第6話 絶対に許さないからなあああああ!!!

 


「ふい~。こんなものかな」


 オレは薬草採取の依頼をこなすために街の外に来ていた。

 この辺りは比較的モンスターも弱く、数も少ないため薬草採取がはかどる。


 というかオレは召鬼道士の修行の時にモンスター狩りまくっていたから今更低ランクのモンスターの一匹や二匹出てきたところで何とも思わないのだが。



 とはいえEランクの冒険者がいきなりモンスターの素材を取ってきたらまた波風を立ててしまうだろう。

 隠し事がある以上、目立たないに越したことはない。



 と、言うことで黙々と薬草を摘んでいた。


 かごいっぱいに摘まれた薬草、およそ三十個。

 依頼の個数は十個。



 明らかにオーバーしているが、まあ余った分は売るなりポーションにするなり使い道はたくさんある。

 それに掲示板にはもう何個か薬草採取の依頼が来ていたはずだから全てギルドに持って行ってもよい。



 陽も傾いて来たし、そろそろ戻ろうか。

 宿も取らないといけないし。


 オレは立ち上がって振り返る。


「ん?」


 街に戻る道の木陰に三人の輩がたむろしている。



 あれは……確かギルドで見かけたコンビニのヤンキーさん達ではないか。


 今度はこんなところでたむろしているのか。


 と思っていたらあっという間に囲まれた。

 その顔はそろって意地の悪い笑みを浮かべている。



「よ~お坊ちゃん」

「僕~召鬼道士しょうきどうしなんでちゅか~。すごいでちゅね~ぇ」

「ぎゃはははは! そりゃあカッコつけに決まってんだろ。こんなチビ、召鬼道士どころかまともに戦うことすら出来ねーって!」


 何が面白いのか三人は笑い転げている。

 箸が転がっても笑えそうな勢いだ。


 ……ははーん。若いねぇ。


 恐らくだが、オレをおもちゃにして遊びたいのだろう。

 そう予想している間もおちょくりの言葉を投げかけてくる。



 だが生憎とオレの精神年齢は君達よりも上だ。

 

 見た目は子供、精神は中年! てね。


 オレはちょっとやそっとの煽りじゃあ何も届かないぞ。


「お黙りでちゅか~?」

「帰って母ちゃんの乳でも吸ってな!」

「ていうか、こんなちっせぇ奴が『弓使アーチャーい』かよ! 身長足りなくねーか??」


 ぎゃはははははと下品な笑い声が森に響く。


「弓持ったら引きずっちゃうでしょ? それともお子様用の弓でモンスターを倒すつもりなのかなぁ?」

「おっ前、そこはあれだろ。召鬼道士の力でぱぱーっと解決じゃんよ。そこは」

「だっははは! ちびっこ召鬼道士様~。あっはははは」



 こ、この野郎。

 黙って聞いていれば人のコンプレックスを刺激しやがって!



 オレは怒った。

 それはもうものすごく。


 怒りでプルプルと震え、顔が熱くなる。



 いや、落ち着け。

 ビークール、オレ。

 相手はまだ十代の若造だ。相手にするな。


「弓を使うんじゃなくて、弓に使われると書いて弓使いってか!!」

「「「あっはははははは」」」



 くそが。

 もう許さん。



「来たれ」


 オレは理性を手放し影から父さんを召喚した。


 途端に周囲に広がる悪臭。

 そして不気味な気配が森を支配する。



 目の前の三人もそれに気が付いたようで辺りを見回している。

 だがもう遅い。



 貴様らはオレを怒らせた!

 小さい小さい連呼しやがって!!

 これでも三年前から4cmは伸びたんだぞ!!


「お前らはオレの敵だ」


 オレの影から腐った死体の腕が伸びる。

 ヤンキーの内の一人の足を掴んだ。


「ひっ、ひい」

「な、なんだよこれ!!」

「お前! 何をした!?」


 ヤンキーたちは今にも泣きそうに足元を見ている。

 オレはそれでもかまわずに神通力で周囲の枝を手折りヤンキーたちの周りに浮かべる。



 フォン、フォン



 独特な音を立てていくつもの枝が周囲に浮いている。

 その先端は全てヤンキーたちに向いていた。


 彼らは逃げようにも仲間の一人が父さんに掴まれていては逃げるに逃げられない。



 父さんが影から上半身を出してくる。


「「「ヴ、ヴワアアアアアアアアア!!!!!」」」


 影からいでしこの世ならざる者。

 腐り果てた肉は父さんが動くたびにボトリと剥がれ落ちる。


 捕まれた一人が父さんの腕を振り払おうと必死に足を振るが、父さんは掴んだ足は決して離さない。

 それどころかメキメキという音を立ててより足を掴み上げた。



「い、いてえええええ!!離せー!!」


 捕まれた当人は必死に叫ぶ。


 残りの二人はその一人だけを置いてついに逃げ出した。

 だがそうは問屋が卸さない。


 彼らの行く手には母さん(略)が立ちはだかる。


「「ヴワアアアアアアアアア!!!」」


 突然腐った死体の姿を見せられた二人はのけぞり、そのまま後ろに転んだ。



「君達、さっきオレのことを何と言った?」

「ひ、ひい」

「ゆ、許して」

「っやだやだ。お願い」


 オレは怒りのままに睨んで見せる。

 三人はそれだけで震えあがり抱き合っている。


「オレがチビだって?」

「い、言ってない!!」

「何にも! 言ってません!!」

「断じて!」


「いいや、言ったね」


 オレは地面に転がっている三人に目線を合わせるためにしゃがみ込むとほほえむ。


 こいつらは確かにオレの逆鱗に触れた。

 だから許さない。



 絶拒だ。

 断じて許さないからなああああ!!!



 オレはカっと目を見開きスイっと手を上げる。

 宙に浮かんでいた無数の枝が彼らに狙いを定め、固定された。


「『口はわざわいの元』っていうだろう? ……ああ、こっちだと分からないか。まあいいやとにかく自分の行いには責任を持ちましょうねってことで」


 言いながらオレは手を振り下ろす。

 無数の枝が彼ら目掛けて飛び出した。


「「「ぎゃあああああ!!!」」」


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