Lost
yokamite
AI Shock
2100年1月1日。
あと1年で22世紀を迎えるというのに、人類は100年前から頭を悩まされ続けた少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少、慢性的な食糧不足、富裕層と貧困層の経済格差の拡大といった諸課題を依然として克服することができていなかった。
それでも、世界人口は増加の一途を辿り続け、今となっては推定世界人口は100億人の大台を突破したと言われている。それにもかかわらず、有限資源である化石燃料に頼り続けた人間の生産活動は不可逆的な環境破壊を惹起し、地球温暖化に伴う海面上昇の影響で陸地はどんどんと縮小し、100年前の世界地図は現代のものとは大きく異なっている。
居住地を追われ、食料も満足に入手できない中で貧困に喘ぐ多くの人々によって引き起こされる強盗や殺人といった犯罪発生率は年々悪化しており、自殺率も過去最高を毎年更新し続けている。
世界中を巻き込んだ人類史上最大と言っても良い人道危機に緊迫感を抱き、事態を憂慮した科学者たちはAI技術の発達によって人型アンドロイドを開発し、全国に普及させた。
アンドロイドは優秀だった。ごく短時間の充電で何日も動き続けることができるため環境問題の解決にも寄与し、食料生産は効率化され、社会の治安維持にも一役買った。もはや、人間社会に存在する職業でアンドロイドが参入していない分野は存在していないほどだった。人類が100年以上にわたって悩まされ続けた積年の諸問題は次々と解決されていったかのように思われた。
だが、人間は誰一人として幸福を手にすることはなかった。AIが人々の仕事を奪っていったことで失業率は世界各国で平均50%を超えた。仕事を奪われた人々は生計を立てる手段を失ったことで犯罪に走るが、AIによってセキュリティもオートメーション化された世界では犯罪者は直ちに特定・逮捕されるため、それを理解している人々は成す術もなく飢えて力尽きるか、自死を選ぶかの2択を迫られた。
結局、アンドロイドによる恩恵を享受することができたのは一部の富裕層のみであり、人類の半数以上は事実上社会から見捨てられることになったのだ。また、機械の身体を有するアンドロイドは経年劣化を防ぎ、その機能を維持するにあたって定期的なメンテナンスを必要とした。アンドロイドへの依存を刻一刻と強めていった人間社会において、アンドロイドの入念な整備作業は必須だった。
だが、アンドロイドを開発したことで莫大な利益と権利を得た優秀な研究者を抱える国は、技術的に後れを取る弱小国に対してアンドロイドのメンテナンス料として法外な金額を請求した。金銭面で折り合いの付かない各国の小競り合いは外交問題に発展し、各所で武力紛争が勃発した。アンドロイドは戦争の際に戦闘員としても導入され、血を流した多くの人間は敵国の民間人だった。
以上のような窮状に嫌気が差した各国国民は各地で蜂起し、数多くの国でクーデターで発生した。アンドロイドを巡る人類の争いは、刻々と人類を破滅へと導いていくのだった。
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