第36話:VSベヒモス③

『……な、なんだ、この魔力量は!!』


 驚愕を露わにするベヒモスだったが、それを気にすることなくマギスはさらに魔力を凝縮していく。


『ちょっと待て! 貴様、それはさすがになしだろう!』

「何を言っているのかな? 君を相手にするなら、これくらいが当然だろう?」

『ふざけるな! それはやり過ぎだ! マジで待ってくれ!』


 焦るベヒモスは巨体を後ずさりさせているが、マギスは剣を構えて一歩前に出る。


「待たないよ。君も僕の話を聞かなかったじゃないか。なら、僕も聞かなくていいよね?」

『い、今から聞く! いや、聞きます! だからどうか止めてください! お願いしますううううぅぅっ!!』


 最初の威勢はどこにいったのか、ベヒモスは巨体を小さく丸めながら止めてくれと懇願し始めた。


「……そんなことを言って、剣を納めたら攻撃してくるんだろう?」

『し、しない! 絶対にしません! だからお願いします、止めてください!!』


 涙目になりながら何度も頭を下げてくる姿に、マギスはさすがに信じてみるかという気持ちになっていた。


「……はぁ、分かったよ。ただし、攻撃をして来たらどうなるか……分かっているね?」

『もちろんっす! 兄貴!』

「……あ、兄貴?」

『へいっ! 兄貴は兄貴っすよ!』


 言葉遣いまで完全に変わってしまい、マギスは小さくため息をつきながら剣を納める。

 ベヒモスも彼との約束通り攻撃をすることはなく、小さく丸まったまま次の言葉を待っていた。


「それじゃあ聞くけど、どうしてこちらに近づいてきていたんだい? 君の縄張りはこの辺りなんだろう?」


 当初の目的を果たすため、マギスはベヒモスに質問をした。


『へいっ! 俺が行こうとしていた先で、畏怖を感じるような魔力を感じ取ったんで、縄張りを奪いに来たんだと思ったっす!』

「畏怖を感じるような魔力? ……それって、僕の魔力かい?」

『違うっす! もっとこう、禍々しい魔力だったっす!』


 自分ではなく、別の誰かの禍々しい魔力だと聞いたマギスは、その相手が誰だったのかすぐに分かってしまった。


「あー……ごめん。たぶんその魔力、僕の連れだと思う」

『やっぱりっすか! ということは、兄貴の配下ってことっすか?』

「配下ではないよ。なんて言えばいいんだろうなぁ……仲間、かな?」


 自分にとってエミリーがどのような存在なのか、改めて口にしようとするとどう伝えたらいいのか迷ってしまう。

 それでもマギスは仲間という言葉を選び、言葉にしてみると彼女が本当の仲間なのだと思うことができた。


『へぇー、すごいっすね! 兄貴の仲間ってことは、同じくらい強いってことっすよね!』

「そうだね。もしかすると、僕より強いかもしれないね」

『マジっすか! ヤベェっすね!』


 ベヒモスの態度に苦笑いを浮かべつつ、マギスは本題に入った。


「僕たちは君の縄張りを奪うつもりなんてない。だから、この地に留まっていてほしいんだ」

『もちろんっす! というか、俺は負けちまいましたんで、兄貴にこの地を譲ってもいいっすよ!』

「いや、それはさすがに遠慮しておくよ」


 ベヒモスの縄張りを与えられたところで、マギスにはどうすることもできない。

 即答で断りを入れたのだが、ベヒモスからは残念そうな言葉が飛び出した。


『えぇ~! どうしてっすか~! それじゃあ俺、兄貴についていけないっすよ~!』

「……んっ? 君、ついてくるつもりだったのかい?」

『もちろんっす! 負けた俺はもう兄貴の所有物っすからね!』

「……冗談だよね?」

『兄貴に冗談なんて言わないっすよ!』


 満面の笑みでそう言われてしまい、マギスは軽く頭を抱えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る