第16話:子供たちとの模擬戦
マギスが乗り気になったということもあり、すぐに模擬戦が行われることになった。
とはいえ相手は子供である。
怪我をさせるわけにはいかないが、それでいて圧倒的な実力を実感してもらわなければならない。
勝つだけならば簡単だが、それでいてマギスに指導してもらいたいと思わせることも大事なのだ。
「誰からいく?」
「はいはいはーい! 俺、一番にやりたい!」
「さすがに一人ずつは無意味だろうね」
「それじゃあ全員でいっちゃう?」
「そ、それはさすがに、卑怯じゃないかなぁ?」
「……さっさと、やろう? ピピは、眠いの」
話している内容を隠す気がないのか、子供たちの会話はマギスに筒抜けだ。
「面倒だから全員で掛かってきてもいいよ?」
「……先生、僕たちが子供だからって甘くみていませんか?」
「これでも私たち、将来有望って言われているんだからねー!」
「そうだぞー! しょーらいゆーぼー!」
マギスの言葉にカイトがやや苛立ったように答え、アリサに続いてティアナも将来有望だと口にする。
「だからなんなんだい? 将来有望だからって、数の優位をあえてなくす必要はないだろう?」
「た、確かにそうだよね?」
「……ピピ、さんせー。その方が、早く終わるのー」
「よーし! それじゃあ全員でやろうぜ! 絶対にマギス兄に勝ってやるんだからな!」
一対六での模擬戦が決定し、すぐに陣形が取られていく。
幼い頃からずっと一緒だったのだろう、六人は一瞬のうちに前衛、中衛、後衛で構えを取る。
(この歳でこれだけの練度を出せるのか。素晴らしいじゃないか)
前衛に立つのはリックとアリサ、それぞれが剣を構えている。
中衛は槍を手にしたカイトと無手のティアナ。
後衛は杖を構えたオックスとピピだ。
(……ティアナだったか。あの子、変わっているなぁ。無手で中衛……いや、それだけじゃなさそうだね)
楽しそうにしている表情こそ変わらないが、ティアナが放つ雰囲気がピリピリしたものに変わっている。
周辺の空気が、震えているようにマギスは感じていた。
「……ほほう? ティアナとかいうおなごは、特別なようじゃのう」
彼女の変化にエミリーも気づいており、面白い模擬戦になるかもしれないと楽しそうに笑う。
「どこからでも掛かってきていいよ」
「それじゃあ、いつも通りにいくよ!」
「「「「「おう!」」」」」
指揮を執るのは中衛のカイトだ。
まずはマギスを取り囲むため、リックとアリサが左右に分かれて駆け出していく。
次いでティアナも前に出てマギスの正面に立ち、隠し持っていたナイフを投擲した。
「なるほど、ウェポンマスターを目指しているのかな?」
やみくもに投げられたわけではなく、的確に急所を狙った投擲に感嘆の声を漏らしながら、弾き返して問い掛ける。
「知らなーい! 私は私の好きなように戦うんだー!」
「なるほど、無自覚なんだね」
「ティアナばっかり見てると!」
「痛い目みるんだからね!」
マギスの左右やや後方から飛び込んできたリックとアリサ。
「迷いなしか、いい心がけだね」
「えっ?」
「き、消えた!?」
鋭く振り抜かれた二人の剣だったが、気づかないうちにマギスの姿はそこになく、彼の声が後方から聞こえてくる。
「だけど、気配でバレバレだね。二人はもう少し気配を消すことも意識する必要がありそうだ」
「くっ! オックス、ピピ! 魔法で逃げ場をなくすんだ!」
「わ、分かった!」
「りょうかーい」
怒声にも似たカイトの声にオックスはビクッとしながら、ピピはマイペースに返事をして魔法を発動する。
「「アースウォール」」
マギスの左右、そして後方の地面が盛り上がって壁となり、彼の行動を阻害する。
「魔法の発動は指示を受けてから即断だったね。二人とも同じ魔法だし、こちらも練度は高い。でも――」
自らの見解を口にしながらマギスが地面を右足で叩くと、オックスとピピが作り出した土の壁がボロボロと崩れ始めた。
「え、ええええぇぇっ!?」
「……なんで?」
「な、何をしているんだ!」
崩れた土の壁を見てカイトは二人へ振り返る。
しかし、戦況は刻一刻と推移しており、彼の行動は褒められるものではなかった。
「いいぃっ!?」
「嘘でしょ!?」
土の壁を目くらましに近づこうとしていたリックとアリサが驚きの声をあげると、直後にはマギスの姿がかき消えてしまう。
「はい、終わり」
「うおっ!?」
そして、背後を取られていたリッコの肩をポンと叩きながらそう告げた。
「リック!」
「君も終わりね」
「きゃあっ!」
同じようにアリサも肩を叩かれ、二人は唖然としたまま立ち尽くす。
「くそっ、僕も出る!」
「判断が遅いよ」
「えっ?」
槍をグッと握りしめて前に出ようとしたカイトだったが、マギスはすでに彼の目の前に立っていた。
そして、すれ違いざまに肩を叩くと、実力差を実感したのか、カイトはその場に両膝をついてしまった。
「さて、どうする?」
「こ、ここここ、降参です!」
「ピピも降参なのー」
「そうか。でも――」
――ガキンッ!
「あはっ! これも受け止めるんだ! せんせーって、本当に強いんだね!」
腰の剣を抜いて背中に這わせた途端、甲高い金属音が鳴り響く。
「素晴らしいね」
「えへへっ! ありが――どおおおおっ!?」
ティアナを褒めたかと思いきや、直後には剣を鋭く振り抜いて彼女を大きく弾き飛ばしてしまった。
驚きの声をあげながらもしっかりと着地したティアナを見て、マギスはニコリと笑い剣を納めた。
「はいっ! 模擬戦はこれまで!」
両手を叩きながらマギスがそう口にすると、子供たちからは大きく息を吐く音が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます