第14話 舞い奔る聖女
暗色の炎を掻き消すように、照らされた白銀の刃が輝いて。
刻まれた大聖国ルーチェのエンブレム。
中央の太陽は燃え上がり、そこから羽ばたく二匹の鳥はまるで不死鳥。
柄に浮かぶ古代ルーチェ文字をなぞりながら、刃に手を走らせて振り上げます。
目標は前方、巨大ゴーストの執念体へと。
「神の御前です」
疾走。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアッッッ!!!!』
跳躍。
「頭が高い」
一閃。
『オアアアアアアアアアアアオオアアアアアアオアアアアッッッッッ!!!!!』
掴んだ柄を通じて伝わる魂の重みを斬り伏せます。
右膝から下が消失した巨大ゴースト。
叫びもがきながらその姿勢を崩しました。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
『シャリーネ! 上です!!』
「御意に」
叩きつけられようとした巨大な握り拳を、デスサイスで斬り上げながら宙で逆さまに一回転。
ゴーストの右手首から先も消失していました。
「ありがとうございます。いち早く危機に気づくとは、流石のご慧眼でございます」
『いえいえ! それほどでもありますけどね!』
手で大鎌を回し、切っ先を再度ゴーストへ。
私の手の中の主は愉快そうに笑っておられます。
「お味はいかがでしたか?」
『言うまでも無く最悪ですよ』
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
「おかわりもございますが」
『せっかくなので頂きましょうか!』
いつの間にか再生していた右腕を馬鹿の一つ覚えのように叩きつけてきました。
ステップを踏んで横に跳び、私を軸にしてデスサイスを振り回します。
横薙ぎに一回、二回、三回転。
手首、肘、肩と魂を天へと。
『オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』
股下を奔り抜け、勢いそのままに大鎌を振り抜きます。
右足、左足、もう一度右足。
下半身を無くした巨大ゴーストは赤子のように這いつくばりました。
「流石です、モルテラ様」
『アナタもですよ、シャリーネ!』
恐悦至極。
湧き上がる感動を胸に大鎌を――。
『オギャアッ! オギャアッ! オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!』
――振ろうとしたところで変化が起こりました。
駄々をこねる幼子のように這いつくばるゴーストがもがきます。
それに招かれるように、魂が周囲から現れては吸収されていきました。
発生源は暁闇に揺れる赤黒の炎。
村全体を覆う炎壁から飛び出した魂たちがまるで泣き子をあやすかのようにゴーストへと集束を続け、その巨体を再生させていきます。
『うわ! 面倒ですね。ワタシとしては嬉しいですけど』
「まだ神器は保てそうでしょうか?」
『常に魂を補給できているので無敵です』
「流石モルテラ様です」
『――オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』
瞬く間に巨大ゴーストは元通りになってしまいました。
先ほどよりも更に、そのある筈の無い質量を増して、とても大きく。しかも分が悪い事に、炎の壁はまるで勢いが減っていません。
ですが此方もモルテラ様がいればいくらでも魂を天に送れます。
あちらが勝つか、私たちが勝つか。
同じ条件化での消耗戦、が……?
「……モルテラ様、私とても良い事を思いつきました」
『正面突破ですか? 望むところですよ!』
「いいえ、あちらをご覧ください」
切っ先を炎の壁に向けました。
いいえ、表現が適切ではありませんね。
炎だと思っていた魂たちの隔壁へと。
「ご馳走の山だとは思いませんか?」
『……確かに。ですが、正気ですか? あの中に突っ込むと言う事は流石のアナタでも無傷では』
「私はいつでも正気です。モルテラ様の為なら、例え地獄でもお供いたします」
『……はぁ、わかりましたよ。アナタに全部任せます。どうせ聞かないんでしょ?」
「感謝いたします。では、最後の我慢比べ。お付き合いください」
巨大ゴーストを置き去りにして、私たちは全力で村の外へと駆け出します。
『我慢は嫌なので、楽しくやりましょうよ。ダンスとかどうです?』
「それはとても素晴らしいです」
デスサイスを振るって村を塞ぐ怨嗟の炎渦へと飛び込みました。
神と手を取り合い、この村の苦しみを終わらせる為に。
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