第19話




(まさか・・・マーガレットとクリストファー様が彼処まで進んでいたなんて・・・)


 マーガレットが帰宅してからも、アレクサンドラは呆然としたままだった。アレクサンドラがクリストファーやマーガレットに遅れを取るなんてことは、これまでに一度もなかった。いつも自分が先を歩いていた。アレクサンドラは悔しい思いもあったが・・・。




(それだけじゃない)



 アレクサンドラはアルバートからどう想われているのか、マーガレットの話を聞いて、不安が押し寄せてきたのだ。あの宿屋で、アルバートはデートに誘うと、そこで最初の口付けをしてくれると言ってくれていた。しかし、辺境伯領に来て一ヶ月、アルバートが多忙なこともあり、まだ誘われてはいない。約束してくれたデートを心待ちにする気持ちが、少しずつ寂しさへと変わっていった。



 アレクサンドラも頭では分かっているのだ。クリストファーとマーガレットは、六年かけて築いてきた関係性がある。一方、アレクサンドラとアルバートは、一ヶ月前から一緒に住み始めたばかり。スタートラインに立ったところだ。アルバートにすぐに自分と同じように愛してほしい、なんて無理な話だろう。分かっている、よく分かっている。しかし、焦りだけが募ってしまう。





 もっと、関係性を築きたい。


 もっと、自分を見てほしい。


 もっと、触れてほしい。


 もっと、求めてほしい。


 もっと、愛の言葉を囁いてほしい。





(儘ならないわね)


 アレクサンドラは小さく溜め息をついて。民に愛される、優秀すぎる王太子妃だった頃、自分が思ったようにならないことなんて無かった。自分の気持ちのコントロールだってお手の物だった。だが、今は違う。アレクサンドラは、ほろ苦く、仄暗い、自分の中にある想いを持て余していた。

 

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