第四話 王子様に恋をしたお姫様
明智さんと別れた後、マリー達はびっくりするほどの機械人形達と戦っていました。
「一体一体の強さはそこまででもないけれどっ」
「もう、限界ですかぁ?いいんですよぉ?マリー一人で相手するのでぇ」
マリーと泥棒猫は、群れを成した鉄くずを延々と壊すお仕事の真っ最中です。正直言って歯ごたえが無く暇でした。マリーはそんな事より明智さんが、無事かどうかが一番の気がかりです、もしも明智さんが酷い怪我をしたりしたら、マリーの今日の夜はどうなっちゃうの?それだけがマリーの頭をぐるぐると生クリーム作りの様に回ります。
「うわぁー、集中できないぃー、今こそマリーの必殺技で壁を壊せばぁ」
「無駄よ、最初の入口の外壁ならまだしも、ここの壁は壊せないわ、それより前の事に集中なさい」
泥棒猫は、やってみてもいない事をもう既にやったといわんばかりに、私を止めました。きっと泥棒猫にとって明智さんは一番ではないから、そのようにすぐに諦められるのです。
私の様な豊満でプリティな体を持っていない、泥棒猫の僻みなどマリーは無視できます、だってマリーは大人のお姫様ですから。
「見ていてください、マリーの明智さんへの愛にぃ、不可能は無いと証明します!」
マリーはマリーが持つプリンセスソードを思い切り、マリーの体で出せる一番の火力を辛気臭いこの壁に叩きこみます。プリンセスカリバー、マリーがお姫様である証明の一撃であるのです、放つと同時に大地は裂け、そして地球の反対側で地震が起きます、多分。
「マリーの本気、覚悟してください、いきますよぉー、えぇい!」
マリーの一撃は壁を突き破る事はなく、逆に壁に与えた衝撃は、プリンセスソードを通してマリーに跳ね返ってきました。必殺プリンセスカリバーが…、ダイヤモンドをも砕くはずのプリンセスカリバーが打ち負けるだなんて、マリーは考えた事もありませんでした。
「だから無駄だって言ったのに」
泥棒猫は呆れてみせます、だから言ったじゃないかと改めて言うように、けれどもマリーの明智さんへの想いに不可能は無いと思っていましたが、マリーも所詮は人の子、明智さんが多く貢献している人類のHには敵わなかったのです。
「というかぁ、なんでこの施設の事を知っている口しているんですかぁ?さてはぁ」
マリーは、泥棒猫にプリンセスソードを向けます、この泥棒猫こそがアベンジャーズの一員である可能性が出てきました、今こそ明智さんを、お姫様から王子様を奪うべく暗躍している泥棒猫を、大義名分のもとに排除できるのではと、マリーは画策します。決してマリーが実は本当に明智さんが取られないかとかの、恋のいざこざではありません、本当にこの泥棒猫が裏切り者の可能性があって、今この場でマリーの寝首を掻こうとしている『かも』しれないからです。嘘ではありません、マリーは嘘を吐かない、いい子なのです。
「そうね、少なくてもマリーよりは知っているわ、見た感じの素材それに、音の反響でも素材の大体想像もつく、それに…いえなんでもないわ」
「それにぃ、なんですか、やっぱり後ろ暗い事があるんですかぁ?」
マリーは、その後ろ暗さに漬け込みます、間違いなくこの泥棒猫には何か隠している事があります、この施設もこんな所にあるには随分と立派過ぎです、灯台もと暗しといいますが、怪しさ満点のこの場所に、こんな隠し研究所があるだなんてマリーは信じません。
「後ろ暗い事は沢山あるわ、そもそもこの仕事をしてる事だってレニには、言えないもの」
「そこでレニちゃんを出すとは、ズルいです流石泥棒猫…、マリーはレニちゃんとはぁ、仲良くしたいですもん!」
「だったらまずは、私嫌いをどうにかする事ね、あの子私の事大好きだから、あの子の前でもそんな態度をしていたら、嫌われちゃうわよ?」
ぐぬぬぬとマリーは顔を歪ませました、でもいけませんお姫様はいつも優雅で煌びやかな表情をしていなくてはなりません、マリーは顔の筋肉を緩めます。きっと今マリーは童話のお姫様にも負けないくらいの表情をしているに違いません。
「餌を待てさせられて、待機させられている犬」
「何か言いましたかぁ?」小馬鹿にされている気がしますが、今は気にせず目の前に集中。
片手間に機械人形を倒しながらも、余計な事を話してくる泥棒猫を後目にマリーも明智さんが一先ず、自分で現状を打破してくれると信じる事にします、マリーはいい子なので、明智さんを信じて待てをする事ができるのです。
「マリーそっちに…」
「ハァアアアアアっ……っと、何か言いましたかぁ?」
泥棒猫が何か話かけてきましたが、目の前まで集まってきた機械人形を一刀両断するのにマリーは忙しいのです、集中しろと言ってきたのは泥棒猫の癖に、マリーから集中力を削ごうとしているのは、泥棒猫本人です。マリーは怒っています、どっちなんですか、集中した方がいいのか、明智さんの事に集中した方がいいのか。マリーは同時に沢山のタスクを熟せる程の、それこそ明智さんの様な思考回路は持ち合わせていません!
「いえ…なんでもないわ、それよりも、もうすぐね」
「なんでもないっ…なら、マリーの戦闘中にぃ気を逸らせないでください!それよりもうすぐってなんですかぁ?」
「この道の終着点…、というよりは行き止まりだった気がするのだけど」
なぜこの泥棒猫は、この場所をよく知っているような事を言うのでしょうか?マリーには理解できません。そんな事をしたら真っ先に裏切り者として疑われるのは分かっている筈なのに、マリーは考えます。マリーの脳内に浮かんだのは二つの事、泥棒猫が裏切り者である事と、それとこの泥棒猫が以前この場所に来た事があるかだと、マリーは考えます。どちらであっても裏切り者である可能性が拭えないのでは?と疑問を抱きながらもマリーと、泥棒猫は前進します、鉄屑を更なる鉄屑に変える為に。
「この粗大ごみ、どうするのかしら?プレス機で潰すにも外に運び出すだけで一苦労よ?」
「マリーが知る訳ないじゃないですかぁ、それこそここを掘り起こすんじゃないんですかぁ?秘密の隠し通路とかぁ、敵の皆さんの情報の一つや二つあるかもしれないじゃないですかぁ」それこそ馬鹿げた予算を使うのも、躊躇わないでしょう。
「そんな小さな事の為に、国が動くかしらね?私達の会社には機械も無いし、こんな所の整備なんて国家権力でもないと、どこも動かないでしょ?」
「知らないんですかぁ?今や世界は、アベンジャーズに追随する発展失敗国とぉ、アベンジャーズを断じて許さないと躍起になっている先進国のどちらかですよぉ、ニュース見たらどうですぅ?まぁこんな穴倉じゃ電波も届きませんかぁ?」
「……………」
泥棒猫の動きが止まりました、そしてマリーは気づきます、幾らなんでも今のは、度を越えていたと、マリーは泥棒猫だけではなく、レニちゃんもミライ君も同じ暮らしをしている事、更には泥棒猫達も好きでここにいる訳では無いと言う事を失念しました。
「ごめんなさい、言い過ぎました…」
マリーは目を瞑り、頭を深々と下げます、げんこつの一発も覚悟の上です。明智さんに言われていた事を忘れていました、決して人の生活を馬鹿にしてはいけないと言う事を、それを馬鹿にした私は罰を受けるべきです、マリーは悪い事をしました。ならばその罰は決して間違った事ではない筈です。
パスッという音が鳴り、機械人形を壊した時に出る独特なショート音が私の後ろで鳴りました。マリーは顔を上げます、敵に囲まれているのではないかと思ってです、決して拳銃が顔の横を掠めたからではありません、銃を使われて死ぬかと思ったとドギマギしている訳では無いです。そして何も言わずに最奥に向おうとする泥棒猫に問います。
「ど、どうしてぇ、何もしないんですか…マリーはぁ、悪い事をしたのに…」
すると泥棒猫は得意気にこう答えました、マリーを小馬鹿にするような態度が少し癪でしたが、それでも泥棒猫の言葉はマリーが考えもしなかった言葉だったのです。
「貴方は、私の事を嫌っているようだけど、私は明智と同様に…、ちょっと違うわね…私はマリーが大好きなのよ?好きな女に手を出す訳ないじゃない?」
「な、なな、ななにを言っているんですかぁ?そんな事を言われてもぉ、マリーの王子様は明智さんだけですぅ…浮気なんてしませんよぉーだぁー、じゃっ」
マリーの顔はとても熱くなりました、心臓の鼓動が煩いです、目の前を闊歩する鉄葛なんて、走った衝撃で吹き飛ばしてしまえそうな勢いでマリーは走りました、勿論そんな脚力だけで鉄屑を鉄屑にする力はマリーにはないので、プリンセスソードを振るいながらですが、けれどどうしようもなく先ほどの言葉を思い出すと顔が熱くなります、これは大変です、大変な病気です。明智さんに見て頂かないとダメかもしれないと、マリーは焦ります、その瞬間でした、マリーは顔面に衝撃を受け頭の上でお星様が周りました。くるくる。
