二日目の朝
次の日、グラディウスさんたちとの待ち合わせ場所にしていた宿場に到着すると、私はダイナに告げた。
「ここに数日泊まって、クエストを受けるですって!?」
「危ない事はしないわ、情報収集をするだけ。執事長宛てに手紙も書いたから、渡しておいて」
「いけません、奥様。貴女はメイズ侯爵夫人なのです。何かあれば旦那様も屋敷の者たちも悲しみます」
「本当に? まだ数日だけれど、侍女たちの私を蔑む目に気付いていないとでも?」
指摘すれば、ダイナは唇を噛んで俯く。彼女の気持ちは本当にありがたいけれど、貴族であれば学園で私のした事や、その後の沙汰を知らないはずがない。そして、嫌悪は周りに伝染していく。自業自得だから、それは受け入れているけれど。
「執事長からは、好きにお過ごしくださいと言われているわ。私は、結婚生活を始めるにあたってまず旦那様とお話ししたいの。お飾りの、白い結婚であったとしてもね。
こんな事言いたくはなかったけれど……これは命令よ。聞いてくれるわよね?」
「分かり、ました……」
絞り出すような声で深々とお辞儀をすると、ダイナは馬車で屋敷へと戻っていった。ズキズキと罪悪感が半端ない。ローリー様も心配するなと笑っていた時、こんな気持ちだったのだろうか……いや、そんな殊勝な人なら自分から危険な場所に足を突っ込んだりしない。ちょっと心を痛めるだけで懲りないのがローリー様という御令嬢だ。
「一時ですが、お世話になります」
「うん、よろしくね」
「旦那様、早く見つかればいいね」
その後、改めてグラディウスさんたちに挨拶をし、私は一行の仲間として初のダンジョン入りを果たした。
聞いていた通り、地下一階は魔物もおらず冒険者の溜まり場になっている。面積自体はかなりのものだけれど、みんながテントを張ったり穴ぼこを利用して野宿しているものだから、通り抜けるのも一苦労だ。
(旦那様もこうやって、ダンジョン内で野宿してるのよね……侯爵が、三ヶ月も!?)
いくら優秀な宮廷魔術師の家系だからと言って腑に落ちないでいると、ジョーカーがにゅっと顔を覗かせる。
「ぽけっとしてる場合じゃないでげすよ。アリス嬢は今どこまで掴んでいるでげすか?」
「あ……ええ、そうね。ダイナが門番に聞いた話によれば、三ヶ月前に柵ができた時点でダンジョンに向かった魔術師は十人いたそうよ。どんな見た目かはいちいち覚えていないって」
彼らは学園の卒業生で、蛍狩りの行事の際にここに来ているはずだけど、領主のメイズ侯爵と直接顔を合わせられるのは引率の教師と生徒代表……それに王族関係者だけだ。私のように肖像画を見ている可能性もあったけれど、貴族としての正装と冒険者の小汚い(※偏見)格好ではまた印象も違う。
「僕たちも昨日は聞き込みに回ったが、ここにいるのは比較的最近攻略を始めた者ばかりだね」
「そうですか……」
「ねぇ、旦那様は魔術師って話だけど、どんなタイプ?」
同じく魔術師のアダマスさんが訊ねてきたので、意図が分からず首を傾げる。
「はい? タイプ、とは」
「だからー、魔術と言っても色々あるでしょ? 呪術とか錬金術とか……魔法薬師かもしれないわよ。要は魔力をどういった手段で、どんな目的に使用するかで職業も細かく分類されていくわけ」
う、そうなのか……単に家系だから魔術師だと思い込んでいたけれど、確かに冒険者としての職業までそうとは限らないわよね。ジョーカーが魔法に詳しくても遊び人なんて名乗ってたりするし。困ったわ……
「まあ、焦ったって事態が動く訳でもなし。気長に行こうよ」
グラディウスさんに慰められ、気を取り直した私たちは各自散らばって情報収集する事にした。
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