第86話 つまり、今度は無事に到着したってこと

 昼食を終えて宿場町へと戻ってきた。俺は今朝出発した宿に戻され、レナードお兄様はこの宿場町を管理する代官のところへと向かった。その際に絶対に宿から出ないようにと言われた。三回も。


「一回言われれば分かるのに」

『それだけ主のことが心配なのでしょう』

『それよりも、なんだかおいしそうな匂いがするんだな』


 モグランが目をつけたのは先ほど助けた商人からもらったお菓子の詰め合わせである。結構、お高いもののようであり、確かにいい匂いがしている。

 よし、食べよう。レナードお兄様は食べるなとは言わなかったからね。


「みんなも食べよう」

「ですが……」

「いいからいいから」


 こうして俺は騎士たちも共犯にした。これで俺だけが怒られることにはならないだろう。

 それよりも、あの盗賊たちはただの盗賊だったのだろうか。気になるがレナードお兄様がみんな連れて行っちゃったからなー。残っていれば尋問できたのに。


「ねえ、あの盗賊たちは何か言ってた?」

「いえ、特に何も」

「そっか。それならますます怪しいね。普通の盗賊なら、命乞いをしたり、うるさかったりするだろうからね」

「確かに第三王子殿下のおっしゃる通りです」


 感心している様子の騎士たち。俺の考えは普通だと思うけどな。

 何か言えないことがあるから、あの盗賊たちは黙っていたのだろう。そのことはレナードお兄様も分かっているだろうし、もしかすると今ごろは代官の屋敷で尋問しているかもしれない。

 俺を一緒に連れて行かなかったのはそのためだったのかもしれないな。


「これからの予定はどうするか聞いてる?」

「明日の朝にはここを出発するそうです」

「それじゃ、あとは代官に任せるということかな? それとも、一日で情報を引き出す自信があるのか」

「恐らくは情報を引き出すことになると思います」


 キッパリとそう言った騎士。その目に疑いの色はなかった。

 それって、どういう……だが、怖くてそれ以上は聞けなかった。

 つまり、レナードお兄様は尋問が得意だってこと。

 まさか、拷問とかじゃないよね? 信じていますからね、レナードお兄様。


 ガクガクブルブルしながらおとなしく待っていると、日が暮れかけたころにレナードお兄様が宿へ戻ってきた。

 表情は……いつも通りだな。特に何かあったわけでもなさそうだ。聞いても大丈夫かな?


「お帰りなさいませ。あの、どうなりました?」

「心配はいらないよ。ちゃんと仕事はしてきたからさ。あとは俺に任せて、ルーファスは普段通りに過ごせばいいよ」

「分かりました」


 これはあれだ。深く聞いてはいけないやつだ。ルーファス知ってる。ここで無理やり話を聞こうとすると、あとで余計なことになるやつだ。

 そう直感した俺は、今回の事件をなかったことにした。願わくば、あの盗賊たちに慈悲がありますように。




 翌日、俺たちは何事もなかったかのように宿場町を出発した。懸念材料であった騎士たちからのお小言も今のところはない。

 たぶんだけど、盗賊のウワサがあることを黙っていたおかげで、結果的に国民の命を救うことができたからだろう。城に帰ってからどうなるのかは分からないけど。


 一日遅れになってしまったが、今度は盗賊に遭遇することもなくフルート公爵領へと到着した。鉱山を所有している領地なだけあって、前方にはいくつもの山が見えている。まだ距離はあるが、近くに行けば見上げるほどの高さになるんだろうな。


 ちょっと楽しみだ。この世界に転生してから、近くで山を見たことがないんだよね。あと海も。いつか行ってみたいと思っていたところである。


 そんな山々の間の谷間を進み、領都へと到着する。そこまでの道中では畑は少なく、食糧自給率は低そうな印象を受けた。それだけに、外貨を稼ぐことができる鉱山業はフルート公爵領にとっての生命線だったはずである。

 酪農も盛んなようだが、それだけでは難しいだろうな。他の領地でも酪農は行われているだろうから、アドバンテージは得られない。


「あれがフルート公爵領の領都ですか。領都の中心部にお城があるみたいですね」

「そうだよ。かつてあそこには国王が住んでいたことがあったからね」

「聞いたことがあります。エラドリア王国がまだ統一されていなかったころの話ですよね?」


 エラドリア王国は今の四大公爵がお互いに手を結ぶ形で誕生した国だ。そのため、それぞれの公爵領にはお城があるのだ。そしてその城にはかつて国王がいた。それがよく一つにまとまったものである。

 その時代は他国との戦争によって疲弊していたみたいだからね。他国を圧倒するための大きな力が必要とされたのかもしれない。


 領都の周りにはグルリと街を囲むように、石造りの城壁がそびえ立っていた。ここで使われている石は鉱山開発のときに掘り出したものなのかな? それとも逆に、こうした石の掘り出しができたからそこ、鉱山開発が行われたのだろうか。ちょっと歴史にロマンを感じる。


 おや? 門の前に人だかりができているな。恐らくそれは俺たちを歓迎するためのものなのだろう。そういえば少し前に、一頭の馬が先に駆けて行ったな。あれが知らせたようである。


「ようこそ、領都フルートへ。お待ちしておりました」

「久しぶりだな、ガゼル騎士団長。予期せぬトラブルに巻き込まれてしまって、予定より遅れてしまったよ」

「話は聞いております。ずいぶんと活躍されたとか?」

「ふふっ、主にルーファスがね」


 そう言ってレナードお兄様が俺が乗る馬車を見た。ガゼル隊長もこちらを向いた。

 グレーの短い髪と、鼻の下のヒゲがよく似合う、ダンディーな人物だ。長年、フルート公爵家の騎士団長を務める真面目な人物で、確か六十歳手前のはずだ。

 ギリアムお兄様から教えてもらった情報が早速役に立ちそうだぞ。




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