第6話  死神・追放

 それはワタシ、モルテラ・デスサイスが天界にいた時の話。


『モルテラ、オマエは今から人間界に追放だ』

『なんでぇっ!?』


 無慈悲に、淡々と、それは告げられました。

 突然に唐突に突拍子も無く、死神の長から。


『たび重なる魂回収のサボり、再三の注意を無視した後に招いた一度目の追放勧告も地獄の門で駄々をこねるボイコットから他部署にも迷惑をかけ、特別な寛大措置としての最後通告である大聖国ルーチェの司祭、ゴルザード・ルーチェの魂回収という重要任務において……聖女とはいえ禁止されている人間との接触、無許可での加護の付与、自身を神器として職務の勝手な委譲、そして失敗』


 嘘です。

 心当たりしかありませんでした。


『あの日、あの場所で、ゴルザード・ルーチェという、人間においての最高権力者の1人は死ぬ筈だった。この意味がわかるか?』


 事実しか告げない上司。

 理詰めされるの、ワタシ凄く苦手。


『力ある者がいなくなれば、拮抗が崩れる。崩れたものを埋めようと、時代が動く。良い悪いは関係ない。これが人の世の理だ。それを、お前は、根底から捻じ曲げた』

『あ、あの……ワタシじゃなくてやったのは聖女ひぃぃっ!?』


 大鎌が飛んできました。

 クルクル回りながら刃の部分がワタシの首の周囲を通り過ぎていったのです。

 助かったとは思いません。

 だって絶対にワザとだもん。


『その聖女の凶行によって、更に人が、国が動いた。何だアレは』

『わ、ワタシに聞かれても……』


 第7聖女シャリーネ・ルーチェ。

 聖女の末席で、一度も神託が下っていない初心うぶな少女。

 

 他の聖女だと我が強すぎて干渉すらできなかった。

 けど彼女ならワタシの完璧な作戦に使えそうと思ったのに……実際は一番とんでもなかった。


『ていうかおかしくないですか!?』


 だんだんイライラしてきました。

 何にって?


 こんな無理難題ふっかける過酷な労働環境と上司に対してです。


『死神の中でも下っ端も下っ端なワタシがあんな聖職者揃いの場に入れる訳ないじゃないですか!!』


 何あの神気!?

 人が発して良いレベルを超えてますよ!

 それも聖女1人1人が全員!

 あの司祭に至っては死にかけの癖に上位神かと思いましたもん!


『1万』


 死神長が何か急に呟きました。

 もうちょっとわかる言葉使ってもらってもいいですか、ねえ。


『オマエが死神になってから、回収される筈だった魂の数だ』


 ごめんなさい。


『オマエの代わりに働いていた別の者たちから複数の苦情がきている。それも毎日』


 あの、もう大丈夫なんで……。

 

『そして昨日、満場一致でオマエを天界から追放する案が可決された』


 それ以上言わないでぇっ!!


『……だが、ワタシも悪魔ではない』

『嘘じゃん』

『何か言ったか?』

『いいえ、何も』


 地獄耳ってこういう事を言うんだ。

 ここ、天界なのに。


『100万だ』


 は?


『人間界で100万人の魂を回収できたら天界に戻してやろう』


 え、これワタシの聞き間違えかな。

 急に頭悪い数字使うじゃん。


『もちろん、死神の力は全て没収。人間界にいる間は人として生き、達成出来なければ人として死ぬ』

『はあっ!?』

『だが、ワタシも悪魔ではない』

『悪魔だよ』


 何でまた同じこと言ったの?


『オマエが魂を回収する毎に、死神の力を少しずつ返してやろう』

『えっと……没収されたらそもそも魂を天に送れないんですけど』

『そうなったら、死んだオマエの魂はワタシが直々に回収してやろう。ハッハッハ』

『はっはっは』


 くそつまんないなこのジョーク。


『最後に何か言っておきたい事はあるか?』


 もうワタシの話を聞く気は無いみたいです、くそが。


『最期の別れになるかもしれん。遠慮せず言ってみろ』


 え、じゃあ。


『仕事ばっかりしてるから婚期を逃すんでえええええええあああああああっっ!?』


 こうしてワタシは天界を追放されたのです。


 そこからの話は、ワタシがアナタに語ったとおりですよ、シャリーネ。


 何ですかこの差はぁっ!?

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