「なにやっているんだか…」
泥棒猫の呆れたような声が聞こえた気がしますが、そんな事は考えないように今は体に意識を任せようとマリーは思います、泥棒猫の声を考えたらまた顔が真っ赤になってしまいそうなマリーだったのです。
マリーの意識が再び覚醒した時には、鉄屑は残っておらず、マリーは誰かの背中の上で心地の良い揺れを体験していました。思わず、起きたのにもう一度寝てしまいそうな心地よさです、マリーが求めいた悦楽の全てがこの揺れに凝縮されている気がしたのです。
「心地がいいですぅー」
「そう、それならよかったわ、でも起きたのなら自分で歩いて頂戴」
「どっ、どろっ、どろぼー…な、なんでぇ?」
「誰が泥棒よ、誰が、勝手に突っ込んで、敵を蹂躙して、壁にぶつかって、鼻血を出して寝ころんでいた貴方を運んでいる、私が感謝されこそすれ、恨み言を言われる筋合いは無いわよ、ほら元気になったのなら自分で歩く!」
マリーは泥棒猫に、体をポイっと投げられました、マリーよりは体がデカいとはいえ、マリーを投げるだけの怪力は何処からでているんでしょうかと、マリーは疑問に思います。けれどこの答えは単純でした、なぜならマリーはお姫様らしく、羽毛の様に体が軽いからだったのです。そんな事よりもマリーはマリーの体を触ります、衣服は乱れていないかを確認します、この泥棒猫に万が一の事でもされていたらマリーはもうお姫様になれません、そんな事を許せないです、この泥棒猫によってマリーのプリンセスロードを邪魔されるだなんてことあってはいけません。
「なに体弄っているの?もう仕事終わった後を想像して、興奮しているのかしら?」
「な、なにを言っているんですかぁ、貴方が私に何かをしていないかの確認を、ですねぇ」
「私が勝手に人を辱める訳ないでしょう?明智じゃあるまいし」
「あ、明智さんだって、勝手にしませんよぉ、この前もちゃんと確認をとってですねぇ」
「少し前、貴方を気絶まで追い込んで、それでも責め続けた人間を貴方が庇っても、説得力は対してないわね、結構大変だったでしょ貴方?」
「なぁっ…、な、なぜその事をぉ知っているんですかぁ?あの時はマリーと明智さん以外居なかったはずなのにぃ」
マリーはあの痴態を見られた事に憤慨します、ましてやこの泥棒猫にです。マリーは怒りました、明智さんに直訴したいとも考えます、あの情熱的な夜はマリーと明智さんだけのモノだったはずなのに、なぜこの泥棒猫が知っているのか。それを今問い詰めようとしましたが止めます。何故なら繋がらなかった筈の通信が再び繋がったからです。
『生きてるかい?』
少し辛そうな声をしていますが、明智さんの声ははっきりと聞こえます。だからこそマリー達はこう答えるのです。
「生きてますぅ」「生きているわよ、そりゃ」
『それならよかった、帰ろうか』
明智さんは答えます、だからこそマリー達も帰路につくのです、いつも通りに任務は完了しました、けれどマリーには疑問に思う事があります。結局今回の事件は何の為に起こしたのでしょうか?マリーは気になります、気になってついつい口からポロリと言葉が出てしまいました。
「明智さん、教授さんはぁ、結局ぅ何がしたかったんですかぁ?」
明智さんは少し言葉を選びました、やっぱり明智さんの方には何かマリー達には見せられない何かがあったのだろうと思います、けれど何故そんなに言葉を選ぶ必要があるのでしょうか?マリー達には理解できないような事があって、それを理解できるように構成を組み立てているのでしょうか?ですが明智さんは、そんな構成すぐ考えられる人です。
『戻ったら報告したい事がある、これは第五課だけで内々で処理したいと思っている、帰る時間が遅れるかもしれないが、構わないかい?』
「マリーは全然大丈夫ですよぉ?逆に泥棒猫にはさっさと帰ってほしいでぇーす」
「私も今日は暇なの、残念だったわね」
ムキ―っとマリーの頭に血が上ります、そのマリーのいつも上手に行く態度、本当に気に食わないです。マリーが泥棒猫に勝っている所は腕力、髪の長さ、胸の大きさ、明智さんへの愛、後はえーっと、お料理の腕です!マリーは明智さんの様に美味しい物は作れませんが、食べられる物は作れます、泥棒猫は食べられる物を作れません。これはマリーの勝利です、それ以外は、えーっと、えーっと………。
「勝った気でいるなよぉ…、マリーだってきっと貴方に勝っている所は沢山ある筈ですぅ、けれど今は思いつきません、うわーん、明智さぁーん虐められましたー」
マリーはこの敗北感を拭う為に明智さんの元へと急ぎます、明智さんに慰めてもらえるのは、マリーだけの特権なのです。えっへん。
『あの子、いきなりどうしたの?』
『君に負い目を感じたんだろう?そう虐めてやらないでくれよ、サチア…』
『私は、別に何も言っていないんだけれど?』
無線越しに聞こえる、明智さんと泥棒猫の会話にマリーは涙を流します、こんなに悲しいのに明智さんはマリーの事を気にも留めてくれないなんて…、マリーは浮気しちゃうかもです…、あり得ないことですが。だって明智さんへの愛が揺らぐ事等一切ないのです。
そんなこんなでマリーは、明智さんのもとへと駆け寄り抱き着きます。そしてそのままお姫様抱っこをしてもらい帰路につこうと思いました、けれどもそれはできませんでした。なぜならば明智さんから血が外に流れています、それも少しという量でもありません、明智さんは何食わぬ顔をしていますが、絶対にやせ我慢だとマリーはすぐにわかりました。
「明智さん、どうしたんですかぁ?ち、血がぁ」
「いやいや、大したことはないんだよ、ちょっとした擦り傷みたいなモノだ、それより早く本社に戻ろうか、これはなるべく敵よりも早くに私達で……」
「明智さん!?明智さぁん?」
明智さんは力なくマリーに寄りかかります、マリーの脳内に最悪の情景の数々が思い浮かびます。それは絶対にマリーが考えたくない事でした、けれど血だらけの明智さんを見てしまっては、マリーにはそれ以外の情景が想像できません、マリーは今自らの感情がコントロールできません、いつもは出来ている筈なのに涙が留まる事を知らず、嗚咽混じりに明智さんの名前を呼ぶことしか、今のマリーには出来ないのです。やるべき事はある筈なのに、助ける為には動くべき筈なのに、マリーは今にも命の灯が失われそうになっている明智さんの手を握って泣きじゃくる事しかできませんでした。
「なにをやってるの!今すぐ明智を抱えなさい!すぐに支部に運ぶわよ!」
マリーを叱りつける様に、泣きじゃくる事しかできないマリーを突き動かせたのは、貴方でした、貴方も明智さんが大好きな筈なのに、動揺よりも先に行動できるのは、本当に凄いなぁとマリーは手を引かれながらに思います、いつか貴方みたいな女性になって、明智さんのお姫様になる事がマリーにとっての人生の目標なんだとマリーは再認識します。
マリーの体を無理やり動かそうとする貴方の手をマリーはしっかりと掴みます、そして決して明智さんは落とさないようにギュッと体に寄せました、服に浸透してくる血の感触を感じるほどに泣きそうになるのを必死に我慢しながら、マリーは明智さんを支部まで運ぶことができました。
「良かったわね、見た目程大ごとじゃなくて、ほら!いつまでも泣いてないでシャキっとしなさい、シャキッと!」
「だってぇー、明智さんがぁ、死んじゃうかとマリーはぁ思ってぇ、けれど動けなくてぇ、泣く事しかぁできなかったんですぅ、マリーは明智さんのお姫様失格ですぅ」
「だからぁ、助かったんだからいいでしょ?いつまでも泣いていたら、明智に言いふらすわよ?マリーが自分でお姫様辞めるって言っていたって、いいの?よくないでしょう!」
マリーがお姫様を辞めるなんて事はあり得ません、けれどいつまでも涙を止めないでいると、この泥棒猫が明智さんにデマを吹き込んでしまいます、だからマリーは必至に下唇を噛んで涙を止めようとしました、そうすれば涙と一緒に止まらないに嗚咽もなんとか抑える事ができると思ったのです。けれどいつもマリーにとって最悪なタイミングで明智さんは現れまず、マリーの恥ずかしい所を隠そうとしても、いつも明智さんは狙ったようなタイミングでマリーの前を平気で横切るのです、今回もそうでした。お姫様がしてはいけないような、涙まみれの顔を、嗚咽を我慢しようと下唇を噛んでいる間抜けな表情を、先ほどまで眠っていた筈の明智さんがこちらに歩いてきて、そしてマリーを直視するのです。
「どうしたんだいマリー?そんな顔をしてw凄く面白い顔をしているぞ?」
「今のマリーの顔を、見ないでくださいぃ」
マリーは必至に手を使って顔を覆い隠します、けれどそれを許さないと言わんばかりに明智さんは私の両手を抑え込み、顔を覗きこみます、そして泥棒猫はそれを助長させるようにマリーを羽交い絞めにして、マリーの恥ずかしい所を包み隠さず明智さんに露わにしようとしてきました。
