第21話 アルバートside


「辺境伯様、わざわざお越しいただいてありがとうございます!」


 急な訪問にも関わらず、アレクサンドラの義妹マーガレットは笑顔で迎えてくれた。一方、元王太子のクリストファーは表面上は隠しているが、アルバートが来たことに対し戸惑う空気を纏っている。



「急に来てしまいすまない。新しい生活は慣れただろうか。」



「はい!ここで安全に暮らせているのは、辺境伯様のおかげです、ありがとうございます!」


「ああ、辺境伯ではなくアルバートで良い。それに安全に暮らせているのはサンドラのおかげだ。」


 クリストファーとマーガレットは顔を見合わせるが、アルバートはそれを気にする様子はない。


「アルバート様。こちらには一体どのようなご用件で•••?」



 クリストファーが尋ねると、アルバートは獰猛な野獣のような目になり、マーガレットへ尋ねた。


「実は、最近サンドラの様子が可笑しいんだ。マーガレット嬢が先日面会した時に何か気になることはなかっただろうか。」


「お姉様が•••?えぇっと、面会の時は新しい生活はどうか、とか、困ったことはないか、とかそのような話をしました。」


 思い出しながら答えるマーガレットは嘘はついていないように見える。



「あ、そういえば。」



「なんだ?」



「お姉様に相談したのです。クリストファー様が激しい口づけをするので恥ずかしいと。」


「なっ•••!」


 マーガレットはあっけらかんとしているが、クリストファーは狼狽した。あのアレクサンドラにそんなことを知られたら、どんな目に合わされるか分からない。こんな話を聞いて、あの野獣と呼ばれるアルバートですらギョッとしている。



「あのお話をしてから、お姉様は何だかぼんやりされていましたわ。」



◇◇◇


 アルバートが帰ってから、マーガレットはソファの上でクリストファーに横抱きにされたまま離して貰えなかった。


「マーガレット、何故アレクサンドラに口づけの話なんかしたんだ•••。」



「ごめんなさい。そんなに駄目なことだとは思わなくて。」



「口づけ以外の話はしていない?」


「ええ。してないわ。」



 良かった。他の悪戯について話されていたら、クリストファーの命が危なかった。「いい子だから、二人のことを他で話したらいけないよ。」と囁かれ、お仕置きとして顔中に口づけを受け、マーガレットはぐったりとしてしまった。



 クリストファーは、六年か想っていたマーガレットとの同棲生活に箍が外れてしまっていた。流石に一線は越えていないが。さっさと結婚してしまいたいが、アレクサンドラとハミルントン公爵へ許しを請うには時期尚早だと感じた。



「早く結婚したい」マーガレットの耳元でそう囁いた後、クリストファーはお仕置きの続きを始めた。

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