幻想戦機ヴァルキリア

小鳥ユウ2世

日本支部編

0:日本支部 ~胎動~

 ドラゴン、フェニックスそしてスライム......。世界にある伝承や物語に登場する生物が突如として出現し、その猛威を振るっていた。彼らになす術もなく、多くの諸外国の軍隊は敗北していき、人類は未曽有の恐怖に打ちひしがれていた。

 国際連合はこの事態を重く見て、新たに国境を越えて脅威対象の調査及び排除を目的とする財団を設立した。名前は、Foundation of Anti Invasive Creature(幻想怪生物に対抗するための財団)の頭文字を取ってFAIC《フェイク》とした。フェイクはドイツに本部を置き、日本、アメリカそしてオーストラリアの3か所が大きな拠点だった。


 その中でも日本支部の指令であるリュウジ・ヤマモトは、対象排除を目的とした作戦を事案した。そのため彼は今日も正体不明の脅威に頭を悩ませながら、霞が関地下に新設されたフェイク基地内指令室のパソコンに送付されていた調査資料を見つめていた。そしてただ、一人ぶつぶつと画面に語り掛ける。


「奴らはどこから、そしてなんのためにやってくるのか......」


パソコンに映る調査資料には、ドイツに初めて出現したドラゴンについての資料や、群生のオークについての資料がつらつらと並べられていた。リュウジは、その内容にあった一部分にひっかかり、あげくには呆れ笑いを繰り出してしまう。


「ふふ......。『現出したこれら生命体を、以降【ファンタジア】と呼称する。』ねぇ。本部の人間も凝った名前を付けたもんだ。日本的に言うなら、怪獣......。いや、幻想生命体ってところか......」


パソコンから離れ、椅子の背もたれにもたれかかって自慢のオールバックの髪を掻き毟る。しばらく天井を見上げていると、一人の財団員が指令室のドアをノックした。


「指令、陸自からの報告書です」


財団員から手渡された資料は、本日9月7日10時頃に出現した人型のファンタジアに関する自衛隊からの報告書であった。フェイクは、政府や自衛隊に睨まれながらも協力関係にあったのだ。


「出現箇所は昨夜未明東京駅周辺、そして今朝方8時から9時頃にて日比谷公園......。こっちに向かってたりしてないか? 特定人物周辺には複数の死体と、血痕あり。対象の体長2m。白いワンピースと白い肌、白い麦わら帽のようなシルエット......。まるで八尺様だな......。日本には、日本由来のファンタジアが出現するのか?」


 フェイクは元より数十もの支部を設けていたが、どれもファンタジアの侵攻に間に合わず解体され、今活動できるのはドイツ本部と日本支部のみとなっていた。つまり、世界の命運はこの二つの国に重くのしかかっている。その重責も承知でありながらも、リュウジ指令は眉間にしわを寄せずに希望を持ち続けた面持ちでいた。だが、報告書を渡した団員はずっと眉間にしわを寄せて暗い表情でいた。


「今となってはわかりませんよ。オーストラリアも、アメリカも解体されちゃいましたしね。でも、うちって本部の次に多いですよね。ファンタジアの活動......。もう、嫌になっちゃいますよ」


上司の前でありながら、団員はため息をついてしまう。団員はすぐに気づいて背筋を伸ばして謝意の敬礼をすぐに取ったが、リュウジは気にせず、その手を下ろさせた。彼には、まだ策があったのだ。


「そう言うな。我々にはヴァルキリア計画がある。最後の切り札と言うべきかもしれんが......」


「人体をファンタジア同等の力を与えるっていう強化スーツの事ですか......? たしか、強化スーツのテストパイロットには指令の姪御さんのサクラさんが起用されているとか」