「なんでぇ、見ないでって、言ってるのにぃー」
「いやいやマリーのそんな顔も美しいよ、実に綺麗だ。これは画像にして、私の寝室の壁紙をこの顔で埋め尽くしたいくらい?」
「いいわね、貴方の部屋に行く度にこの顔を見られるなら、レニに少し怒られてでも貴方の部屋に行く理由にはなるわ」
「だから、見ないでって、言ってるのにぃ、これ以上マリーを辱めないでぇー」
うわん、うわんとマリーは先程とは違う意味で涙を流します、これは悲しみの涙でもあり、嬉しみの涙でもあります、マリーにとっての非日常は終わり、いつもの日常に戻りました、明智さんの悪巧みにマリーはなすがまま身を任せて、それに泥棒猫が乗ってくる、いつも通りの日常です。そしてこれもマリーにとっての日常です、ミライ君とキャプテンさんが凄く冷めた瞳でこちらを見ています。もうマリー達のこの光景は見飽きたと言わんばかりの瞳で、まるでマリーの朝のルーティンになっている金魚の餌やりをする時の様な瞳でこちらを見ています。その瞳でこちらを見られるのは、少し恥ずかしくて耐えがたい光景なのですが、明智さんは誰かに見られている時の方がいつもより活発になります。
「キャプテン、明智が倒れたとか、明智が俺達に用事があるからとか言っていたから来たはずなんだけど、俺に間違った情報送った?」
「いやぁ、僕も本社からのメッセージを聞いて、スーツで飛んできたんだが、多分情報は間違っていないんだと思うんだが…。まぁ、帰るかい?送っていくよ」
「そうだね、レニの迎えもあるし、送ってもらおうかな」
達観した表情でミライ君とキャプテンさんは、この部屋を後にしようとしました。それは困ります、明智さんと泥棒猫が残って唯一静止してくれるミライ君が帰ってしまっては、マリーは恐らく明日には、お姫様が出してはいけない声で挨拶しないといけません。そしてキャプテンさんが帰ってしまっては、本当にマリーが危険な状況に陥った時に止めてくれる人が居なくなります、だからこそ二人にはなんとか残ってほしいのです、マリーが狼さんに襲われる前になんとかこの状況を打破してください、お願いします。
「いや、待て特にミライ、君だ、君とサチアだけは今すぐ帰す訳にはいかないかな」
「残念だけど、俺は明智やサチア、マリーがやっている行為にそこまでの関心は無いよ」
「それは、一青少年として、どうかとも思うが……ってそう言う話ではなくてだね」
確かに明智さんとサチアさんの営みを見ても、ミライ君と泥棒猫は姉弟だから思う所があるのかもしれません、けれどそんなミライ君でもマリーと明智さんの情熱的な営みを見れば、きっと何かを感じるとマリーは思うのです、いえ、感じさせてみせます。とマリーは謎の信念に突き動かされそうになりましたが、今話している事はそういう話ではないというのも、マリーには理解できています。どうですか?泥棒猫は明智さんが何を話そうとしているか、わかりますかぁ?相変わらず、泥棒猫は澄ました顔をしていて何を考えているかマリーにはわかりません、ちょっとイラっとします。
「言っただろう?第五課で話し合って、この情報が本社の人間ないし、国のお偉いさんに知れ渡る前に、なんとしてでも私達だけで話し合う必要があるって」
「そんな内々で処理したい情報というのは、なんなんだい?それこそミライとサチアが関係している話って…明智、それにサチアとマリー、君達は今日何を見たんだ?」
マリーと泥棒猫は何も見ていないんですが…、けれどそれでも明智さんがここまで、すぐさま解決しようとするなんて、意外でした。いつもなら『私なら明日からでも大丈夫さ』なんて語っている明智さんなのに、今日の明智さんはそれを断じて許しません。
「それなら要件をとっとと言って欲しいかな、レニのお迎えをしないといけないんだから、どうせサチアは今日帰ってこないんでしょ?」
「ええ、生憎急用ができてね、レニにはゴメンネって伝えておいてくれると助かるわ」
「はいはい、流石に二日も帰ってこないなんてマネしたら、締め出すからな?」
「それをしたら、あの家がゴミ屋敷になってレニを苦しめるのは、ミライの方よ」
『なにをぉ?』とミライ君と泥棒猫のいつも通りの喧嘩が始まりました、マリーが見ている限り、ミライ君はレニちゃんを物凄く大切にしています、お姫様を扱うように、宝石を磨くようにです。レニちゃんとの約束を基本優先しますし、この前教わった料理もレニちゃんの好きな食べ物だからと言っていました、けれどこの薄情泥棒猫はそんなレニちゃんよりも明智さんとの時間を優先する事が多々あります、明智さんにはマリーが居るのに…。だからマリーはこれを機に言ってやる事にしたのです。
「この泥棒猫ぉ!貴方はぁもっとレニちゃんとの時間を大切にしなさいぃ!」
マリーは日ごろのうっ憤を晴らす意味合いも込めて、全力の心の叫びを放ちます。あの年ごろの女の子より、一人への情欲を優先させるなんて事は笑止千万です!マリーには明智さんしか居ません、だからマリーはいいのです。けれどレニちゃんには貴方が必要な筈です、それなのに貴方という人は!マリーは自分の事を棚に上げている?気のせいです。
「別にいいのよ、私は…それで明智、私達が関係している話って?まぁ予想はつくけれど」
「10月12日、13日それがサチアそしてミライの誕生日である事は間違いないね?」
「俺達にプレゼントでも買ってくれるの?」
「ミライとサチアの誕生日がどうしたんだ?また2ヶ月先の事考えても仕方ないだろ?欲しい物を言ってくれる機会を作ってくれたのなら、こちらとしても大助かりなんだが」
マリーは、確信する事ができました、キャプテンさんの言う通り、確かめたかった事というのはミライ君達の誕生日についてだったのです、そしてその日にサプライズパーティをやるという…、でもサプライズパーティをするのに確認してしまっては、サプライズにはならないかも?とマリーは考えました、けれど明智さんの事です、なにかいい作戦があるのでしょう。
「そもそもその日に産まれたとは限らないけどね、この会社に入社するのにあたって戸籍が必要だったから、色々用意しただけの嘘っぱちよ?それは貴方も知っているでしょ?」
「あぁそれは知っているし、プレゼントも考えておくよ、でも話したい事はそれじゃない、サチア、ミライ君達はなんで誕生日を1日ずらしたんだい?」
「それは、えーっと、確かぁ」ミライ君が目を逸らし少し考えます、偽造した物ならば覚えていないのもしょうがない事かもしれません。
「私が姉で、ミライが弟だからよ、文句あるかしら?」考えるミライ君とは違い、泥棒猫は事前に考えていたような言葉を並べます、その姿にマリーは少し違和感を覚えました。
「えっと、話しが見えないんだが?明智は一体何を聞きたいんだ?」
「そうだね、私としたことが動揺もあって、遠回りしすぎたのかもしれない、端的に結論を出して、そして聞こうか。サチア、ミライ君達は裏切り者かい?」
「なぁ!?」マリーは驚きます、泥棒猫が裏切り者の可能性は考えましたが、まさかミライ君もだっただなんて、少しショックです。けれども裏切り者であるのならばしょうがありません。マリーはデスクの近くにあるプリンセスソードを構えます。
「根拠を聞いてもいいかしら?理由も無く、あの剣で斬られるのはちょっと嫌なのだけれど」なんとか泥棒猫が言い訳を探していますが、マリーは甘くありません。
「マリー、その矛を収めろ、まだ確定した話じゃない。確定した話ならば第5課を集めたりしはしないよ、これは確認だ。君達が味方なのか、敵なのかの…ね」
明智さんに言われた通り、マリーはプリンセスソードを傍に突き刺します、けれどいつでも抜けるような状態にはしておきました、あちらが奇襲をしかけてきても、明智さんの事だけは絶対に守れるように。
「サチア達の擁護をする訳じゃないが、一体どうしてその思考になったのか、ここに居る全員にわかるよう教えてくれ、いきなり敵と判断されて手を出すべきかの躊躇いが出てしまう」キャプテンさんの言う事も確かです、マリーに躊躇いはありませんが、できるならば確証が欲しいという、我儘はあります。
「それについては今から話すよ、今日私は教授を殺した、教授の標的やら本当の目的は…、まぁどうでもいいことか、そこで教授の余興でね、私はある研究資料を見させられたんだ。研究というか悪魔の証明を試みた物だったが、そこで見た事を端的に伝えるとするならば、こう言うべきだろうね『被検体1012番並びに被検体1013番がこの実験の唯一の成功例である』サチア、君達にはこれで意味が伝わるだろう?」
どういう事でしょうかとマリーは頭を悩ませます、フッと脳内に湧いてきた閃きの様な何かは、丁度ミライ君達の誕生日と同じと言う事でしょうか?
