第十六話 防具屋
翌日、防具屋の前まで来たけどそういえばこの店に名前はあるのか? 鎧のイラストが描かれた看板があるけど、店の名前は書かれてないしな。まあ店の人に聞けばいいか。
「いらっしゃいませー」
前回と同じように覇気のない声がする。そこにいたのは前回と同じ女性店員だった。相変わらず目が半開きだ。
「聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「あ、この間の金属鎧買っていった人。何か問題でもありましたかー」
どうやら覚えていたようだ。だがそのせいで何か問題があったのかと思われたようだ。
「いや、問題ないよ。快適に動けてる」
「それならよかったですー。それなら何が聞きたいんですかー」
「この金属についてなんだけど……」
そう言ってアイテムボックスからイエロー・ゴブリン・インゴットを取り出す。すると女性店員の半開きだった目が大きく見開かれた。
「もしかしてゴブリン・インゴットですかー! わー! 久しぶりに見ましたー!」
興奮しているのか目を輝かせてこのインゴットを見ている。そんなに希少なのか、これ? 亜人系ダンジョンの10階層でイエロー・ゴブリンを倒してドロップした武器に素材化を使うだけだろ。
そんなことを伝えると予想外の言葉を言われた。
「そもそも亜人系ダンジョンに挑む人が少ないんですよー」
それは知ってる。
「知ってるって顔ですけどわかっていませんねー。なんで挑む人が少ないのか分かりますかー?」
「それはあれだろ? 敵が強くて挑む人がいないんだろ?」
「ぶっぶー。違います―」
イラっと来た。
「いえ、違わないんですけど強いからではなくてー。死んでしまうからなんですよねー」
こちらが怒ったのが分かったのか、少し早口になって喋る。
「負けたら死ぬのは当たり前だろ?」
「そうではなくて―。もしかしてお客さん、パーティーメンバーって……」
「いないぞ。戦いの神の加護持ちだからな」
そう伝えると思いっきり溜息を吐かれた。
「はー、それならわからないですよねー。いいですかー、普通なら目の前で仲間が死んでしまったら心に深い傷を負うんですよー。普通なら―」
普通を何回も強調しなくていい。
「それでー今までやってきたパーティーが瓦解するんですよー。その時のことを思い出しちゃうからー。そうなるとー、トラウマになってー、二度と挑まなくなるんですよー。なまじほかの迷宮に潜っていればー、稼ぐことができますから―」
「そうなのか」
「そうなんですよー、そんなわけでー、挑む人はー少ないですねー」
「だが何組かのパーティーを見たことがあるぞ」
「そのパーティーは若い人たちばかりではなかったですかー?」
そういえばそうだな。8階層でみたパーティーも若かった気がする。
「若いからー自分たちならできるという謎の自信を持っているんですよねー。そしてそういう人たちは死んでいくんですよー」
「だがそういう人たちだけじゃないだろ」
「そうですねー。でもそういう人たちはー危険な目にあうとわかってるー亜人系に潜ると思いますかー?」
思わない。そうか、大体は危険を犯して潜らないし、潜るやつは大半死んで二度と潜らなくなる。そうなると一部の上澄みだけが潜るのか。
「わかったようですねー。そうなると供給量が大変少ないんですよー。先に進む人たちは自分たちの量を確保できればいいですからねー」
「そうなのか。そういえばどういう金属なんだ?」
そもそもこのことを聞きたくて来たんだった。
「金属としては水属性と土属性の2種類の属性と相性がいいですねー。逆に火属性と風属性とは相性が悪いですよー。ゴブリン金属とは逆の性質のコボルト金属もありますよー。硬さでいえばイエローなら鉄と同じくらいですねー」
「もしかしてゴブリン金属とコボルト金属で合金すると全部の属性に相性が良くなるとかは?」
そんな夢の金属が?
「ありませんよー。イエローのランクだと付けられる属性も一つですからねー。もっと上のランクならわからないですけどー」
なかった。見つかってないだけかも知れないが見つけるのは難しいだろ。
「ありがとう。おかげでだいたいのことがわかった。お代はイエロー・ゴブリン・インゴットでいいか?」
「いいんですかーやったー!」
「もしくはたくさんあるから売ろうか? 武器の状態だけど」
「いりますいります売ってください―!」
そうしてイエロー・ゴブリン・インゴットを分けて、武器をたくさん売った。もちろん自分で使う分は確保したけど。
属性を付ける予定はないから、これからダンジョンに行くか。そういえば名前聞くの忘れた。
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