第5話 私古舘が目にした光景は映画の撮影のような戦乱と人ならざるものなのでありました!

「射よ!!」

 指揮官の力強い号令と共におびただしい数の矢が放たれる。


 古舘は先程まで見上げていた奇妙な形をした木に身を隠し顔だけチョロっと出して事の行く末を見守っていた。


 その木は小高い丘の上に立っていたので、戦況の把握がしやすかった。


「流星のごとく放った矢は、遠くに見える大群まで届いたか。距離があるため反応は分かりません!」

実況する古舘。


「効いただろうか」

 指揮官の男はそう言った。


 古舘も矢を放たれた側の兵団を凝視している。


 相手方の兵団らしき集まりも仕返しに矢なり大砲なり放ってくるのかと身構えていたが、特に飛び道具が飛んでくる気配もない。

 集団の正体は相手側から近付くにつれて徐々に明らかとなっていく。



「あれは……」

 古舘は目も口も丸くした。


 確かに大量の兵団だ。




 だが人間ではない。




「……あれはまさか……ガイコツか?」


 古舘は自分の目を疑った。


 

「あれは昔学校の理科室で見た人骨模型そのままではありませんか!!!!!!」


 この場所に来てから最も混乱している瞬間を更新しつつ、古舘は人生で最も興奮しているのであった。


「そりゃ弓矢もすり抜けるだろうなとなにせ刺さる肉が付いてない骨人間まさかこんな生物いや生物ですらないのかもしれないこの世ではないがあの世でもなさそうだ古舘はこのシーンをかつて画面で見たことがあるそうまるで剣と魔法の世界ドラゴンクエストの世界であります全男子ならばいちどは妄想したことがあるかと思いますそして私古舘はまるでそのドラゴンクエストそう剣と魔法のファンタジー世界に入り込んでしまったような体験をしておりますそして脊髄反射で実況しております実況者はワタクシ古舘伊知郎でお送りしております!!」※

 ※この間の実況約1秒


だがそれより古舘が驚いたのは自分の場所も時も選ばない『実況をする』という習慣クセだった。


「まさかこんな緊急事態でも実況スイッチが入ってしまうのはナチュラルボーン実況者私古舘伊知郎の悪い癖なのでありました!職業病といっても他の同業者はこんな病的なまくし立てる弾幕実況はしないであろう……と言いつつ足は震え脇からは汗がしたたり落ちてくるではありませんか!それもそのはずなにせ骨人間が歩き、そして剣や槍を持って迫ってくるのだからああ!!!※」

 ※この間の実況約2秒



「よし接近戦に持ち込む!」

 指揮官がそう言い、人間の兵士たちは次々に剣を抜き出した。


「ゼェ…ゼェ……。また無駄な実況をしてしまった私でありましたが、不思議と清々しい気分でありまして。これだからアナウンサーは辞められない。私の天職だ。」


 実況で緊張がほぐれ、やっとクールダウンした時にふといままで混乱していた時のことを思い出す。


「そういえば最初は意識しなかったがあの指揮官の声と顔……どこかで」


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