「ミライ、レニを迎えに行ってあげて、レニ今日は早めに終わるって言っていたわよね?」
「あぁ、うん、サチアに任せるね、それじゃあ」
「おいおいちょっと待て待て、この状況でそう簡単に帰していいのか?」
「あぁ、サチアが残るというのならば別に問題は無いよ、マリーもいいかい?」
マリーに話しを振られても、マリーにはチンプンカンプンなので、頷く事しかできません。一先ずはミライ君達を殺す段階には至っていないという事でしょうか?泥棒猫はともかく、ミライ君はマリーの大事な友人です、それだけは少しホッとしたマリーでした。
「明智が気になっている事なら、私から説明するわ、別に二人で説明する意味もないでしょ?」確かにぃーとマリーは納得しました、そしてその時にはもう既にミライ君は部屋から出ていたのを、見逃していました。
「じゃあ、聞かせてくれたまえ、君達があの場で何をされたのかを、詳しくね」
泥棒猫は言葉を紡ぎます、マリーが決して想像してなかった、ミライ君達の人生を、マリーがどうしてミライ君と仲良く友達ができていた理由も、貴方の事が嫌いな理由も、どうして貴方につい目が行ってしまうのかも、貴方の言葉で理解する事ができました、だって当たり前だったんです、決してミライ君とは同じ境遇だとは思っていませんでした、けれど実際はマリーとミライ君そして泥棒猫は、殆ど同じ穴の貉だったのですから。
「私とミライ…何といえばいいのかしら、要はどこにでもいるモルモットと言えばいいのかしら、戸籍も無くて、名前も無くて、定住する家もない、まぁわかりやすい程に使い潰せそうな人材でしょ?」
「それは、確かにそうかもだが、ミライの話だと普通にあそこで暮らしていたって話だった気がするんだが、ミライの言葉も嘘なのか?」
「冗談はよしてよキャップ、ミライが嘘付ける訳ないでしょう?嘘ではないわ、私は暦とかはあんまりわからないけれど、恐らく4年前か5年前にね、いきなり人が訪ねてきて私達にこう言ったの『願いを一つ叶える代わりに私達に協力してほしい』ってね」
「貴方はそんな、見るからに怪しい取引に応じたんですかぁ?」
「ええ、応じたわよ?神様は本当に居ると、見えない空に手まで合わせてまで感謝してね」
マリーは驚愕します。そんな美味しい話なんて物はないのに、貴方は馬鹿なんですかと、もしも100億円下さいと言って、了解されたとしてもその100億の使い道なんてものは与えられないと分かっているのに、なんで貴方とミライ君はその話に乗ってしまったんですかと、レニちゃんはどうするんですか?と口を大にしてマリーは、言葉を発しようとしました。けれど貴方とミライ君の望む事なんて、分かりきっているんです。
「君はレニ君の普通を望んだんだね、自らの望みなんてどうでもいいと、その為ならば実験動物になっても構わないと」
「僕が言うのもなんだが、そういう心意気で残された人間は、決して嬉しくはないぞ?」
「まぁ明智の言う通りだし、キャップも正論よ、でもね私はレニだけは幸せであって欲しいの、だから脅しもかけたわ、レニに手を出したのならば問答無用で貴方達を殺すって」
脅しをかけたからといって、研究員が約束を守る保証は何処にもないと思うのですがとマリーは疑問に思います、それ程の殺意を出しながら脅したんでしょうか?確かに素人であれば、それだけで逆らえなくなる気もしますが…。
「それで貴方は、ミライ君は、どんな実験をされたんですか?」
「なんて言ったかしらね?よく覚えていないのよね、まともに勉強をできる人生でもなかったから、彼らが語っていた話は私には理解できなかったし」
それじゃあ、意味がないじゃないですかと、マリーは渾身のツッコミを心の中で我慢しました、今はそんな空気ではないという事はマリーでもわかります。
「特異性の付与、そして特殊性の付与に対する実験だろう?特異性は人間の持つ機能の拡張、そして特殊性は人間が本来持ちえない筈の特殊能力を与えようとする研究」
「なんだそれ?特異性?特殊性?スーパーヒーローでも造ろうとでもしていたのか?」
「よくわかんないですぅ、特異性とかぁ、特殊性ってぇなんですか?」
マリーには本当にわかりません、人の機能の拡張?人が持てない筈の特殊能力を与える?人魚姫みたいなキメラを作るという事でしょうか?それともケンタウロス?
「残念ながら、マリーが想像するようなモノではないわよ、特異性っていうのは例えば、このフロアには現在19人居て、稼働中のPCは23台って所かしらね、そして今丁度、自販機でそうね、これは缶、コーヒーかしらね?を購入した人が居たわね、確認してきてもいいわよ?」
そう言われるとキャプテンさんは、扉を開いて外へ確認に行きました、マリーでもこのフロアに何人ぐらい居るっていうのは、分かります。けれどパソコンの稼働音なんてものは雑音の一部にしか聞こえません、それこそ普通とは違う異音がするならば、話は別ですが、さてはこっそりカメラを見てないかと、キャプテンさんが帰ってくるまで泥棒猫の周辺を見回ります。明智さんはトリックが分かっているのか、見向きもしません。けれど少し驚愕している気もします。結局泥棒猫の周辺に怪しい物は無く、キャプテンさんも帰ってきました。
「本当にサチアが言った通りだったよ、その様子じゃタネも仕掛けもないんだよな?」
「それが…聴力の異常発達という訳か…それで特殊性というのはどういう事か、見せてもらえるのかい?」
「残念だけど、それをお披露目する事は無理ね、ミライに頼んでも無駄よ」
「何を言っているんですかぁ?潔白を証明するならぁ、今見せないでどうするんですかぁ」
マリーは怒ります、そんな事が許される訳がないじゃないですかと言わんばかりに怒ります、異常発達という感覚はよくわかりませんが、キャプテンさんの友人だった、裏切り者と同じ様な力があると言う事というのは、頭の悪いマリーでも、もう理解しています。
「サチア何故見せられないか、理由を聞いてもいいかな?」
「悪いわねキャップ、理由は2つ見せても貴方達が実感できないのと、私とミライの約束、絶対に私達が得た特殊能力は誰にも喋らない、心から信頼できる家族の約束だからよ」
「まぁ、わかったそれで今日の所は納得しよう、最後に二つ聞いてもいいかい?サチア」
「ええ、能力の事以外ならば、なんでも答えるわよ?好きなタイプから、嫌いなタイプまで、何でも」
「それは今日の夜聞かせてもらうとして…だ、どうやって君達はそこから生き延びた?というよりどうやって脱出したんだ?その実験施設から。そしてこれが一番重要だ、サチア君は少し前の離反者であるリアルという青年の顔に見覚えは?そもそも君達二人以外死亡していたはずなんだが…」
「あぁそれなら簡単よ、後者から答えると、私達が居た実験施設は叶いもしない幻想を追
い求めた場所で、それ以外のアプローチが違うだけの同様の研究を行っているって施設員が言っていたもの、私達が居たあの場所でも二種類のアプローチをしていたみたいだしね。前者はもっと簡単、私達の成功を機にレニを実験台にしようとしたから、皆殺しにした…それだけよ、それじゃあ貴方の部屋で待っているわね」
余りにも当然の事でしょ?と言わんばかりに答える泥棒猫にマリーは唖然としました、脅しが本当に脅しじゃなかったんだぁと、性格のキツさは昔からだったのかぁ、だったんだと考えましたが一番はそこではありません、裏切り者の可能性が抜けていないのに、しれっと明智さんの家で待機する精神の図太さにマリーは唖然としまた。
「まぁ、あの様子だと裏切り者の可能性は低そうでなによりだ」
「その心は?」キャプテンさんは明智さんに問いました。
「少なくてもサチアはレニ君が一番大切で、私達の勤めている会社はそれを理解してか、レニ君に最大の補助をしている。つまりは私達がレニ君の幸せ維持できるのならば、彼女達は裏切る事はないという事さ、単純だろう?」
「それってぇ、レニちゃんにとって私達が邪魔な存在になったらぁ、問答無用で裏切るってことですょねぇ?」
「そうともいうね、まぁ私が居るんだ、レニ君が不幸せになるなんて事はあり得ないよ」
ハッハッハと高笑いする明智さんですが、その自信がマリーにとってはとても羨ましく思います、マリーはレニちゃんに嫌われないか未だに心臓バクバクです。
「それじゃあ帰ってもいいか?明日からはいつも通りという事で」
「あぁ、構わないよ、それじゃあマリーも行こうか?」
「えぇ?本当に3人でするんですかぁ?やっぱり二人きりの方がぁ」
マリーの泣き言には目もくれず、明智さんはマリーの肩を抱いて、問答無用で進みました、マリーだけが大変な思いをする長い夜はまだ始まってすらいなかったのでした。
追伸、もう二度とマリーはこの三人組では、一緒に寝ません。神に誓います。
外の気温は教授事件が起きた真夏のような蒸し暑さから、だんだん秋を感じさせてきます、気温は徐々に落ち、早い所では紅葉も見ごろな季節になってきました。マリーも今のこの状況が落ち着いたら、長期休暇を取って明智さんと紅葉でも見に行きたいですねぇ、勿論旅費はマリーが払います。マリーが誘うのですから当然です。泥棒猫も行きたいというのであれば、旅費を自分で払うなら考えてあげます、誘っていないのだから当然です。
ですが今年の紅葉を見に行くのは少し厳しそうな感じがします、それは今のマリー達には休日と言えるような休日が無いからです。基本体を休める為に非番という事にはなっているのですが、何かアベンジャーズが行動を起こす度にマリー達は解決にあたらなくてはならないのです。おのれアベンジャーズと思いもしましたが、そこまでの情熱はマリーには無い事を忘れていました。マリーは明智さんと一緒に居るそれだけ幸せなのです。
しかし何もできないと言う事がストレスである事には、変わりありません、なので今日はミライ君とお出かけすべく待ち合わせをしています。マリーには今少々考えている事があります、それは来る12月24日、下々の民はクリスマスイブというでしょうが、そんな事はどうでもいいのです、24日は明智さんとついでにマリーの誕生日でもあるのです。そこでサプライズをするべく口の堅いと思われるミライ君とプレゼントを考える為のデート大作戦。待ち合わせの時間まで、まだ10分ありますがミライ君は外出するのに少し手続きがいるので、もしかしたら少し来るのが早すぎたかもしれません。
「マリー、お待たせ」
そんな考えは杞憂だったようで、いつも通りのミライ君がそこには居ました、服装もいつも通り過ぎてこれから仕事かと勘違いそうにマリーはなっちゃいましたが。
「ううん、マリーも今来た所だったよぉ、今日はぁ、マリーが行きたいところに行ってもいいんだよね?」
「あぁ、うん、そもそも街の事、俺全然知らないしエスコートとかは無理かな…って」
「そっかぁー、それじゃあマリーがこの街を案内するねぇ」
「よろしくお願いします」
男の子がどういう場所に興味を抱くのかは、マリーにもわかりません。だからこそいつも明智さんがエスコートしてくれている場所にマリー自ら案内する事によって恐らく!『マリーちゃん凄―い、何でも知ってるぅ』とミライ君はマリーの事を賞賛してくれる筈です。その賞賛にマリーは胸を張って答えるのです、全てが明智さんとの思い出ですと。
今日のデートプランが決まった所で、善は急げと言うように何事も急ぐべきです、急げば沢山の場所に行けますし、沢山の場所に行けると言う事は楽しいと言う事です、楽しいと言う事は幸せな事だとマリーは思います、だからこそミライ君にも同じ幸せを味わって欲しいのだと、マリーは考えました。
「では、行きましょぅー、一緒にぃ、れっつごー」
「れ、れっつごー」ミライ君の顔が引きつっている様にも感じますが、気のせいでしょう。
まずはマリーのオススメというよりは、マリーと明智さんの思い出の場所に向おうと思います、といっても普通の下着売り場ですが、マリーがまともな服を持っていないと言う事を知った明智さんが最初に連れ込んだ思い出の場所です。
「ど、どうでしょうか?」
「どうでしょうかと言われても…俺が来るべき場所ではないんじゃないかなって…」
「そ、そうでしたぁー」
ミライ君はそもそも男性で、女性用下着とは殆ど無縁な生活をしているのを、すっかり忘れていました、この店に男性用下着も売っていたのならば、ミライ君の時間も潰せたかもしれませんが…仕方がありませんここは即座に違う思い出の場所へ行きましょう。
マリーは走ります、マリーの中にある明智さんとの数々の思い出を胸に秘めて、マリーは走ります、思い出の洋服屋、明智さんが私に似合うといって進めてくれた少しだけ高いブランドのアクセサリーショップ、泥棒猫が明智さんと外に行った時に美味しかったと伝えてくれた今巷で女性を賑わせているフルーツのスムージー屋さん泥棒猫が先に明智さんと一緒に行っているという点は癪でしたが、これが絶品で世の女性がここまで並ぶのも理解できる気もするものでした、そして可愛らしいマスコットが有名のテーマパーク、マリーがよくお姫様グッズを買う為に贔屓にしているちょっとだけ古臭いけれど、とてもファンシー雑貨や衣装が沢山あるちょっと日当たりの悪いお店。
マリーはマリーが楽しいと思った場所を、次々と案内します。けれどもマリーには、ミライ君を楽しませることができませんでした。どこがいけなかったんでしょうか、行く先々で走ってしまったからでしょうか?マリーにはわかりません、わからない時は何故マリーが人を楽しませる事ができないのか、素直に聞くべきだと、わからない事を自分で考えて、それでもわからないのならば相手に聞きなさいと、明智さんにマリーは教わりました。今こその教えを実行するときなのです。
「ミライ君!」
「な、なんでしょうか?」
「マリーのお出かけ、どこがダメだったんでしょぅ?」
「え、いや、ダメっていう訳じゃないけどー、なんか俺が行くような場所ではなかったかなーって、サチアとかレニを連れて行くって言う意味では参考にはなったから、ありがたかったよ本当に」
「といってもぉ、このままではミライ君が全く楽しめないデートになってしまいます、ここだけは行ってみたいって場所ありますかぁ?どうにか探し出して見せますので!」
マリーの数少ない長所の一つに、この街の一度行った場所は覚えているという長所があります、といっても明智さんと行ったからこそ大切な思い出として大事に保管されているだけかもしれませんが、でも明智さんと一緒に行った場所ならば、マリーはすぐさま思い出せます。これを長所と言わずなんというでしょうか!
