第69話 つまり、これはチャンスってこと

 上機嫌の国王陛下が席に座ると同時に、昼食が運ばれてきた。

 ホッ。どうやらメインディッシュがシュークリームとみたらし団子という、恐ろしい組み合わせにはなっていないようだ。

 そこはさすがの料理長。ほめてあげよう。


 今日のメインディッシュは野菜たっぷりスープだ。もちろんお肉も入っているぞ。口の中に入れるだけでホロホロと崩れて、とても美味である。別のお皿に添えてある焼き豚も非常にグッド。葉物野菜で包んで食べると最高の一品である。


 みんなで仲良くモグモグしながらも、やはりお兄様たちは気になったようである。ちょうどよく区切りがついたところで、国王陛下へと向き直った。


「国王陛下、なんだかとてもうれしそうですが、何かあったのですか?」

「ふふっ、まあな。二人もそのうち分かるさ」


 思わず笑いがこぼれた国王陛下。そんなにお気に召したのか。どっちだ? シュークリームか、それともみたらし団子なのか。

 ふと考え込んで下げていた目線を上げると、ギリアムお兄様とレナードお兄様の目がこちらを向いていた。


 これ完全に俺が原因だと思ってますよね? それ完全に当たりですよ。そのうちみんなから”やらかし王子”と呼ばれるようになるかもしれない。これまではレナードお兄様が”やらかし王子”だったはずなのに。ただただ無念だ。

 そんな二人にお母様が問いかけた。


「二人は視察の話をしていたそうね。今度はどこへ行くのかしら?」

「今回はフルート公爵領の視察に行く予定にしてます」


 フルート公爵家はエラドリア王国にある四大公爵の一つである。なぜか楽器の家名を持っており、そして実際にフルートという楽器も存在している。もしかして開発者だったりするのかな? 真相は不明である。


「何か問題でもあったのですか?」

「ここだけの話だけど、ちょっと勢いが衰えているみたいでね。そこで王族である俺がフルート公爵家を訪ねて、勢力をもり立てるとともに、活を入れようと思っているんだよ」

「なるほど、王族が直々に領主の屋敷へ訪れるだけでも話題になりますからね」


 そうして王族とのつながりが強いことをアピールすれば、再び勢力を盛り返すのも少しは楽になるはずだ。四大公爵が落ちぶれてしまっては色々と問題だろうからね。

 フルート公爵領への視察か。これはチャンスかもしれないぞ。


「レナードお兄様、その視察に私もついて行ってもいいですか?」

「うーん、取りあえず、目的を聞こうかな?」


 笑顔のレナードお兄様がそう言った。あの笑顔は作り笑顔だな。俺には分かるぞ。自分の仕事が増えそうだぞ、と思っているのかもしれない。そんなことはないぞ。


「召喚スキルのことを、もっと色んな人にも知ってもらおうと思ってます。このままだと、いつまでたっても、私のかわいい魔法生物たちを外に連れ出すことができませんからね」

「……それって必要?」


 あ、そんなこと言っちゃうの? めちゃくちゃ必要なのに。だが、俺が創造神から召喚スキルの認知度をアップするようにとの勅命を受けた話は、国王陛下しか知らないはずだ。どうしたものか。ここで言ってもいいんだけど。チラリと国王陛下の方を見る。


「レナード、ルーファスも連れて行くように。そろそろルーファスにも外の世界を見せる必要があるだろう。いつまでも城に引きこもっているわけにはいかないからな」


 ナイス国王陛下。さすがである。勅命の話が利いたのか、それとも新たな甘味が利いたのか、真相は不明だが。

 国王陛下から頼まれてはさすがのレナードお兄様も断ることができない。首を縦に振るしかないのだ。


「分かりました。王命と言うのであればルーファスも一緒に連れて行きましょう。ルーファス、俺の言うことをしっかりと聞くように」

「もちろんですよ」

「本当かなぁ~」


 苦笑いするレナードお兄様。

 ちょっと、かわいい弟に対する扱いが雑になってきてるんじゃないの? 俺はそんなにトラブルメーカーじゃないから。どちらかと言えば、レナードお兄様の方がトラブルメーカーですからね。


 そんなこんなで昼食も残すはデザートだけになった。そして運ばれてくるシュークリームとみたらし団子。国王陛下の前にはシュークリームが三つある。どうやら国王陛下が気に入ったのはシュークリームのようである。


「こ、これはもしかして、シュークリームとみたらし団子ですか!」


 ギリアムお兄様が歓喜の悲鳴を上げた。そしてシュークリームとみたらし団子にほおずりしている。あ、みたらし団子のあんがほっぺたにベッタリとついてるぞ。その姿を見れば、百年の恋も冷めそうだ。


「これがギリアムお兄様が言っていたシュークリームとみたらし団子か。どちらもおいしそうだね」

「どちらもおいしいが、特にシュークリームがいいぞ。なんと生クリームとカスタードクリームの二層になっているのだよ。そうだよな、ルーファス?」

「え、ええ、その通りです」


 ギンギラギンに目を輝かせた国王陛下。ギリアムお兄様もやはりお父様似だったか。そんな国王陛下を見て、思わず苦笑いになりそうになったのをこらえる。お母様の扇子の下は苦笑いなんだろうな。俺も扇子を持とうかな?


「なるほど、やはりルーファスが関わっていたのか」

「レナードお兄様、やはりとはなんですか。私はテツジンに指示しただけですよ。ほめるならテツジンをほめてあげて下さい」

「……魔法生物がやったことは、その主の責任になるんじゃなかったっけ?」


 ナイスツッコミ。その通りである。

 つまり、元をたどれば俺の責任だってこと。

 レナードお兄様の目はごまかせなかったか。やはりレナードお兄様は脳筋ではなかった。ちょっと安心した。

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