第36話 狂気の邦夫

「それはお互い様だよね――」


 邦夫が杉戸と柔剛を見て雰囲気が変わったと思うように、杉戸から見ても邦夫の変化が感じ取れた。


 しかも邦夫から感じるのはあまりに異質なもの。血まみれの衣類からもある程度感じ取れるが纏う空気におぞましさがあった。


「まぁとりあえずっと――」


 邦夫がハンマーで壁を殴りつけた。轟音が響き壁が大きく陥没してしまう。それは明らかに人とは違う別次元のパワーだった。

 

「その力――やっぱりステータスを得たんだ」

「へぇ。それを知ってるってことはテメェらもそうってことだな。おもしれぇ――」


 ニヤリと口角を吊り上げたその瞬間、邦夫が杉戸の目の前まで移動していた。早すぎて杉戸は反応すら出来てない。


「何ボッとしてんだ。死ぬぞ」


 邦夫は既にハンマーを振りかぶっていた。足を踏み込み杉戸に向けてハンマーを振ろうとしたその時、カブトが邦夫に突撃した。


「テメェ――」

「うぉぉぉぉおぉぉぉぉお!」


 カブトの攻撃で怯んだ隙をつき柔剛が邦夫に組み付いた。


「オラァ!」


 そのまま邦夫を背負い投げし地面に叩きつけた。柔剛の柔道技はスキルによって強化されている。小学生とは言え今の柔剛の力はあなどれない、筈なのだが――


「こんなもんか。たく期待外れだな」


 あっさりと起き上がった邦夫は全くダメージを受けているようには見えなかった。その様子に柔剛の顔が強ばる。


「地面に叩きつけられてなんでそんなに平然としてられんだよ!」

「あん? さぁな。で、お前ら今レベル幾つなんだよ?」


 唐突に邦夫が聞いてきた。その問いかけに杉戸が戸惑う。


「そんなことわざわざ教えるわけ」

「俺のレベルは3だぜ! 参ったか!」

 

 杉戸が額を押さえた。素直に教える必要などなかったわけで秘密にしておきたかったのだが、柔剛の性格を考えていなかった。


「ハッハッハ! そうかレベル3かなるほどな」

「な、何がおかしいんだよ!」

「いや。どうりでなと思ってよ。あぁちなみに俺のレベルは13だ。既に二桁だぜ?  絶望したか?」


 邦夫の話で杉戸が絶句した。柔剛も流石にヤバいと思い始めたようだ。なにせ杉戸を含めた三人のレベルを足しても邦夫には届かない。


「そんな……ここに来たのは同じぐらいなのにどうしてそんなに差が」

「さぁな。あぁでも俺は経験値が増えるスキルを持ってたな。これのおかげか俺はラッキーだったなぁ」


 そう言って舌なめずりする邦夫。そしてハンマーを構えた。


「さてと先ずはどっちから、や・ろ・う・か・な」


 指で杉戸と柔剛を交互に指していく。邦夫には明らかな余裕があった。


「や、やられてたまるか!」

 

 杉戸は思い切って手にした鞭を振った。途中の宝箱から手に入れた鞭だった。初めて使ったがわりとしっくり腕に馴染んだ。


「おっと!」


 とは言え、それでも素人に毛が生えた程度の腕だ。邦夫には全く当たらない。


「つまりお前からやられたいんだな?」

「あ――」


 邦夫が再度距離を詰めた。もう近くにカブトと柔剛はいない。このままだと助からない――杉戸は死を覚悟したが。


「おいおい。ガキがこんなもん振り回してんじゃねぇぞ」


 邦夫が振ったハンマーを何者かが受け止めていた。どうやら何者かが一瞬にして杉戸と邦夫との間に割って入ったようだ。そして声を上げた男の顔には杉戸も見覚えがあった――


作者より

https://kakuyomu.jp/works/16817330668155828278

↑↑「現代の暗殺者として育てられた俺、召喚された異世界で躊躇なく復讐を果たしたのでこれからは普通にマイペースで暮らしていきたいと思います」という新作を公開中です。学校で虐められていた主人公がクラスメートと共に異世界に召喚され、暗殺者の力で容赦なく復讐し異世界で無双する物語です。最強の暗殺者に少しでも興味を持たれたならチラリとでも読んで頂けると嬉しく思います!

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