「あー、それなら、あそこに行ってみたいかもしれない、まえサチアが自慢していたんだよね、美味しいパンだったかな?なんか甘くて美味しい物があったとかなんとかって」
美味しくて甘いパン…、泥棒猫が行った場所を私は知りませんが、ですが泥棒猫もミライ君と同じで仕事以外では一人で外に出るのはかなり厳しい筈です、となると明智さんと一緒に行った場所になると思うのですが…、なんでしょう?マリーは考えます、甘いパン、甘いパン、甘いパンみたいなモノ?
「ミライ君それはぁ、凄く柔らかかったりしますか?」
「えぇ、どうだろう、サチアは甘くてフワフワでモチモチだったってレニに自慢していたのを聞いただけだからなぁ」
「甘くてフワフワでモチモチ…!わかりましたぁきっとあそこですぅ」
マリーはミライ君の手を引き、泥棒猫と明智さんが行ったであろう場所を目指し走ります、もう時刻は夕方になりつつありますが恐らくあの店は開いている筈、今日だけでかなり距離を走った気がします、西へ東へ、北へ南へ、上へ下へと、ですがこれで最後です、最後くらいはミライ君のお願いを叶えるべく、マリーの記憶にある道順で進んでいきます。ここをこう行って、こうというあやふやな記憶しかありませんが、あのパンケーキは甘くてフワフワでモチモチでしたから、外装は覚えています。そうこの角を曲がった先に…。
「ここですぅー、ここがミライ君の探していた場所です!」
「ここが、甘くてフワフワでモチモチのパンがある場所…」
「正確にはパンでは無く、パンケーキの事だと思います!さぁ、入りましょー」
ミライ君の手を取ってマリーはおしゃれなお店に堂々と侵入します、作戦中ならばマリー達はハチの巣にされてしまいますが、今は作戦中ではありません!さぁて後はメニューを注文するだけです。パンケーキとぉ美味しい紅茶。ここからが本当のデートなんです、優雅なティータイムが今始まります。
「どうでしょうかぁ?」
「うん、確かに甘くてフワフワでモチモチなパンケーキ?だ」
ミライ君の満足そうな顔を見るだけで、マリーの今日の目標は達成された気がします。本当に今日は明智さんの誕生日プレゼントを選ぶという目的ではありましたが、結局マリーではミライ君を楽しませる事はできなくて、荷物ばかり持ってもらって明智さんに合わせる顔が無くなる所でしたが、最後の最後で汚名返上と言った所でしょうか。
「ミライ君はぁ、なんでここに来たかったんですかぁ?ミライ君の腕なら家でも作れると思いますけどぉ」
ミライ君の料理の腕はかなりモノです、明智さんに負けない位の腕を持っていると思います、だからこそ材料と手順さえわかれば簡単に作れそうだとマリーは思ったのです。
「サチアがね、レニに自慢してからよく食べてみたいって言っていたからね、作るだけならできるかもしれないけど、サチアが食べた物に近い物を食べさせてあげたかったから」
「そういう事でしたか、ミライ君は凄いレニちゃんの事を愛しているんですねぇ、それと比べて泥棒猫ときたら、マリーから明智さんを奪うべく日頃から明智さんの部屋に入り浸って」ミライ君のレニちゃんへの愛の強さと、泥棒猫のレニちゃんへの愛の弱さを思わずマリーは比べてしまいます、けれど傍目から見ているとそうとしか思えないのです。
「外から見ているとそう思っちゃうかもね、でもサチアはサチアでレニの事を想っているんだよ、俺なんかよりもレニの将来の事を考えているしね」
「そういうものなんですねぇ」
談笑しながら、マリーは紅茶を一度啜ります、マリーは猫舌なのでチビチビとしか飲めないのです、それに比べるとミライ君は普通に飲んでいます、少し羨ましいです。
「それより、こんなに買って大丈夫なの?流石の明智もこれだけの量があったら、毎日着るものを考えるのが手間になりそうだけど」
「大丈夫ですよぉ、明智さんは真面目に生活しようとすれば、ちゃんとできる凄い人ですけどぉ、基本ズボラでマリーや泥棒猫が洗濯しに行かないと一日着たら脱ぎっぱなしにしちゃうお方なのでぇ、それにこれは明智さんの誕生日プレゼントです!」
のほほんとマリーは答えますが、ミライ君は絶妙に苦笑いを浮かべていました、まぁ普段の完璧超人らしい明智さんを見ていたらそう思うのも、不思議でもないかもしれません。
「予想通りの生活を送っていて逆に驚いた、でも明智の誕生日って12月でしょ?何故?」
「あれぇ?ミライ君には明智さんが案外ズボラな生活している事がわかるんですかぁ?」
「まぁね」自慢気にミライ君は、紅茶を啜ります。
「でも今の内に買っておかないと、直前に買おうとして、何も用意できませんでしたじゃ、お話になりませんしね、それと明智さんの誕生日はぁ24日ですよぉ」
「クリスマスなんだ、じゃあ俺達の誕生日もその日に祝って貰おうかな?」
「ミライ君の誕生日は10月13日ですよね?大丈夫ですよぉその日にちゃんとプレゼントをお渡ししますのでぇ!欲しい物とかありますかぁ?奮発しますよぉ」
「欲しい物かぁ」
ミライ君は少し顎を触り考え込んでしまいました、そんなに真剣に悩まれても、マリーも少し困ってしまうのですが、けれど欲しい物があるのならばマリーが何としてでも手に入れて見せましょう!
