第67話 つまり、ついつい食べすぎちゃうってこと

 シュークリームとみたらし団子を堪能したところで、料理長も作ってみたいということになった。もちろん許可する。料理長が作った甘味は国王陛下たちに試食してもらうことにしよう。

 この時間から作れば午前中のお茶の時間に食べてもらうことができるからね。


 加熱調理器具の使い方を料理長に教えつつ、シュークリームとみたらし団子を作ってもらう。

 ふと思ったんだけど、料理長は自分の仕事は大丈夫なのかな? 片づけや昼食の仕込みなんかがあると思うんだけど。まあいいか。怒られるのは俺じゃないし。たぶん。


 そうこうしている間に、追加のシュークリームとみたらし団子が完成した。さすがは王宮料理人の長なだけあって、一度で完全に再現していた。これには脱帽である。俺が作ったら、似て非なる物ができあがっていたはずだ。


「さすがは料理長、とってもおいしそうだね。これなら国王陛下たちも喜んでくれるよ」

「ありがとうございます。これも第三王子殿下とテツジン様のおかげです」


 うむ、テツジンが様づけになってるな。今の料理長にはテツジンが神のように見えているのかもしれない。俺からすると、どう見てもブリキのロボットなんだけどね。

 料理長はさっそく国王陛下たちに食べさせるみたいである。完成したブツを持って、いそいそと召喚ギルドから出ていった。


 これで今後は料理長がシュークリームとみたらし団子を作ってくれることになるだろう。そして他の料理人たちにも作り方を広めてくれるはずだ。この世界に新しいお菓子がデビューしたぞ。やったねテツジン!

 その後は召喚ギルドでの仕事をしつつ、セルブスとララの指導をしつつ、時間を過ごした。


「お昼までには少し時間があるな。ちょっと食べすぎたので、運動してからそのまま昼食へ向かうよ」

「行ってらっしゃいませ」

「お気をつけて下さいね」


 二人に見送られて召喚ギルドをあとにする。その際、一瞬だけララが自分のおなかに目を向けたのを俺は見逃さなかった。

 特におなかが出ているようには見えなかったけど、触ったらプニプニするのかな。分からぬ。


 さすがにみんなを連れて行くわけにはいかなかったので、今日のところはラギオスとピーちゃんだけにしておいた。他のみんなには還ってもらっている。

 おいしい物も食べたし、みんな満足そうだった。


「魔法生物は太らないからいいよね。いいな~いいな~魔法生物っていいな~」

『それはそうかもしれませんが、太った姿を想像して呼び出せば、そのような姿になるのではないでしょうか?』

『ピーちゃん?』

「確かにそうかも。絶対にイメージしないようにしよう。ティアを太らせでもしたら、あとが怖い」


 そんなことをしたら、絶対にイタズラされる。お菓子をあげる、あげないにかかわらず、絶対にイタズラされる。それも、ひどいヤツ!

 思わず想像してしまって震えていると、後ろから足音が近づいてきた。ラギオスとピーちゃんが反応しないところを見ると、危険人物ではなさそうだ。だれだ?


「だれが太ったですって?」

「お母様!」


 お母様だった。その手にはレースがふんだんにあしらわれた日傘を持っている。普段は使用人が持っているのに、なぜ。そして服装も、いつもよりも動きやすそうな姿をしている。そのままヨガくらいはできそうだ。


「ルーファス、あなたはまた、とんでもない物を生み出したわね。あのシュークリームも、みたらし団子も、どちらもとてもおいしかったわ。思わずおかわりしてしまうくらいにね」


 ニッコリ笑うお母様。どうやらどちらも堪能してもらえたようである。そして、堪能しすぎたようである。

 つまり、食べすぎたってこと。


「喜んでもらえてよかったです。私も食べすぎてしまって、こうして運動しているところですよ」

「ええ、ええ、そうでしょうね。国王陛下も気に入って、いくつも食べていたわ。珍しい」


 そのときの光景を思い出したのか、お母様が遠くの景色を見ている。一体、いくつ食べたんだ、国王陛下。お母様があきれるほどって、よっぽどだぞ。

 思わずお母様と一緒に遠くの景色を見ていると、不意にお母様の視線を感じた。


「そうそう、国王陛下が料理長と一緒にプリンとシュークリームとみたらし団子を売りに出そうとしてたわよ。ルーファスの名前で」

「ナンデ!?」


 確かにプリンとシュークリームとみたらし団子が多くの人たちに広まって欲しいとは思うけど、そこに俺の名前は入れて欲しくなかった。

 それって考案者が俺ってことになるんだよね? 全然違うぞ! 入れるなら、テツジンの名前になるはずだ。


「あら、驚くことでもないわよ。古代人が食べていた物をこの時代に再現したのですもの。それだけでもすごく価値があるわ。それに加えて、とってもおいしい。これはもう、世界中に広めるべきよ」


 なるほど、世界中にプリンとシュークリームとみたらし団子を広めると同時に、エラドリア王国の名前も広めようというわけか。そのためには、エラドリア王国の第三王子である俺の名前が入っていた方が都合がいいだろう。


 超古代文明時代の物を再現する力を持っているとなれば、他国もエラドリア王国に一目を置くことになる。そうなると、それだけエラドリア王国の国力が強まることになるのだ。

 これは断れそうにないな。国としての戦略に組み込まれてしまっているからね。ヤレヤレだぜ。

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