第14話 紹介された商人
午後になり役爺が呼んでくれた業者を紹介された。やってきたのは思ったよりも若い男性だった。
ゆるっとした布製の帽子を被っていて羽織と袴といった和装だ。和服というのは俺もこっちの世界で色々勉強して知ったのだけどな。
「いやいや、お初にお目にかかりやす。わいは妖尾堂というケチな店で商いをしてる
古狸という商人が挨拶してくれた。変わった喋り方だが地方によってはこんな感じな訛りがあるんだったな。
「ではでは早速本題に入りまひょか。買い取り希望ちゅうことやったね」
「あぁ。ここにあるのがそれだ」
役爺がそう言って既にテーブルの上に並べてあった品を見せた。途端に古狸の目つきが変わる。
手袋をし目につけるタイプの拡大鏡を取り出して矯めつ眇めつ品定めを始めた。
鑑定作業中か。やはり仕事の時は目つきも変わる。ただ……何で尻尾が出てるんだ?
そこだけが妙に気になる。アクセサリーなのか? しかし動きが妙に自然だぞ。
「……あの」
「はい? どないかしましたか?」
古狸が俺を振り返って聞いてきた。その間も尻尾が揺れていてつい目がそっちに向いてしまう。
「――わいの尻に何かついてまっか? それともそういう趣味があるんでっか?」
「おま、そうだったのか?」
「いやいや! 違う! そうじゃなくて何かついているというか、それが気になっただけです」
「何だゴミでもついてたのか」
「……ふむ。さようでっか」
俺が尻尾を指差すと役爺は別な意味で納得してくれてたようだった。だが古狸の返事は何か含みのありそうな風に思えた。
しかしこの尻尾。どうやら役爺には見えてないらしい。一体どういうことなのか?
そんなことを疑問に思っていると古狸が鑑定の手を止めた。
「申し訳ないんやけど役爺さん。ここから少しだけ飛斗さんとお話させてもらってもええかなぁ?」
「何だ。何かあったか?」
「まぁ今後長い付き合いになるかもしれへんし、個人的にちょっと話してどんな人か知っておきたいですわ」
古狸が役爺にそうお願いしていた。どうやら俺とサシで話したいということらしい。
「飛斗さんもどうでっか? しかめっ面した爺さんに睨まれてちゃ、中々本音で話せないこともあるんちゃうか?」
「そういうのは本人がいなくなってから言うもんだろう」
「はは。わい素直やねん」
役爺に言われるも古狸は飄々とした態度を見せていた。なんとも掴みどころがないが話してみたい気持ちはある。
「俺もちょっと話してみたいかな」
「わかったわかった。それなら暫く席を外してやるよ二十分ぐらいでいいか?」
「それぐらいでえぇですわ」
「問題ないです」
そして役爺が部屋を出た。宣言通り俺と古狸だけが残る。
「さてと――わい、まどろっこしいのきらいやねん」
古狸が俺に体を向け、にこやかな姿勢は崩さずそれでいて真剣な空気を滲ませ話しかけてきた。
同時にさっきよりも大きく尻尾が揺れ動く。自然と俺の視線は尻尾を追いかけていた。
「ふむ。やっぱりな。あんさん、さてはわいの尻尾が見えてるやろ?」
あぁ、やっぱり尻尾だったか。しかし見えているかどうか聞いてくるということは、役爺もそうだが普通なら見えないようにおそらく隠蔽されていたのだろう。
魔法みたいなものだろうか。この世界で魔法は一般的では無いはずだが――さて、どう答えたものか……。
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