財団員は怪訝そうな口ぶりを見せると、指令は呆れた顔をしながら立ち上がる。


「私だって、初めて知ったさ。成人とはいえ、まだ彼女も18だと言うのに......。それでも、彼女の身体能力は適合者として申し分なかった」


「18!? ご両親や本人の了承があってのことですよね?」


「兄は、私がいるから問題ないと踏んだんだろう......。なんなら、自分の目で確かめてみるかね? 今、確かβ版の最終調整をしているはずだ」


 そう言って、指令は財団員の一人と指令室を出て、スーツのテストをしている研究室へ向かった。そこには、白衣を着た研究員が数名、スーツのテスターである女性に群がっていた。すると、指令を見つけた白衣でゴーグルの付けた女性が一人、指令に気付いて挨拶をしに向かって来た。


「指令、お疲れ様です。ご覧の通り、ヴァルキリアスーツはほぼ実戦段階に移っています。いま、スーツ転送機の最終チェック中です」


「そうか。少し、試験者と話をしたい」


「かしこまりました。サクラさん、指令がお呼びですよ!」


女性職員が大声で呼びつけると、奇妙な腕輪をつけた学生服の女の子がピンクの髪の毛を揺らして、指令の元へ歩み寄った。


「被験者を引き受けてくれてありがとう。サクラ」


「いえ。社会で何の役にも立たない私に、チャンスをくれた叔父さんには感謝してます......」


サクラは苦笑いを浮かべる指令に近づいてお辞儀をする。リュウジ指令は、自分の知らぬ間に、財団が行った様々なテストに合格して見事ヴァルキリアスーツ試験機のテストパイロットとなったにも関わらず卑下する姪を激励する。


「そんなこと言うな。テスターの座は、君が勝ち取ったんだ。後、ここで私のことは、指令と呼びなさい。では、君たちの成果を見せてくれ」


そういうと、リュウジ指令はサクラから離れていった。同じように研究者も距離を取り始めた。すると、彼女は左腕につけていた機械的な腕輪のボタンを押す。次の瞬間、彼女の周りに装甲が着いていき、最後にはアイドルのようなドレスとメカニックなデザインが融合したかのような外装へとなった。


「これが、ヴァルキリアスーツか......」


 指令が連れてきた財団員が感心していると、スーツの研究をしていた財団員の一人が指令とその財団員に大きめのパッドを見せてきた。そこにはスーツの性能についての理論式と設計図がつらつらと記されていた。


「はい。ファンタジアのコアを動力にしているため、彼らと同等の身体能力まで向上します。理論上は、平均女性の30倍ほどの能力値になりますが、彼女の元々の数値が高いので、それ以上かと......」


「御託はいい。サクラ、力をみせてくれ」


指令がそういうとサクラは、目の前の何重にも重ねられたコンクリートブロックを瞬時に破壊してみせた。


「なるほど、これはすごいな。だが、この生足の出る構造はどうにかならなかったのか?」


「これは設計通りですよ指令! メカニカルな構造の下に見える肌こそ、このヴァルキリアスーツの魅力です! 要はメディア受けです」


指令は頭を抱えていると、警報が鳴った。急いで指令とサクラが管制室オペレーションルームへ急ぐと、大画面に表示されたマップに青い光が移動しているのが見えた。


「ファンタジアです。日比谷K3地区に出現し、活動している模様。さきほど陸自から報告のあったシルエットと一致しています! 対象はG区......。どうやらこっちに向かってるようです! どうしますか?」


「全員、第一戦闘配備! Jアラートでいいから近隣住民、通行人の避難を促せ! 政府には私から後で報告する......! サクラは実戦を考慮してスーツ着用の元、現場へ急行してくれ。だが、無茶はするなよ。でないと、兄貴とお義姉さんに怒られる」


「はい、指令」


 そう言うと、サクラはヴァルキリアスーツを着てG区へと移動した。都内近く、政治家やサラリーマンの歩く道には、一人の女性と死体の山があった。死体の山はどれも、口元がパックリと刃物のようなもので割かれていた。


「と、止まりなさい!」


サクラは、遠くにいる彼女を警戒してそのままの距離で見つめる。さらに、臨戦態勢となって構えていると白い服の女性はこちらを向きながら答える。


「私、キレイ?」


「く、口裂け女?」


「そうやって、みんな同じことを言って私を避けていく......。私は口裂け女じゃない! アラクネーよ! もっと私を見て? 私を見て!私を見て。私を見て。私を見て私を見て私を見て! 私を、私を見ろーーーーーー!!」


