閑話

第32話 認識

 一方。


 教会内の地下室に未だいる景梧けいごは動けなくなった純汰じゅんたに呆れつつ、調査を開始していた。


(マーリン候補と本来のガラハッド? モノロエは言葉を濁したが……もし空席が出来たのだとしたら、その補充はどうする? 座から降りたということは、つまり自死したんだろう。それはこいつらにとって想定の範囲か? もし、想定外だったとしたら、マーリン候補という連中から選んだ可能性が高いな)


 そこまで思考を巡らせてから、純汰を視界の隅に置く。様子を探るためだ。当の彼はというと、ようやく動けるようになったらしい。景梧の元へと少しづつ寄って来て口をゆっくりと開いた。


「あの……お兄さん。僕、思ったのですけど……お兄さんの弟さんはどんな方だったんですか……?」


 恐る恐る尋ねる純汰に対し、景梧は静かに語り始めた。


「そうだな……俺より陽キャで、お勉強方面では天才だったぜ? まぁそれ以外は抜けてるというか、お花畑野郎だったがな」


 どこか闇を感じさせる物言いに、純汰の瞳が揺れる。それに気づかないふりをして、景梧は話を続ける。


「ま、色々思うところはあるが……世間的に言うなら、良い奴だったぜ?」


「そう……ですか……」


 それ以上会話は続かず、沈黙が支配した――その時だった。


 『はーい! いよいよ三人目! 脱落者の紹介だよー! 今回の脱落者は、ガラハッド卿もとい新居聖斗にいまさと君でしたー! いやー彼の奮闘はなかなかのものだったんですけどねー? やっぱり……おっと! 口を滑らせるところでした、危ない危ない! それじゃあ、シーユー!』


 あの男性のアナウンスが響いてきた。


「また……犠牲者が……!」


 純汰の悲痛な声とは対照的に、景梧は警戒心をあげる。嫌な予感がしたのだ。そして、それは的中した。


 宙づりの棺の内の一つが、白く輝き始めたと同時に何かが中に入れられた音がする。


(なるほど? おおむね、回収した遺体を納めた感じか? しかし……ふむ。この棺、よく見りゃごっついパイプが繋がってんな? これで遺体を入れてんのか。……きめぇな)


「な、何事ですか!?」


 音に驚き声をあげる純汰に、先程の推測を伝えれば彼は顔を更に青くした。


「開けるぞ。手伝え」


「え?」


 先程音がした棺に向かって景梧が歩く。それで流石に察したらしい純汰は、息を大きく吸うと追いつき、景梧とともに棺を開けた。


 中にはやはり、遺体があった。水色の髪をしたローブ姿の青年を見て、景梧は確信した。


「やっぱり。本来のガラハッドの役割の奴が死んだから、マーリン候補とかいう連中から選んだってわけか? というと――マーリンは誰なんだろうな?」


(どんな役割を担う? どういう状況にいる? ちっ、情報もだが謎も増える一方だな)


 思わず舌打ちをすれば、純汰がまたも怯えを見せる。その様子を認識しつつ、


(コイツが本当に殺し合いを止めたいお花畑君なのかどうか、見極めさせてもらうぜ?)

 

「にしても、見たことねぇツラだな。俺達と出会う前に死んだ、か」


 景梧が話を青年、聖斗に変えると純汰が震える声で指摘する。


「あの……この方はどう……その、お亡くなりになられたのでしょう?」


「見たところ、斬り裂かれたとかじゃなさそうだがな」


 それだけ言って、景梧も純汰も黙り込む。


(例のペンダントはねぇし、甲冑もねぇ。それでいて損傷もねぇとなると……騎士の能力、か?)


 そう推測を立てると、景梧が純汰に声をかける。


「おい、てめぇは能力ちゃんと把握してるんだろうな?」


 カマをかける景梧に対し、純汰が目を瞬かせながら答えた。


「はい、しっかりと。でも……明かしてはいけないとティティスさんから言われているので……すみません」


(魔女の言うことも聞いちゃうイイ子ちゃんってわけか? それとも……)


 疑心を持ち、警戒しながらも純汰に手伝いをさせることにした。この地下室の調査を――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る