第32話 祈る神は居らず
頭上の太陽は真上へと昇っています。
煌々と日の光に照らされて、石造りの教会は白く、そして鈍く、その存在を違和感として放っていました。
「ううううううぅ……」
「寝ていた方が良かったと思いますけど」
「シャリーネちゃんが心配で、うぅ……」
私の隣にいる目元を隠した仮面の騎士こと盗賊が生きがいの第1皇女、マウさんは絶賛二日酔いでふらついています。
昨晩は酔いつぶれたマウさんを担いで宿屋に戻り、結果として
心配していただけるのは嬉しいのですが、絶対に休んだ方が良いと思います。
「ありがとうございます。では、行きましょうか」
「うん……」
両開きの扉を開いて真っ先に感じたのは、やはり違和感でした。
流麗で真新しい礼拝堂の内装は、外壁と同じ白を基調としています。
左右を挟む長い木椅子の間を赤色の絨毯が通っていて、奥にある祭壇は青色に塗られた
異国の教会。
そんな短い言葉では言い表せない程、まるで息が詰まるような感覚に陥りました。
「おや、礼拝ですかな?」
祭壇の下で跪く人物がいました。
赤い祭服を着た初老の男性はゆっくりと私たちに振り返ります。
「寂れた土地の教会ですが、神は等しく――」
その目が、見開かれました。
まるで……ありえないものでも見たかのように。
「どうかなさいましたか?」
「――いえ、失礼。同業の方とはつゆしらず」
同、業?
「……お初にお目にかかります司祭様。私たちは旅の者でして、よろしければ祈りを捧げても?」
「ええ、えぇ……もちろんですとも。貴女のような清廉なシスターの頼みでしたら、いえ、神はいつでもどなたでもどんな願いでも受け入れますよ」
「…………失礼いたします」
横に退いた彼の横に跪き、祈りを――。
『……ォォオオ!』
「っ!」
――捧げる、必要は無さそうです。
「どうか、なさいましたかな?」
「……いえ」
なるほど。
「ありがとうございました」
これは。
「もう、よろしいのですか? よければお茶でも」
救えませんね。
「お申し出ありがとうございます。ですが、私の騎士様の体調が優れないまま無理を言ってここに来ましたので……本日はお暇させていただきます」
「……うぅ。え?」
『……ォォオオオ』
気配は、地下から。感覚はネフィルの村の怨霊と酷似していました。
ですがそれは曖昧で虚ろ気で莫大で。まるで空気そのもののように。
「それはそれは、大切なお身体です……どうぞ御自愛ください」
「ありがとうございます」
私は
「ごめんねシャリーネちゃん……」
「いえ、助かりました」
小声で短いやり取りを交わして、外への扉に手をかけた時です。
『……シャリーネ』
「っ!?」
神の声が、聞こえました。
『――――』
『――――』
「どう、されましたかな?」
『――――』
『――――』
私は、ゆっくりと彼に振り向きます。
「一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
今ならハッキリと。
『――――』
『――――』
「はて、何ですかな?」
『――――』
『――――』
彼の周囲に漂うものが見えます。
「この教会で、祀る神の名を知りたいのです」
そう、これは。
『――――』
『――――』
「――――」
『――――』
『――――』
挑発。
「いえ、不躾な質問をお許しください
教会を、神の名を驕る者への明確な宣戦布告でした。
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