第16話 ライアンは疑う
「報告して」
ライアンの侍従は、淡々と報告を始めた。
「はい。調査の結果、ジーナ・オブ・ケニオンを知る者の評価は真っ二つですね。優しく穏やかと言う者と、苛烈で恐ろしいと言う者が居ます。ですが、数が少な過ぎます。それぞれ数名しか彼女を知る者は居ませんでした。しかも、みんな声を揃えて最近は会ってない。顔を忘れてしまったと言います。以前は社交界に出ていたようですが、ここ数年はあまり姿を現さず、最近は夜会に出ているのは妹ばかりのようですね。妹は装いも所作も美しいと男性に人気のようです。女性の友人も多く、多くの夫人達に可愛がられています。妹は、社交界に舞い降りた天使だと言われています」
「妹の情報は今は要らない。妹は情報が多いのに、なんで姉は情報が無いの?!」
「知ってる者が居ないんですよ。顔もあまり知られてないようですから、ケネス殿下の侍女として出歩いても、彼女を伯爵令嬢だと気が付く人はあまり居ないでしょう。それから、彼女を恐ろしいと言う者は全員評判が悪いですね。逆に、彼女を褒めているのは穏やかな令嬢や夫人です」
「何?! 優しい人が褒めてるなら良い人だって言うの?!」
「我々は情報を集めるだけです。その情報をどう使うかは、我々の知るところではありません」
ライアンの侍従は幼い頃から共に過ごした幼馴染であり、ライアンが家族以外で一番信頼している者だ。冷たい言い方だが、ライアンは彼の言葉を信用しているし、彼も分かっていてこのような言い方をする。
「分かってる! 分かってるけどっ!!!」
ライアンは、机に手を叩きつけた。イライラをどうしても抑えられない。そんな顔をしていた。
「少し冷静になられてはいかがですか? ジーナ様は誠心誠意ケネス殿下に仕えておりますよ。たった1日で、使用人達の態度は軟化しています」
「なんで……僕らが何をやっても駄目だったのに……」
「そりゃ殿下達が何を言っても駄目ですよ。ケネス殿下は使用人を遠ざけられます。どれだけ頑張っても、兄弟達から過保護に守られているとのイメージは払拭出来ません。そう、ご報告しましたよね?」
「うん。だからメイドは僕が探してたのに」
「……そうですね」
「何?! 僕は人を見る目がないって事?!」
「ご自分でお考え下さい。ジーナ様は庶民を装っておりますし、貴族特有の傲慢さが全くありませんから、使用人達も仲間として見る事が出来ました。そういった意味では、王太子殿下の采配は見事ですね」
「……僕だって……兄様の役に立てる……。今は、兄様は何してる?」
「家庭教師に師事しております。ジーナ様は、休むよう指示されて部屋にいらっしゃいますよ」
「そう。僕の予定は終わってるよね?」
「早朝から鬼気迫る勢いで処理なさっておられましたからね。明日の分まで終わってますよ」
「なら、勝手に出歩いて良いよね?」
「公式でなければ構いません。ご一緒しますか?」
「いらない。……いや、やっぱりついて来て。僕が暴走したら止めてくれる?」
「かしこまりました」
人懐っこい笑みを浮かべた侍従を連れて、ライアンは部屋を出て行った。
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