第7話
一ヶ月前。ハミルントン公爵家の応接室にて。
「祝賀会で婚約破棄して欲しいだと!そんなこと出来る訳ないだろう!」
いつも穏やかで冷静なクリストファーが大声で怒鳴りつけた。アレクサンドラは微笑んだままだが、マーガレットはオロオロしてしまう。
「落ち着いて下さいな。これは三名とも利のある話なのです。」
「例え利があっても、損が大きすぎるだろう。」
「まぁまぁ。まず、一ヶ月後の祝賀会、これを終えたら、国王陛下はクリストファー様へ席を譲ろうとしますわ。今回の祝賀会は、クリストファー様が国王陛下となる為の布石、という訳です。」
クリストファーが、うっ、と詰まるのを見て、アレクサンドラはにやりと笑った。クリストファーは王太子の立場であるにも関わらず、国王という席に興味が無いどころか毛嫌いしているのをよく知っているからだ。
「そうしたら私と結婚しなくてはいけないんですのよ。貴方達、思い合っているんでしょう。このままで宜しくて?」
「なっ…!」
「お、お姉さま、申し訳ありません…。確かに私はクリストファー様をお慕いしております。お姉様の大事な婚約者なのに申し訳ありません。」
「いいえ。全く大事な婚約者ではないからいいのよ。」
隠す事は出来ないだろう、とマーガレットは潔く謝るがアレクサンドラはあっさりした口調でそう言い退けた。
「う…。」
「え、えっと、お姉様…お姉様が、その、大事に思っていなくても、やはり私がお慕いすることは間違っていたと思います。申し訳ありませんでした。ただ、私達が何か思いを伝え合ったり、恋人のような行為は一切していません。だからといって許されることでは無いですが…。」
そう。真面目なクリストファーと姉の事が好きなマーガレットは、決して不適切な関わりはしていなかった。お互いに想いを隠しており、それを誰にも気付かれることも無かった。
「マーガレット、貴方達が思い合っていることを私は全く怒っていないわ。心配しないで。それに貴方達が適切な距離で関わっていたことは、貴方達に付けている影から報告を受けています。」
アレクサンドラは、クリストファーにだけ聞こえるように「この根性無し!」と吐き捨てた。
「いいこと?クリストファー様は国王にはなりたくない。それなら祝賀会で問題を起こすしかないわ。王太子として相応しく無いと王族にも貴族達にも思わせないといけない。そうすると、婚約破棄の理由は私の義妹であるマーガレットと結ばれるため、というものが分かりやすい。私が婚約者でいることで、貴方の王太子の立場が盤石なものになっているから、そこを崩せば確実に廃嫡になるわ。」
アレクサンドラの計画に、クリストファーもマーガレットも生唾を飲み込んだ。
「そうすれば、貴方達の夢が叶うわね。」
にんまりと笑うアレクサンドラは、美しくも恐ろしい。二人はやっと気付いた、自分達は何年も前からずっと彼女の掌の上で転がされていたことを。
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