第24話 鉱山街ロスレー
夕暮れ空の下、山の中腹を切り抜いたような土地にて。
最初に襲ってきたのは濃密な土の匂いでした。
「ここが……」
「ようこそ! ドラギルト帝国領、鉱山街ロスレーへ! なんてね」
近づくに連れ増えてきた木々の緑、それでも街の中は土色で。
街の入り口を、人工的に作られたと思われる広い川が横切るように流れていて。
街中に伸びた長く続く砂利道、交差する無数の坂道。
一階、もしくは二階建ての木造家屋が道を作るように連なっていて、色味は黒が多く感じます。
それでも所々にある木々の色がその暗色を和らげていた為に温かく優しい印象で、マウさんから聞いていた話で浮かべた想像に、良い意味で裏切られました。
「……凄い、ですね」
「そう? そんなに驚いてくれる? うわあ、嬉しいな! そんな反応してくれるなら帝都ドラギルト、ボクの住む場所もいつか案内したいよ! 絶対に喜ぶから!!」
ゴロツキの街、と言われていましたが街の中を出歩いている方は女性が多い印象を受けます。
中には男性もいらっしゃいますが、どなたも筋骨隆々で、まるで自分の肉体を見せびらかすかのように上半身は裸でした。
ルーチェ大聖堂のお爺様たちとは大違いです。
「とりあえず夜になる前に宿を取ろうよ、ほら!」
「ありがとうございます」
マウさんに差し出された手を取って、私たちはロスレーの街の中へ――。
『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!』
「っぁ!?」
――入ろうとした瞬間、突如として爆音が響きました。
大地がゆれ、強まる土の匂い、それよりも強烈な……焦げ臭さ。
「ま、マウさん! お気をつけて!!」
私は警戒しながら、マウさんの手を握る力を強めました。
「アハハハハ! 大丈夫大丈夫!!」
しかし、マウさんは笑っていました。
な、何故?
「これは火薬を爆発させて山を掘ってるだけだよ。ほら、あっち」
マウさんが指差す方向、坂を上った先にある街の奥の岩肌から黒い煙が立ち昇っていました。
それと共に目に入った、街を歩く人々も平然と歩いています。
つまり、これが日常的なのでしょう。
驚きです。
「アハッ! シャリーネちゃんも怖いものがあるんだ! 可愛いね! ウケる!」
「あ、あまりからかわないでください……! 大きな音は、少し苦手なだけで」
『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!』
「ひあっ!?」
「アハハハハ!!」
こ、この街は嫌いです!
こんな危険な場所にモルテラ様がいるなんて……一刻も早く見つけなければ!
「ほら、お姫様。ボクと一緒なら大丈夫だから、ね?」
「……姫は貴女でしょうに」
「アハハ、そうそれ! それが欲しかったんだよ! あ、そうだ」
中性的な顔のせいか、マウさんがとても頼りになる気がしました。
そんな彼女がケープマントの中から取り出したのは目元だけを隠す白い仮面。
それをつけると、くりっとした黄金色の瞳が隠れ、より流麗な男性に見えてしまいます。
「一応ボク、この国の皇女なの隠してるからさ」
「それはそれで、目立つと思いますが……」
「ふーん、カッコよくて?」
「その口を閉じていれば」
「ふふふ! やっぱり良いね、シャリーネちゃん! お近づきの印です、ちゅっ」
握られた手の甲に、キスをされました。
悪い気は、あまりしませんでした。
「へへへ、お暑いねぇ……お2人さん、見せつけてくれちゃってさぁ……」
なんか来ました。
道中で襲ってきた山賊と同じような見た目の中年男性です。
「なあ、そこのシスターさん、そんなひょろい兄ちゃんじゃなくて俺と一緒に」
ナイフが、彼の左頬を切り裂きながら通り抜けていきました。
「邪魔」
「んなぁ!?」
ツゥっと、血が頬から滴ります。
「失せなよ」
「て、テメェ!」
私の肩を抱き。
「次は当てるから」
「……ぐっ」
ダガーナイフの切っ先を、男性へと向けました。
「忠告はしたよ」
間近で見上げる横顔、仮面の奥の瞳に本物の殺意を込めて。
「……チッ! お、覚えてろよ!?」
中年男性は捨て台詞を吐きながら全速力で去っていきました。
「これだから能無しは……あ、シャリーネちゃん大丈夫?」
「いえ、あれぐらい私でもすぐに」
「だよねぇ! けどボクだってカッコいい所見せたくてさぁ……惚れた?」
「いえ、そこまででは」
「ちぇー」
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