「なんでもいいですよぉ?お高いブランド品から、ゲームやおもちゃまで、こういう時の為にぃマリーはお金を溜めているのです!」
ムフンとミライ君に向って胸を張って見せます、ただただお給料の使い道が余り思いつかないだけですが、お姫様グッズもある程度揃えてしまえば、新たに増やす必要性も感じませんし、仕事着は会社で支給してくれますし、本当に誰かにプレゼントする位しか使い道がマリーには、わかりません。
「なんか物じゃなくて、一緒の世界を見てくれる人とかじゃダメ?」
一緒の世界を見てくれる人…、人身売買をしている国を探してなんとか行けるでしょうか?しかしそれは倫理感に問題がある気がします。
「うーん、それは難しいかもしれませんー、そういうモノは自分のお姫様に求めてみてはどうでしょうか?」
「俺のお姫様?」ミライ君は首を斜めにして頭の上に?を浮かべました。
「端的に言えばぁ、恋人でしょうか?彼女さんとかお嫁さんと言った方が正しいかもしれません、そういうモノはお付き合いする条件に加えておくべきだと思いますぅ」
「恋人ねぇ、サチアが明智に抱いている感情の事を言っているんだったら今の俺にはあんまり興味がないなぁ」
困りました、ミライ君の欲しいモノはかなりの難題です。ミライ君の誕生日までにミライ君を研究して、ミライ君の好きな物を探し当てるしか方法は…、マリーが一人で頭悩ませていると、ミライ君はお店にあるニュース映像を凝視します、そこにはアベンジャーズに賛同した民衆や、国がデモ活動を行っている様子が映されていました。
「最近増えましたねぇ、まぁ日本でも増えている原因はぁ、マリー達にも一因があるかもですがぁ、それでもテロリストには賛同しないで欲しいですねぇ」
「別に俺達は関係ないと思うけどね」
「その心はぁ?」ミライ君がズバッと言いきりました。
「要は賛同している連中は、平等を求めているんだろ?えーっと確かレニの参考書に書かれてた内容が…」そう言ってミライ君は自らの端末で画像を探しています。
「15年程前から日本は技術的に革命を起こし、世界一の防衛能力と各種産業に他国と比べ大きな優位性を得た結果。事実上の他国との関係を絶った、その自国優先な技術の隠匿に各国は日本を非難した。しかし日本に負けじと各国も革新的技術、製法を生み出しどこも各国との関係を徐々に絶つ、その結果訪れたのが現時点の事実上の無戦争化による絶対平和である。現在では各国を移動する人間は旅行客の様な一部に限られ、直接会って行う国同士の会合なども直接会う事のないオンラインが殆ど。国同士の関係性についてはP153参照、そして現在日本は事実上の完全平等化に成功している唯一の国である」
「P153参照の所まで読む必要ありましたぁ?」
「まぁ覚えてないから、そのまま読むしかなかったってのもある、とにかく言いたい事は、日本という国は国際的にみても平等な社会を実現しているというのに、アベンジャーズの自らが受けた痛みを復讐するという思想に賛同している、国から平等に保護が受けられて、平等に保険を使わせて貰えて、平等に扱われているというのに、それでも不満があるってことでしょ?そんなやつらは例え痛みの復讐じゃなくて、ごく個人的な復讐でも喜んでデモ活動するんじゃないの?」
「確かにそうかもしれませんぅ」
「それこそ、国に復讐できる資格なんてものがあるのならば俺達みたいなゴミだめ在住の
人間位なものでしょ」
あそこに住んでいるミライ君がその言葉を言うと、少し重みに違いが出ている気がします。そしてゴミだめという言葉が出た時、マリーは思い出しました、ミライ君達の過去を知ってしまったからこそ、マリーの友達の、友達の過去をミライ君は知る権利があります。
「ミライ君、今からマリーが話す事は友達の、友達の話なんですけどぉ、いいですかぁ?」
「別に大丈夫だけど…、どうしたのいきなり…」
「別にマリーの話ではないんですぅ、けれどミライ君には知っていて欲しくてぇ、聞いてくれますかぁ?」
「うん、いいよ、それを聞いたところで俺が何かしてあげれる訳ではないけれど」
その返事が聞けてよかったです、この話は別に武勇伝でも悲しいお話でもありません、ただのお姫様が大好きだった少女のお話なのですから。
「コホン、では話します」マリーは一度咳払いをして、真剣な眼差しでミライ君の顔を見つめます、しっかりと人の顔を見るというのは、少々歯がゆいですが、それは今気にする事ではありません、決して気持ちのいい話ではないですし、パパっと話ちゃいましょう。
ある施設に産まれてから外というモノを知らない少女が居りました。少女の他にも子供はいて、その誰もが外というモノを知りませんでした。ある時面倒を見てくれている大人が少女達にこう語ります。
『いつかきっと君達も外に出られるから』
少女達は大人が語る外というモノに夢中になります、外が夢のあるモノだと少女達は沢山の質問を少女達は大人にしました、それはもう沢山の事を聞きました。
そう語ってくれた大人は、次の日病気で死んでしまいます。少年少女は泣きました、しかし施設も面倒を見てくれる人間が居ないと困ると知っていたからでしょうか、大人は新しい人がすぐにやってきました。
少女達は新しい大人にも聞きました『外の話をして…、外はどんな所なの…』と一度知ってしまった外という見た事も無い場所がどんな所なのか、こことは何が違うのかを少女達は聞きますが、大人は決して答えてくれません、しかしこうも約束するのです。
『君達が、私達の目的を達成した暁には、君達が外に出られるように申請してみるよ』
そう言われると同時に少女達は、大人達に連れて行かれます。いつもの事です、お薬を飲んで、お薬を注射して、そして次の日に備えます。
外を夢見て、何日も何日も、外という場所を夢見て、外という場所に憧れを抱いて、自分達が外に出られると信じて、どんなに体がおかしくなろうとも、どんなに自分を自分だと認識できなくなったとしても、自分の命が失おうとも外を目指して、目指して、目指していきます。
幾年が過ぎて少女が女性と呼べるような年齢になった時には、一緒に外見ようと誓った友人も、食べた事の無いモノを食べようと話あった友人も、自分達が話している以外の言語を聞きに行こうと語り合った友人も居たはずなのに、自分が振り返るとそこには誰も居なかった。居たはずの友人は自らが生んだ幻想と言わんばかりに、誰一人として残っていなかったのです。
自分以外誰も居ないと言うのは、自分が好き勝手に出来ると言う事、最初は楽しかったです。いつもならば髪は短くされていたのに髪を伸ばす事が許された、強制されていた勉強もしなくてもいい、大人の話で聞いた、お姫様が出てくる物語を読む事も許された、けれどそれを分かち合う友人が居ないと知った時、彼女は絶望しまし、彼女は懇願しました。
『外に出たいの』それに大人は答えます『まだ目的は達成していない』
それからまた1年、2年、3年と月日は流れます、毎日渡されたお薬を飲んで、毎日なんらかのお注射をうって、身体を触られて、検査をして、決して変わる事のない日常を、何日も、何日も、何日も。だからこそ願いました、このお姫様の物語の様に彼女を連れだしてくれる白馬に乗った王子様の登場を、1週間、半月、半年、1年と待ち続けた時、ついに王子様は彼女の前に現れたのです。その姿は想像した王子様とは違いましたが、王子様は彼女に向ってこう語りました。
『白馬の王子を待つお姫様がここに居ると推理したんだが、まさか君自身が白馬の様に美
しいお姫様だったとは、これは一本取られたな。待たせてしまったね、君を助けに来たんだ、可愛い私の…、私だけのお姫様?』
王子様の登場で、お姫様は救われました。これで物語はお終い…ちゃんちゃん。
「といった感じでぇーす、どうですか?友達の、友達の話なんですけどぉ、とってもロマンチックじゃぁありませんかぁ?」
「マリーが明智の事をなんであそこまで、心酔できるか理由が分かった気がするよ」
あれぇ?マリーはマリーの事と話したつもりは無いのに、なんでミライ君は今の話がマリーの話だってわかるんですか?明智さんに話した時もマリーの話だとバレなかったのに。
「な、なんでマリーの事だと?」
「なんでって…、マリーが幸せそうに語っていたから?」
ミライ君は疑問顔でこちらに確認をとってきますが、マリーにはマリーが今どんな顔をしているかがわかりません、そんなに頬がにやけてしまっているのでしょうか?
「と、とにかくぅ、マリーの事ではぁないんですぅ、勘違いしないでくださいぃ、あんなのマリーじゃありませんからぁ!」
「そっか、そっか、そういう事にしておくよ、でもそうだったんだね、その囚われのお姫様と俺達はちょっと似ているんだ、自ら閉じ込められた馬鹿と、最初から囚われていたっていう違いはあるにせよ」
「そうです!この時代でも囚われるのはぁ、なにも犯罪者だけじゃぁありません!そこの所をミライ君に知っていて欲しかったんですぅ」
そうしてマリーはミライ君がもう少し外を楽しむ事でしたので先にお支払いをしてお店を出ていきます、しかし忘れたモノを思い出し、もう一度お店に戻りました。
「ミライ君、誕生日を楽しみにしといてくださいねぇ!」
今日やるべき事をやりきったマリーは少しの恥ずかしさを覚えながら、マリーのお家への帰路につきました、お仕事の後にも体感できる事ですが何かをやりきるというのは、とても気持ちのいい事だとマリーは思いました、これで明日からもお仕事を頑張れます。
その1時間後ミライ君にマリーが買った、明智さんへのプレゼントを自宅まで運んできてもらうまで、その気持ちは続いたままでした。やっぱりマリーはダメな子です。
ミライ君とのデートから1週間程経過した時の事でした、マリー達特殊事態対策班に不確定ですが、見過ごす事の出来ない情報が、お国からマリー達のもとに届きました。曰くアベンジャーズらしき人員が出入りした形跡がある場所が多数見つかったとの事です、けれどもこんな如何にも罠らしい罠に引っかかるマリー達ではありません。
「で、どう思う?今回の不確かな情報だが、それでもやつらの何かが見つかるかもしれない何かに賭けるか、それとも無視をするか」キャプテンさんがマリー達に問います。
「そうだねぇ、私達は別に国の為に戦っている訳ではないし、そもそもそこにアベンジャーズの痕跡があったとして、それが有用な物か、それに私達の命を賭ける価値があるか…」
「好きに決めて頂戴、私は正直どちらでもいいわ」「サチアに同じく、やるならやるよ」
「マリーは明智さんに従います、明智さんが行けというならば、一人でも行きます」
マリー達が考えるのは、ただ一つの懸念は情報が不確かすぎます。第五課でカバーできるのも情報源の内の一つだけです。果たしてその一つに確かな情報があるかどうか、その損得勘定がマリー達の行動を邪魔します。
「仮にあり得ないとは思うが、情報が確かだったとしても、そこが敵の本拠地ならば私達は行った所で全滅だ、行くとしても戦力を絞るべきか否か…、よし行ってみようか」
「どうしていきなりそこで行ってみようって発想になるのか、教えてくれるかしら?」
マリーも気になります、マイナスな事ばかり明智さんは言っていましたが、明智さんの中で何かが確証に変わったのでしょうか?
