第7話 名前を教えて


 

 

 ヴィクトリアは色々な話をしてくれた。

お陰で道中も退屈せずに済みそうだ、だが。

元々食料は一人分で買っている、このままだとまた足りなくなってしまう。

 

「殺しますか?」

 

ナナシムがそう提案したがすぐに却下した。

このまままっすぐに大きな都市に向かいたかったが、小都市に、どこかの町に寄っておく必要がありそうだ。

 

「ねぇねぇ、そろそろ名前教えてくれてもいいんじゃないかな」

 

歩きながら彼女がそう言う。

名前……か。

 

「名前は解除されてないんだ」

 

「時々出てきますけどその解除って何ですか?」

 

解除とは何か。

どうやって説明した物か、難しいな。

 

「戦争後、機械人形が人間にかけた呪いです。正確には身体には科学的、それ以外は様々な物を用いて人に制限をかけています。その制限から本来の物を取り戻す事を解除と言います」

 

俺が困っているのを察したのか、ナナシムが説明してくれた。

分かっていた事だがここまで言葉にするのが難しい、助かったよ。

 

「そ、そうでしゅか……ごめんなさい」

 

ぴょこぴょことした髪が視界の下に来た、何故彼女が頭を下げるのだろうか。

今にも泣きそうな彼女に頭を上げるように言うが、全然上げてくれない、

 

「私が、私達が負けたからこんな不自由になってしまって……」

 

そういう事か。

確かに不自由だ、だがこの事で彼女を責めるのは間違っているだろう。

負けたのは彼女のせいではないんだし、そこまで背負わなくていいのに。

 

「ヴィクトリアさんのせいじゃないよ。確かに不自由だけど、俺からすればこれが普通なんだから、気にしないで」

 

「そう……言ってくれると嬉しいです」

 

彼女はニコッと笑った。

よかった、彼女は笑顔の方がしっくりくる。


「そう言えばナナシムさんとえっと……名前が無いと呼びにくいな、何か呼び方考えないと……」

 

「呼び方か、別にそこのとか、お前でいいのに」

 

「むー! それじゃダメなの!」

 

ちらっとナナシムを見ると、あまり良さげな顔をしていない。

機械人形である彼女からすれば、目の前で名前の代わりに名前をつけようとするヴィクトリアの行動は良いものとは思えないのだろう。

 

「それじゃ、クロ君!」

 

「クロ君?」

 

「うん、黒い髪だからクロ君!」

 

別に悪い気はしない。

ただ、ナナシムが……。

 

「お似合いですよ、クロ君」

 

あれ? 意外と怒ってない。

絶対違反だって言うかと思ったんだけど。

 

「決まり! クロ君、よろしくね!」

 

彼女の笑顔にはどうにも弱い。

魅力的だと言える。

俺にもこんな感情があったなんて、いつ解除したんだっけ。

 

「それで、ヴィクトリアさんは俺に聞きたい事があったんじゃ」

 

「あ、えっと……忘れちゃった、えへへ」

 

ニコニコとする彼女の隣を歩いている。

俺は、今幸せなのかもしれない。

 

「どっかで見たような気がするんだけど……うーん……」

 

首をひねる彼女の顔は、とても可愛いと感じる。

彼女の為にも食料や道具を買い集めないとな。

金は……ギリギリ足りるだろう。


あと一日も歩けば、小さな町に着くだろう。

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