第7話:未開地での遭遇
「未開地で悲鳴じゃと?」
「急ごう、エミリー!」
「ぬおおおおっ! マギスよ、もう少し優しく抱き上げんかああああっ!」
まさか未開地で二人以外の悲鳴を聞くことになるとは思いもせず、エミリーは疑問の声を漏らす。
だが、マギスがすぐに彼女を小脇に抱えて走り出したことで、疑問の声は悲鳴に変わった。
「ごめんね。でも、急いだ方がいいと思うんだ」
「これが害獣による罠だったらどうするつもりじゃ? ここは未開地、何が起きてもかしくはない場所なのだぞ?」
走りながら抱き方を小脇から抱っこに変えたことで、エミリーはため息交じりに口を開いた。
「だとしても、見て見ぬふりはできないよ」
「全く。名前は変えても、性格は変わらないということじゃな。仕方がない、協力してやろう」
「協力?」
エミリーはそう口にすると、肉体が幼女になったことで少なくなってしまった魔力を両目に集約させていく。
そして――自らの視界を遠くへ飛ばす魔法を発動させた。
「スカイアイ」
自らの視野を空へと飛ばし、前方に広がる森を俯瞰で見下ろしていく。
密集している木々に視界を遮られると思いきや、悲鳴が聞こえてきた場所を特定したエミリーは空に飛ばした視界を下降させて森の中に移動させた。
「……いたぞ。ここから五〇〇メートルほど先じゃ」
「悲鳴の主は?」
「おそらくだが、普通の人族のようじゃな」
「分かった。加速するから、舌を噛まないでね!」
「お安い御用――じゃばばばばああああぁぁああぁぁっ!?」
エミリーが答えを言い終わる前に加速したマギス。
彼女の悲鳴にも似た声を置き去りにするほどの速度で森の中を走り出すと、五〇〇メートルもの距離を一〇秒と掛からずに駆け抜けてしまった。
「はあっ!」
「えっ? ええええぇぇっ!?」
こちらに背を向けていた害獣をすれ違いざまに両断すると、襲われていた女性は目の前に突如として現れたエミリーを抱っこしたマギスを見て驚きの声を漏らす。
「まだ二匹おるぞ!」
「分かってるよ!」
エミリーが声をあげると、それに応えるようにしてマギスが振り返りながら剣を横に薙ぐ。
飛び掛かってきていた害獣の体が上下に分かたれると、動きを止めることなくマギスが最後の一匹へと迫り一閃、その首を刎ね飛ばした。
「……ふぅ。ここにもソードウルフがいたんだね」
「だが、大きさは先ほどの個体の方が大きかったのう。さては、子供だったか?」
「……えっ? あの、えっと…………えっ?」
二人がすぐに普段通りの会話を始めてしまったため、助けられた女性はどうしたらいいのか分からず困惑の声を漏らしていた。
「おっと、ごめんね。大丈夫だった?」
女性の様子に気づいたマギスが慌てて声を掛けると、柔和な笑みを浮かべながら手を差し出した。
「……あっ、はい。その、助けていただきありがとうございました」
女性はマギスの手を取ると、グッと引っ張られてそのまま立ち上がる。
「ケガはない?」
「はい、大丈夫です」
「お主、この辺りに住んでおるのか?」
「そうです。この近くの村に……って、えっ? 子供、ですよね?」
矢継ぎ早の質問にさらりと答えていた女性だったが、幼女姿のエミリーがはきはきと言葉を発していることにあとから気づき、疑問の声を漏らす。
「そうそう、子供だよ。それで、この近くに村があるのかな?」
当然の疑問だと思いつつも、マギスは女性の疑問を誤魔化そうと村の話題を振ってみた。
「……えっと、そう、です。私はそこに暮らしています」
「そうなんだね。僕は森の外から来たんだけど、外ではこの土地が未開地ということになっているんだ。知ってたかな?」
「未開地……ですか? いいえ、知りませんでした」
すると、未開地という言葉が女性の疑問を上書きしたのか、きょとんとした表情で答えてくれた。
「そっかぁ……あぁ、申し遅れました。僕はマギス、彼女はエミリー。二人で旅をして回っているんだ」
「あっ! す、すみません! 助けてもらったのに名乗りもしないで!」
最終的には自分が無礼をしてしまったと思い込んだ女性は、慌てた様子で自己紹介をしてくれた。
「わ、私はニアと申します! 先ほどは助けていただき、本当にありがとうございました!」
そして勢いよく頭を下げると、顔を上げた時には満面の笑みに変わっていた。
「あの、よろしければ村に来ていただけませんか? 助けていただいたお礼もしていないので!」
ニアの申し出を受けた二人を顔を見合わせたあと、すぐに頷いて彼女の好意に甘えることにした。
「ありがとう。それじゃあ、お願いしようかな」
「よろしく頼むぞ、ニアよ」
「はい! ……えっと、子供、なんですよね?」
「そうそう、子供だよ」
最終的にはエミリーへの疑問が復活してしまったものの、マギスが即答で子供だと口にしたことで、ニアは無理やり納得したようだった。
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