第42話:指導方針②

「さて、次はカイトだね」

「は、はい!」


 真面目な性格のカイトは、リックとアリサの指導が終わるまで黙って見ており、声を掛けられると元気に返事をしてくれる。

 最初こそ反抗的な態度だったカイトも、今となってはマギスを尊敬する生徒の一人になっていた。


「僕の動きを先読みして魔法で動きを阻害したのはよかった」

「ありがとうございます!」

「そのあともよかったよ。最後の最後、決めるところまでイメージしていたからね。だけど――」


 褒めるところはしっかりと褒めていくマギスだったが、当然ながら指摘するべきところも伝えていく。


「決めるべきところで決めきれなかったあとのことまでは考えていなかったんじゃないかな?」

「それは……はい、その通りです」

「やっぱりね。ティアナが決めきれなかったあとは、誰も積極的に動こうとしなかったからね」


 マギスはティアナを投げ飛ばしたあとも模擬戦と続けるつもりだったが、誰一人として動こうとしなかった状況を見て模擬戦の終わりを告げていた。


「まあ、あれが決まらなかったのは僕だからであって、ほとんどの相手には通用しただろうね」

「ですが、相手が先生だと分かっていながらのあれでは意味がありませんでした。精進します!」

「カイトならできるはずだよ。それと、カイトの槍術はすでに一定の実力まで到達している。その歳で本当にすごいことだよ」


 目の前でカイトの槍術を見て、受けたことで、マギスは彼の実力を把握できていた。

 同年代で見れば間違いなくトップクラスの実力者だろう。


「だけど、実力があるが故に今の槍では実力を発揮しきれていないとも言えるね」

「実は、その通りなんです。あまり強く振ってしまっては柄にひびが入ったり、折れたりすることもあって……」

「だと思ったよ。というわけで、これを君に渡したいと思う」


 そう口にしてマギスが取り出したのは、柄から刃までが一つの金属で作られた美しい槍だった。


「サンズスピア。これを持ってみてくれないかな」

「はい!」


 目を輝かせながらサンズスピアを受け取ったカイトは、すぐに驚きの表情に変わった。


「……ものすごく、手に馴染みます、先生!」

「実力に見合った装備はとても重要だからね。気に入ってもらえてよかったよ!」

「はい! ありがとうございます!」


 嬉しそうにサンズスピアを握りしめ、見つめているカイト。

 そんな彼を微笑ましく見つめていたマギスは、次にオックスとピピへ視線を向けた。


「さて、次は魔導師の二人だね。オックス、ピピ」

「よ、よろしくお願いします!」

「お願いするのー」


 緊張している様子のオックスとは異なり、ピピは普段通りにおっとりと答える。

 真逆な性格の二人にクスリと笑みを浮かべながら、マギスは口を開いた。


「二人とも魔法の発動速度が向上しているし、努力しているのが目に見えて分かった。本当にすごいね」

「あ、ありがとうございます!」

「えっへん! なのー」

「だけど、もう少し自分たちで考えて魔法を使ってみてもいいかな」


 現状、オックスもピピも、カイトの指示を受けて魔法を使っている。

 これが模擬戦だからそれでも事足りているが、魔獣との戦いになったらそうも言っていられなくなる。

 常にカイトが近くにいるはずもなく、自分たちで状況を把握して魔法を使わなければならない。


「でも、僕たちは後衛だし、勝手に魔法を使ったら前衛を巻き込んでしまいそうで……」

「ピピもなのー」

「オックスはそうだろうね。でも、ピピは考えるのが面倒なだけじゃないかなー?」

「……ぎくっ」

「やっぱりね」


 バレていたのかと言葉で表したピピに苦笑しつつ、マギスはしっかり考えるよう念を押す。


「二人の魔法が戦況をひっくり返すこともあるんだ。巻き込むことを恐れているようなら、二人にはこれを渡そうかな」


 そう口にしながら取り出されたのは、一本の木の枝を加工した杖と、四つの宝玉がはめ込まれた杖だった。


「木の枝を加工した杖、ユグディシアをオックスに。そして宝玉がはまった杖、フォースターをピピにだ」

「……せ、先生? この杖、なんだかものすごい魔力を感じるんですけど?」

「……ピピもなのー」

「君たちならこの杖を使いこなせるはずさ。精進するんだよ」

「「はい!」」


 オックスだけではなく、ピピも珍しく声を張った返事をしてくれた。

 その姿に満足感を覚えていたマギスだったが、直後には服の裾をクイクイと引っ張られる感覚を覚えて下を見た。


「せんせー! 僕にも何かちょーだい!」


 そこには面々の笑みを浮かべたティアナが立っていた。

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