「行くなら少人数がいい、そもそも現状私達は大変遺憾だが後手に回っている状態だ。私の意見一つで会社が動く訳ではないが、現状を打破するならばここで動く以外の選択肢はない、それに彼らが先手を取り続けるのは不公平だろう?」
確かに現状を打破するには、ここで分の悪い賭けであっても動く以外の選択肢はないようです、それにそもそも世界に喧嘩を売ったアベンジャーズの侵攻を国が許す訳も無く、すぐにでも正式な依頼そして作戦として、動くことになるとマリーは考えます。
「すぐにでも実行するの?それとも待つ国が行けと言うまで待つのかしら?」
「僕は待つべきだと思うよ、流石に単独で動くには情報が多すぎる、それに万が一こちらの情報が抜かれていた場合はそれこそ待ち受けられて、終わりだよ」
「俺はキャプテンに賛成かな」「マリーもそれが良いと思います」ミライ君と意見が合致しました、ここは安全に動いた方が確実だとミライ君も考えたようです。
「わかった、では国の作戦に合わせようそれまでに、私がどの情報こそ一番の可能性があるか思考する、それまでは各々準備にかかる様に」
「「「「了解」」」」
そうして国が作戦の決行を伝えるのに、もう1週間を要しました。これでも迅速に動いた方だと明智さんは言いますが、その分相手にも準備する時間を与えてしまったなと、少し嘆いていました。しかしそれでも世界各地で同時に拠点を襲撃するという一種の、一致団結ができたという点ではいい事なのかもしれません。
マリーの足りない脳みそでは、情報源全箇所一斉攻撃以外の方法は思いつきませんでしたが、マリーに明智さん程の頭脳があれば、他にも案を出せたかもしれないと嘆く時間もありません、今はただ敵の拠点で一つでも明智さんの推理の為になる情報を見つけるというのがマリーの出来る最善手です。
「マリー、サチア、準備はいいかい?」
「出来てるわ」「行けます!」
「それじゃあ、作戦開始だ…」
この作戦は敵拠点に隠密で侵入、敵が居れば拿捕もしくは排除をし、一つでも多く情報を持ち帰る事です。そもそもその情報があるという確証も無いのが問題ですが…。
キャプテンさんが自分こそ前線で作戦に参加した方が良いと、作戦直前まで明智さんと言い合っていましたが、明智さんは『私の推測が外れだった場合すぐさまデータを本部まで安全に持っていける君という戦力を削ぐのは効率的じゃない』と語り、けれどキャプテンさんもそんな事は百も承知で、それでも明智さんの推測が正しいと思っての発言だったと、マリーは思います。ですが明智さんの言いたい事はマリーにもわかりました、もしもを考えた場合、キャプテンさんが私達と行動を共にするのは明確な弱みになります。
その上でのキャプテンさんの独立遊軍化、世界各地全てをカバーするのは流石のキャプテンさんの技術でも不可能ですが、なんとか日本に限るならば、どの移動手段よりも最速である事に変わりはありません。
全世界に喧嘩を売ったアベンジャーズ、この作戦ですら尻尾を掴ませないというのなら、もうお手上げの状態ですが、そうはならない事をマリーは静かに祈りました。
「クリア」
泥棒猫が先行し誰も居ない事を確認し、猫は猫らしく足音も、物音一つ立てずに内部を確認していきました、マリー達はクリアという言葉を聞いて扉を後ろから着いていくだけのおもちゃになっていればいいと言わんばかりに、ズカズカと泥棒猫は進みます。
「ちょっと待って、何か聞こえる…これは何?」
これは何では何かは、わかりません。具体例を出してほしい所ですが、その音は泥棒猫の特殊な耳で無くても聞こえてくる程の音でした。
風の様な音ですが、どこか機械的です、巨大なファンといえばいいでしょうか?少なくても暴風等の自然現象ではないと言う事は、わかります。けれどもここからでも聞こえる程の爆音の冷却パーツが現代に残っているでしょうか?
「どうする明智入る?入らない?その気になれば外から確認するけれど…」
「ふむ…、少し嫌な予感がする…これはキャップを連れてきた方が英断だったかな?いやこの感じだと全部か、しかし私が知っているレベルであれば何とか対処は出来るか?」
明智さんはブツブツと独り言を話します、マリーには何を考えているのかわかりません。しかしキャプテンさんが必要だったというのは一体どういう事でしょうか?まさかこの先にはキャプテンさんにしかどうにかできないような武器が格納されているのでしょうか?もしそんな巨大な武器が目の前にあるとするのならば、マリーには成すすべがありません、ひしひしとマリーの、そして明智さんの死の足音が近づいている気がして、普段は出ないような冷や汗が一粒マリーの横頬を通りました。
「明智さん開けるのは、マリーがやります」
「というか、いつものホンワカ口調はどうしたのよ?貴方の個性の一つじゃなかったの?アレ」泥棒猫が要らない事を聞いてきました、できる時とできない時もあります。
「いや、そこまで気を張らなくていいよ、私が開けよう少なくても今は相手が仕掛けてくる時ではない」
その自信がどこから湧いてくるのか、マリーは不思議でしょうがないですが、明智さんが言うのであればマリーは信じます。明智さんはもう全て解っていると言わんばかりに、悠々と扉を開きました。そこにあったのは型落ちしたPCでしょうか?少なくてもマリーが見た事のないPCです。というのもどこか古めかしく、そして分厚いというのが感想でしょうか、無駄に大きな箱と前時代的なボタン式のキーボード、キャプテンさんが偶に使うので似たような形は見た事はあります、けれどもそれよりも色々古さを感じさせる、良く言うのであれば、味があると言って、悪く言うならば、清潔には見えないそのPCを明智さんは躊躇いなく起動させました。
「触って大丈夫ですか?明智さん!」
「大丈夫だよ、安心してくれたまえ、今から私はここからデータを抜き取る、そこから先はどうなるかは、恐らく最悪のケースだ、急ぎ準備を」
「了解、そういう事ね」
「えっ?えっ?」何がそういう事なんでしょうか、マリーには一切わかりません。
そそくさと泥棒猫は完全武装の準備をします、敵がもうすぐ傍に居ると言う事でしょうか?ならばと、マリーも愛用のプリンセスソードを地面に刺し明智さんの背後を死守する形で佇みます。ふと後ろを振り返ると明智さんがデータを抜いているのでしょうけれど、その進行スピードはとてもゆっくりでした、なぜここまで遅いのかを考えている余裕までは今のマリーにはありませんが、考えられる事があるとするのならば、アベンジャーズは平等主義である事、もしかしてこの情報は全て真実で、全ての場所で情報を抜ける様になっているのではないでしょうか?とマリーは考えました。それを確認しようと振り返った時、明智さんが最悪のケースといった意味が理解できました。
データのコピーを完了しました、これにより同期端末全てのデータを消去します。
この一文だけが先ほどまで、データをコピーしていたPCに映っています、つまるところ他の場所は全て無駄足だった言う事です、そしてもし敵がどこのメンバーが情報を奪取する可能性が高いかを計算していたとしたら…、そこまで考えた所でマリーの体は自動的な反射行動の様に明智さんを抱き、泥棒猫の首根っこを掴みます。
「「なっ!?」」二人の驚きの声が聞こえますがそれは、いったん無視します。
今行うべき行動は、応戦ではありません、戦略的撤退です。
「逃げます、絶対に離れないでください!」
「あぁ、了解だ。マリー全力で逃げたまえ」
「貴方に掴まっても文句言われないのは、初めての事ね」
マリーが地面に着地し、一歩踏み出そうとしたその時でした。背後から銃声と、爆発音間違いなく3人で相手するには多すぎる数の敵が潜伏していた事になります。この数に気づかなかった泥棒猫の耳には、あとで文句を言いますが、今はマリーの持つ人間の領域を遥かに超えた全力の脚力を魅せる時が来ました。
放たれる銃弾も、爆破で飛んでくる破片もマリーを掠める事はありません、銃弾よりも爆弾よりも足が速い訳ではありませんが、人の認知が間に合わない程度の脚力をマリーは、持っています。
「マリーこの走りは何処まで持つ?」
「ハァ…数分と言った所だと思います…ハァ…」
「そこまでにキャップが間に合うか、敵に補足されないか、これが鍵ね…ミライ!狙える距離に居る?」
走る事に集中しているんですから、近くで大声を出さないでくださいと言いたいところですが、今は猫の手も借りて全力で振り切らなければなりません、今は走る事だけを考えます。5分程度が経ち約4キロと言った所でしょうか、そこまで走ってマリーの持久力は一度切れます。
「キャップ、後何分必要だい?」
『あともう5分程度、どうにか持ちこたえる事ができるかい?』
「あと5分ね、流石に5分もここで待つ訳にもいかないし、そもそも敵を少し減らさないと、キャップが撃ち墜とされる可能性もあるかしら?」
「そうだね、私達が取れる最善は前線を下げながら、相手の前線を押し戻す事かい?それをするには武装も人員も足りなすぎるが、理不尽なゲームにしてはなんとか勝機もあるか」
「ハァ…マリーも戦いますぅ……ハァ…ハァ…」
マリーは心臓の鼓動を調整して、普段の心拍数に無理やり戻します、普通の人間にはこうはいきませんが、マリーは残念ながら普通ではないので、無理が利きます。
先に戦闘を開始した明智さんと泥棒猫にマリーは提案します。
「いやマリーは少し休んでいてくれたまえよ、もう一度走ってもらわないとミライの援護は期待でき無さそうらしいしね、そうだろサチア」
「えぇあのバカが他の援護に行った所為でね、精々終わった後にボコボコにするわ」
救援ならば仕方の無い事なんじゃと思いますが、確かにマリー達以外の班が恐らく無駄骨になった今、そう思いたくなる気持ちもわからなくは無いです。
