幕間1 とある大司祭と死神長の話
大聖国ルーチェ。
大陸東部にある祈りと平和の宗教都市。
その象徴たる巨大な建造物、ルーチェ大聖堂には大陸中から礼拝に訪れる者が後を絶たず、文字どおりの聖地となっていました。
「神よ……」
陽光がステンドグラスから差し込む礼拝堂。
そこに跪き祈りを捧げる1人の男性がいます。
黒地の祭服、背にはルーチェのエンブレムである太陽から羽ばたく二匹の鳥。
白金の短髪、顎に生やした無精髭、頬は痩せこけていてもそのぎらついた赤い瞳には生気がみなぎっていました。
彼の名はゴルザード・ルーチェ。
その名が示すとおり、大聖国ルーチェの大司祭、国を統治する者。
「シャリーネちゃんにも、ついに反抗期が来てくれました」
そして、7人の聖女の、義理の父親であり。
「感謝、とても感謝」
極度の、親バカでした。
「変わらんな、キサマは」
「……おや」
その首に鈍色の大鎌がかけられます。
ゴルザードは目を丸くして、両手を上げました。
「私の祈りが、届きましたかな」
「夢枕に出てくるほどの浮ついた戯言は聞き飽きた」
敵意剥き出しの声音。
ゴルザードは、首にかけられたその丸い刃に指を這わせながら振り向きます。
「お久しぶりです。我が神よ」
「他人事だな、忌々しいほどに、人の癖に」
「そう? じゃあ……やっほーアルちゃん、おひさ~」
「ぶち殺すぞ」
彼の視線の先にいたのは1人の女性。
背は高く、線は細い身体に纏った漆黒のローブ。
その内から主張する大きな胸の膨らみ。
病的なまでに白い肌。色を失った白髪。切れ長の瞳は、紅。
「まさか、死神長であるアルちゃん直々にお迎えをしてくれるなんて」
「まさか、ただの暇つぶしだ。あと、アルテと呼べと何度言えばわかる」
死神長、アルテ。
天界で死者を管理する、死神の長の女性。
「まあまあ、僕とアルちゃんの仲じゃないか」
「そういう軽薄なところが、ワタシは嫌いだよ」
「僕は好きだよ。だからとりあえず、これ下ろしてくれない? 手、疲れるでしょ」
「チッ」
彼の言葉に忌々しげに舌打ちをし、アルテは大鎌を下ろしました。
「久しぶりの再会だしゆっくりしていってよ。積もる話も、したい話もあるしさ! とりあえずお茶持ってくるから待ってて!」
「……勝手にしろ」
細身の中年男性、ゴルザードはまるで子供のように礼拝堂を飛び出していきます。
その背中を見つめていた死神の女性、アルテは白い髪を掻きながら大きな溜め息を吐きました。
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