第4話

「エル・コンターレ・カンターレ・ムーチョ!」


「ヤサミンガガルーシェ」


「ミファントアモーレ、インディアーモ」


 聞き取れない言葉が、あちこち、飛び交う。


 ここは、会員制の、少年売買所。


 金さえ払えば、美少年を買える。


 少女は、表で買えるが、やはり、あの時代、20世紀が終わるまであと少し、1997年ごろは、少年を買うのは難しく、別に会員制のバーとして、裏で商売がおこなわれていた。


 そこにいたのは、外国人旅行客なのか、聞きなれない、そう、英語でない言葉を、彼らは話す。


「本国ではいないでしょう、こんな美少年」


 長すぎる前髪が、はらりと揺れる。

 前髪の合間から見える景色は、ひどく茶色くて、吐瀉物を思わせた。


「近頃は特にこう言った、染めていない、緑の黒髪、と言うのは珍しくて、貴重品なんですよ。


 ほら、最近では、髪染めをするのが流行ってますし、こんな、傷んでない、

 さらさらの髪を持つ少年なんて、

 めったにいませんよ。


 どうです。


 10万で」


 鎖などない。縄などない。拘束も、猿轡もないのに、なぜか、動けなかった。


 まるで、セリだ。マグロのセリと同じ。


 ほら、新鮮だよ、大間で取れたばかり、ここの輝きを見てください。


 とばかりに、築地の魚と同じように、美を値踏みされ、価値をつけられ、外国人に売り飛ばす。


 丁寧に扱ってくれるのは、まだいいほうで、たいていは、殴るか、暴言吐くか、ひどい時には、ケツの穴にろうそくをぶっこまれたことすらある。


悲鳴をあげても、誰も助けにこないため、そのうち、慣れた。


 でも、10万円は、手元に残らなかった。


 菓子を時々もらえるぐらいだった。後は、運営がすべて、飲み干したのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る