。結婚はしてやるけど誰を正室にするかは僕が決める」
「そ、そんな……っ! 私は将来リヒト様を支えられるようにと日々努力を──」
「努力? そんな事は当たり前だ。凡人は努力しなければ才ある者には届かない。僕は努力しなければ僕についてこられない凡人より才ある者を王妃に迎えるつもりだ。選ばれたきゃ才ある者達を努力で追い抜くんだね」
「あ……」
そう私に告げリヒト様は美少女と有名な公爵家の次女を踊りに誘われていました。私の事など他の有象無象と同じように扱われたのです。
私は傷心したまま両親と共に屋敷へと戻りました。
そんな私を慰めるよう、父が優しく語り掛けてきました。
「セシリア。リヒト様が嫌いになったかい?」
「お父様……。嫌いも何も、リヒト様は私など目にも映っておられないようでした。どうやら私は婚約者として相応しくないようです」
「……リヒト様はな、生まれつき努力をする事なく何でもできてしまってな」
父の口からリヒト様について語られます。
「剣術、魔術、戦術に政治とあらゆる方面において既に父親を凌駕しているのだ。そのせいか周りが王子の機嫌ばかりを伺い忠告する者がいなくなってしまった。そうして王子は自分こそが正しいと思うようになり、歪んでしまわれたのだ」
「……」
この時私はリヒト様の傲慢さについていけないと思ってしまいました。
「王子はまだ幼い。これから己を見直し変わられるかもしれん。若さ故の過ちと思い目を瞑る事はできないか?」
「もちろんできます。ですが私に目が向かない事にはどうしようもできませんわ」
「向かないなら向くように努力すれば良い。他家令嬢など遥かに凌駕するだけの力を手にするのだ。だが汚い手は使うな。私も王も清廉潔白を心情とし生きてきた。他者を蹴落とすのではなく乗り越えていくのだ」
父の言葉はいつも正しい。ですが幼い私にはそこまでしてリヒト様との結婚は望めませんでした。それほど最初の印象が悪かったのです。リヒト様は性格以外は完璧だと思ったのです。
しかし家長の言葉には従わねばなりません。私は自分の思いを殺し、父の言葉に従い己を高めていきました。
そして十歳。再びリヒト様と会う機会が訪れました。再会したリヒト様はさらに男前になられておりました。
「君は確かクリアベル伯爵家の……」
「長女セシリア・クリアベルです、リヒト様」
「ふむ」
リヒト様の値踏みするような視線が私に向けられました。
「以前会った時は悪かった」
「え?」
「君の可能性を正しく図れていなかった。まだ拙いが努力の跡は見受けられる」
「あ……っ」
リヒト様の手が私の顎を持ち上げ顔が迫りました。
「最初は決められた相手と結婚などしたくなかった。僕の結婚相手は僕の意思で決めるといきまいていた」
「リ、リヒト様……っ」
「君は僕のために沢山努力をしたのだろう。努力する事もまた才能だ。僕は君を認めるよ。僕と結婚したいならもっと努力しろ。それが僕と結婚するために君に残された道だ」
私はこの言葉にドン引きしていました。数年経ってもリヒト様の態度は変わっていませんでした。ですがリヒト様との婚姻は父の望み。私はこう告げるしかありませんでした。
「心得ております。これからも日々己が身を高めリヒト様に相応しい淑女になれるよう邁進いたします」
「……ふん、つまらん」
リヒト様が私から離れます。
「ここで落ちるようなら捨てていたのにな。首の皮一枚繋がったな。よく覚えておけ。お前はまだ数いる婚約者の一人でしかないんだからな」
「承知いたしております」
これが私とリヒト様の幼い頃の思い出です。普通ならばこの様な扱いをされて結婚しようなどとは思わないでしょう。ですが私は貴族の娘。父が望むならその通りに動く義務があります。私は自分の感情を制御していく術を身につけていくしかありませんでした。
そして十五歳。私はリヒト王子と同じ学園に通い、側で過ごす事になりました。そこで再会したリヒト様は全く変わられてはいませんでした。
ですがある日、珍しく授業中にリヒト様が居眠りをされ、私達近くの者が声を掛けました。
そこからどうもリヒト様の様子が変わられました。正しくは変わったと言いますか、演じられたものだと思うようになりました。
そして変わられたリヒト様に私は口唇を奪われてしまった。決して嫌だったわけではありません。むしろ私が選ばれたのだと思ったのです。
しかし急に優しくされてわけがわからなくなった私は混乱し気を失いました。
私は気を失いながら思っていました。
「これは夢。あんなに無碍にされていた私がリヒト様に選ばれ愛されるなどあり得ません。きっと起きたら寮のベッドでいつも通り目を覚ますのでしょう」
私はまだリヒト様を好きではありません。ですが変わられたリヒト様ならと淡い期待を覚えてしまいました。そして願わくばあの口付けが夢ではなく現実ならと期待し、目を開けるのでした。
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