明智さんや泥棒猫の頬を見ると少し焦っているのか、汗が垂れているのが見えます、流石に状況が絶望的過ぎると言うのが現状では、仕方ない事なのかもしれません。だからこそ私は愛する人達の為にマリーも前線に赴きます。
「マリー?」
既に戦闘を始めている二人はこちらを見はしなくとも、若干の驚きを見せます、まさか休んでいろと言われたのに、戦線に出てくることは想像していなかったのかもしれません。けれども、それでも、だからこそです。
「皆で帰るんです、その為ならば多少の無理も通せます!」
「なら証明してみなさい、決して死なない事でね、行くわよ!」
先陣を切った泥棒猫と合わせるようにマリーもすぐさま、泥棒猫の背後まで追いつき、思い切り敵を薙ぎ払います。生まれ持ったパワーも、俊敏性も、脳が認識してから反応する速度も、全てを司る神経もマリーに勝る人間はこの世に居ません、それを初めてマリーは誇りに思います。
敵に苦戦するような手練れは居ませんだからこそ、気を抜く事さえなければ絶対に、皆で無事に帰れる筈なんです。多少の敵は押し返せます、泥棒猫もそれを理解しているのか、マリーのもとへ敵を集中させてくれています、マリーはプリンセスソードを全力で振るいました、その直後に右腕に若干の痛みが走ります、恐らくどこかの筋肉か骨が異常を来しているみたいです。そんな痛みも少し休めば全快します、私はそういう人間なのでマリーは自分に言い聞かせましたプラセボってやつを信じて、一度物陰にでも隠れれば回復です。
「明智!」
泥棒猫の声が聞こえるより、先にマリーの瞳は明智さんを捉えました、明智さんは別に元気に敵を殺し回っています、武器も見せずにどうやってと毎回不思議に思っていましたが、マリーの揺れた瞳はそんな明智さんではなく、明智さんのすぐ傍にいる敵に目が行きました。マリーのプリンセスソードでも一撃では死ぬことは無さそうな、頑丈そうな装甲を持った敵です、しかしそんな頑丈そうな装甲は見せかけで、マリーにはそれ以外の事をしようとしているようにしか見えないのです。自らの命が残る事を考えていない、そうまるで自爆特攻の様にしかマリーには考えられません。
「あ……」名前を呼ぶよりも先にマリーの両足は、明智さんへと駆け出しました、肉体の限界を越えての稼働は推奨されていないのは、マリーが一番分かっています、けれどもマリーは限界を越えてでも動かずにはいられませんでした。
ブゥンとマリーのプリンセスソードは音を鳴らします、右腕の痛みなんて忘れてマリーは頑丈な装甲兵を両断しました、その判断が正しかったのか、間違っていたのかはわかりません。直後に爆風の煽りを受けてマリーは飛ばされますが、プリンセスソードを盾にして爆風の直撃は防いで、何とか明智さんを抱きかかえて地面を転がりました。
爆風を防いでくれたプリンセスソードは切先どころか刀身の四分の一が破損、明智さんを少しでも守る為に伸ばした左腕は激痛を伴っていしまって、ちょっとこれは回復には時間を要しそうです。何よりの問題は、マリーは明智さんを完全には守り切れませんでした。自爆装甲兵の身に着けていた装甲でしょうか?それが明智さんに決して軽いとは言えない傷を残しています。
ただマリーの足は、限界を越えてもなお壊れてはいませんでした、当初の予定通り一旦物陰に隠れにいきましょう。
「明智!大丈夫?」泥棒猫も先ほどの爆風を見て一旦前線を下げてきたみたいです。
明智さんは、呼吸をしていますが、それでも間違いなく予断は許さない状況です、一刻も早く専門家がどうにかするべき問題です。泥棒猫は泣きくずれそうな顔をしながらマリーの背中にいる明智さんに、手を当てます。
「そんなに心配なら、貴方が運びますか?」
「貴方が残るって言うのかしら、その意味わかって言ってるの?マリー、貴方がこのデータと死に損ないを届けなさい、これは命令よ。第一貴方の方が私の何倍も速いし、それに…明智の事を………」
泥棒猫がそこまで言って、言葉を詰まらせます。これを言ってしまえばマリーに敗北宣言をしたといっても過言ではないと言う事をわかっているからでしょうか、それとも…。
「でも貴方の目の前にもう一人の死に損ないが残っていますけど、どうします?」
「貴方は死なないでしょう?それに私が死ぬことは無いもの、死なない人間が前線に残る、これ以上に相手にとって迷惑極まりない行為はないでしょ?」
強がりには見えない、その笑顔にマリーの胸は一度大きな音を鳴らします。
「そうですね、ではマリーは明智さんとの愛の逃避行を……」
そんな時でした離れすぎて不通になっていたミライ君との通信が繋がります。
「ミライ君!援護は出来ますか?」
ミライ君の狙撃があれば、泥棒猫もかなり楽をできる筈です。ですがその通信は普通な物では無く必死に、何かを訴えかけるものでした。ミライ君がこんな声を出すなんて正直予想外と言えば予想外ですが、けれどミライ君はそれ程までに…。
『サチア、家に、ゴミだめに戻ってくれ、レニを助けろ!』
「貴方がその様子じゃあ、それはもう確定しているんじゃないの!それをどうしろって…」
『確定はさせてない、だけど…先延ばしにできる時間もそこまで長くない、この状況でも…お前なら助けられるだろ!』
確定、先延ばし、マリーにはよく解らない単語が次から次へ耳の穴の右へ左へ、右往左往と、結論をから言うと分からない…です、マリーには理解できません。だけどやるべき事は決まったみたいです、少し気合を入れましょう。
「役割変更ですね、貴方が明智さんを運んでください」
マリーは明智さんをゆっくり、貴方に寄せ掛けます。貴方もそれを理解しているからこそ、明智さんをしっかり押さえて受け取りました。データも明智さんのポケットに入れてあります、大丈夫です。
「マリー……約束して頂戴、絶対に死なないで……もう自分の無力さで誰かを傷つけるのは嫌なの…」
マリーが憧れた貴方が、なんて顔をしているんですか、貴方はマリーより格好良くて、綺麗で、料理はできないけれどお片付けはできて、完全かと思ったら不完全で、マリーと似たような境遇でも自分で抜け出せて、強い人なんです、だからそんな今にも泣きそうな少女の顔をしないでください、折角の美人が台無しです。でもそんな貴方がマリーの事を一番に思ってくれるのは、少しだけ気分が良いです、決してレニちゃんやミライ君には勝てなくても、この一瞬だけはマリーが勝っていたと信じます。
「安心してください、マリーが明智さんの誕生日を前に死ぬと思いますか?」
嘘です。
「ミライ君の誕生日も祝うって約束したんです、約束を反故にするお姫様はいません!」
嘘です。
「それにマリーが勝手に毎日の日課にしている、明智さんとのキスもまだしていません、それを残して死ねるとでも、思いますか?」
全部嘘です、私は嘘つきです。
いくら超人的肉体に回復力を持つ、マリーでもこの怪我のまま戦って無事でいられる訳がないでしょう、間違いなくマリーはここで息絶えます。
「マリーは死にません、約束しますか?」
マリーは嘘つきです、なのになんでこんな言葉がでるのでしょう?
「マリーは…っ」
貴方がマリーの唇を強引に奪ってどうするんですか、貴方とのキスは日課ではないのに。けれど凄く心地の良いキスでした、このキスはきっと死ぬときも決して忘れないと断言できるくらい、心地の良いキスでした。この時間がずっと続いてくれればいいのに…。
「約束よ…必ず帰ってきて……」
「約束です、必ず帰ってきます。こんな心地の良い気持ちを知ってしまっては、病みつきになってしまって、依存してしまいたいくらいですので」
この嘘を、嘘でなくする為に…マリーは、私は前線へ赴きます。絶対に死にません、絶対に負けません、絶対に一騎足りとも貴方の背後へ近づけさせません。
「そうだ、帰ったらマリーの引き出しにある小さな箱、それを貴方にあげます」
「一体どういう風の吹き回しよ、まさかそこに遺書があるとか言わないでしょうね?」
「違いますよぉ、そこには貴方への誕生日プレゼントがあります、誕生日に渡すのは恥ずかしいので、勝手に取っておいてください」
「プレゼントの代わりに遺書なんて入っていたら、マリー、貴方を私が殺すわよ?」
「あはは、遺書なんて入っていませんよ、本当に私からの気持ちです」
遺書なんて物は入れてません、私からの手紙があるだけです、そしてちゃんと貴方の為に買った香水も入っています、私と同じ物です、精々嫌がって私の匂いを纏ってください。
「それじゃあまた後で、今度は情熱的な物をお願いします」
「!……えぇ、覚悟して起きなさい、マリーを最高の私だけのお姫様にしてあげる」
「はい、私をアナタだけのお姫様にしてください!」
とても嬉しい告白でした、それだけ聞ければ私は満足です。明智さんごめんなさい、私は一旦浮気します、お姫様から、大切な人達を守るナイトになります。
銃声や、爆発音が近づいてきました、ここから離れる足音もしっかりと聞こえます、こちらを振り返らず、真っすぐ、ただ真っすぐ進んでください。折れたプリンセスソードも私の体同様、限界を越えてもらいます。たった一人で立ち向かうのは、少し怖いですが、一人でも沢山の相手をできるように私は作られたのです、その役割を今こそ果たします。
「私は今から、お姫様を辞めます、貴方達全員をこの世から抹殺する事でその証明します!だから覚悟してくださいね?」
あぁ、愛した人の人生を…、恋した人の背中を…、マリーを救ってくれた王子様に抱く愛慕、私の憧れの女性に抱く恋慕この二つの為に。移り気激しいマリーと私ですが、その為に戦えるマリーは、私は、世界で一番幸せでした。
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