 白い服を着た女性の背中から虫の脚のようなものが生えてきたかと思うと、瞬時にその細い脚を、サクラの胴体へ鎌のように薙ぎ払う。サクラは優れた動体視力と運動神経でのけぞり、バック宙を決めた。彼女は地面に足が着いたと共に、口裂け女風のアラクネー・ファンタジアの方へ走りこみ、顔に蹴りを入れようとした。だが、その蹴りはアラクネーの白い腕に阻まれる。


「お転婆な子。私がしつけてあげる!」


瞬間、美しかったアラクネー・ファンタジアの顔は、蜘蛛のような複眼と、大きく開いた口という醜い顔へと変貌した。さらに、サクラの体を易々と持ち上げては、その大きく開いた口でニタリと笑う。


「大したことないわね。これじゃ、すぐにこの次元は私たちのモノね」


「な、なんですって!? き、きゃああ!?」


アラクネー・ファンタジアはサクラを地面に振り落とした。

その瞬間、強固であるはずの背中のスーツのパーツにひびが入ってしまう。

さらに、スーツが赤く点滅し始める。


「嘘でしょ!? もう活動限界なの?」


サクラはスーツの研究者から、スーツの活動限界が、状態に限らず常に5分30秒00だということを常々指導されていたことを思い出した。そして、その限界時間1分前に必ずスーツが赤く点滅することも......。苦虫をかみしめるような顔をしてアラクネー・ファンタジアを睨みつけていると、彼女のイヤホンから連絡が入る。


『大丈夫か! サクラ!?』


声の主は指令だった。ただ、その声は指令としての冷静さはなく、親族を心配し焦る叔父に戻っていた。指令は、オペレーションルームで片膝をつく彼女を見つめるほかなかった。それでも、サクラは指令たちの心配をよそに戦意に満ちた顔で立ち上がる。


「サクラ。一度撤退して、態勢を立て直すんだ! そのままではスーツどころか、君自身が持たない!」


オペレーションルームの指令から投げられる言葉はサクラも理解していた。

だが、彼女は理論や正論よりも自分の信念と正義を疑わずに立ち向かう。


「ここで逃げたら、被害はもっと増える! 72時間も待ってられない!」


『サクラ! サクラ!! 撤退し......』


サクラの一方的な遮断に指令は机を叩くも、サクラはそのことなど知ったことではない。彼女は、アラクネー・ファンタジアの元へひた走る。


「絶対にやれるはず! みんなのためにも、こいつをここで倒してやる!!」


白い服の女、アラクネー・ファンタジアは絶えず口から糸を吐き続けていた。

糸をジャンプやスライディングでかわしながら、確実に彼女の元へと向かっていく。


「無駄よ。無駄、無駄。私たちは絶対的な存在。人間には勝てない。そうデザインされているの。安心して殺されなさい。悪いようにしないから」


「そんなの、やってみないと分からないじゃない!!」


サクラは一気に飛び上がり、足に全体重をかけるように飛び蹴りをする。

スーツの活動限界が近いも、彼女は全身全霊とスーツのエネルギーを自分の右足に託した。


「おりゃああああああああああ!」


「ぎゃあああああああ!!」


彼女の右足は、アラクネー・ファンタジアの防御態勢を崩し、さらにその頭部さえも破壊した。彼女は爆発四散し、サクラの背後に炎が燃える。


「はぁ、はぁ......」


ボロボロになりながらも、サクラはガッツポーズを孤独に掲げる。人通りの多い場所のはずなのに、今日は閑散としていた。サクラはすこし足を引きずりながら


 なんとかして基地へ戻ると、安堵したのか、サクラは膝から崩れ落ちていく。

その姿を見つけたリュウジ指令は、急いで駆け寄り、サクラを抱きかかえた。


「君って子は、本当に......。本当によくやってくれるよ」


指令はサクラの寝顔に笑みをこぼしつつ、髪をやさしくなでる。

そして、指令はサクラを抱えて医務室へと向かっていくのだった。












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