[27]水没都市【5】(謎が少し解けた!)

 チーカマが入った袋をくわえた? か、なにかして持っているサバチーの力により水没都市の尖塔へと戻って来た。

 え、最初からサバチーを召喚しておけば良かったんじゃないのかって……まあ、結果を見たらそうですよね。でもほら、あんまり<旧支配者>眷属を使いたくないし。

 カサカサ、パリ、ペリ……

「もうチーカマ袋から出してるのかっ! あんなに鯖缶食った直後だというのに!」

 床の上にチーカマ散らして食いだしていた。

 それで尖塔内部なのだが、つるつる。ちょっと昔の人間が思い描く「未来SF」を思わせる内部。金属で覆われている ―― そう表現するのが最も伝わり易く、だが本質は届けられない……。

「サバチー。ナターリアを助けたいの」

「*******(なたりあ?)」

「あの金髪のロシア美人」

「**********(きんぱつ?)」


 以下サバチーの不明台詞部分(****)は除外します。


「あああ。サバチー……あのさ、ボルシチ食わせてくれた人。お裾分け、食べさせてやっただろう!」

「さわーくりーむ?」

「そうそう! あの赤っぽいシチュー」

「くちにあわなかった」

「お前の味覚はどうでもいいんだが、私の部屋にわざわざ持って来てくれた人だよ」

「あれがきんぱつ。それしたにいる」

「やっぱり居るんだ! あのさ、サバチー。ナターリアは人間として生きているの?」

「にんげんじゃない」

「そっか……殺すには、どうしたらいい?」

「***のぼうでさす」

 この「***」は伏せ字ではなく、発音が出来ない類のもの。結果としては樹木らしい物の名前。

「その棒はどこにあるの? ……ちゃんとやることやったら、鯖缶もチーカマもあげるし、ほっけの蒸し物もたくさん作るよ。でもやることたくさんあるの。ナターリア……ボルシチさんを棒で刺して、行方不明になっているみんなを助けてここから脱出する。大変なんですよ」

「……***のぼうはこっちにある」

 早く食い物にありつきたいサバチー、チーカマを食い終えたこともあり、早急に動き出した。床の上を音もなく、だがなんか「むうぎゅう、むうぎゅう」と音を立てているように見える移動の仕方で(歩いているわけではない)つき進んでゆく。そして金属の壁を難なくすり抜けていった ――

「? ……ちょっ! サバチー! 私には無理だって!」

 私はサバチーを全面的に信用はしていないので壁に手で触れて確認してから、全体重をかけてみた。当然だが突き抜けはしない。

 サバチーは向こう側から戻って来て、そのまま引き返してゆき、名状しがたき筏の肘の中程くらいを通過する。すると腕が切り落とされていた。

 長い爪を持っているのかどうか? 分からないのだが(そもそもサバチーには腕らしきものはない)プリント付きの手を引きずって先程の壁の方へと向かった。

「えっともしかして、この手のひらを壁に押しつけると消えるの?」

「かべじゃない」

 私には見分けがつかないのだが、サバチーが通り抜けた場所は尖塔の扉の一つ。一応サバチー、人間は壁を通り抜けられないことを理解して扉を使ってくれていたらしい。サバチー自体は壁だろうが次元だろうが時間だろうが、苦もなく通り抜けることができる。

 サバチーが用意してくれた鍵で扉を開けて「***」を捜す。

 通路は平坦で緩やかだが、真っ直ぐではなかった。登っているようで下っているようで、精神が酷く疲れる。

「***」

 通路の両端が下がっている。或いは通路の中心が盛り上がっている ――どちらが正しいのかは不明だが、間違いなく湾曲している通路の一角に「絵」があった。

 触れてみるが金属を削ったものでもなく、上に絵の具かなにかで描いたものでもない。表面は他の部分と同じくつるりとしていた。

「これが、それ? あの、これ絵だよね」

 鍵の手で触れてみるも、変化はみられず。

「※※※※こわれたときにぜつめつした」

 「※※※※」も伏せ字ではなく、どうやっても発音できず、文字に表すこともできない物です。

 この※※※※というのが何なのかと言いますと、

「絶滅しちゃったの? じゃあ……」


 水没都市の正式な名でした ――


 気付くと私の目の前には***が。絵に描かれていたのと同じ物が。形は珊瑚に似ている。当然なんですよね……だって……

「(さばち、さばち! ちょっと、ここ水中)」

 いきなり水中ですよ! 前触れ一つなく、注意喚起もなく水中ですよ!

「おってもってかえる」

 サバチーは先程筏の腕を切り取ったのと同じ要領で、一番大きい枝を切り……その頃私は藻掻いてました。水は怖くないし、泳げるんですが、いきなり水中は無理!

 そして私は戻ってきた。

 ……サバチー単独で取って来てくれよと思った私は悪くないはず。

「ちょっと待って、サバチー」

 体が濡れていたので、リュックサックからスイムタオルを取り出して、体を拭いては絞ってを繰り返しながら、先程の状況について尋ねた。


 ↓以下サバチーに聞いて分かったこと。でも情報源がサバチーなので、どこまで正確なのかは分からない。


 ※※※※は水没都市の正式な名。私たちは水没都市と呼んでいるが、実際は水中都市で、むしろ水が干上がったというのが正しい。(私が[12]で滅亡都市と書いたのは、これが理由)

 ***は水中でしか生存できない▲▲▲(生物とか言いたかったらしいが、分からん)で、水が干上がった時に絶滅した。


「もっと下の水がある部分に移動させられなかったの、これ」

 ”これ”とはもちろん***。

 水中にあった時は黒っぽかったのだが、折って水中から出すと赤紫色、あのぶつけた時にできる内出血の赤紫色を思わせる色合いに変化していた。

 結構硬いが、これでナターリアを突き刺せるかどうか? 不安ではあった。

 先端部分が尖っているわけでもないので。何度も、何度も突き刺してぐりぐりして痛みを長引かせるのは本意ではない。

「・・・・・・・(蒼い水を指す単語らしい)はぜんぶなくなった」


 サバチーの話によると水中都市を覆っていた蒼い水は、何らかの事情(サバチーは@@@@@と相変わらず分からん発音で説明してくれたが、なんだか良く分からん)で干上がってしまった。

 一滴もなくなってしまい、そこから必死に復元させようとしたものの、元々水中に適した体のつくりをしていた♭♭♭たちは完全に復元させる前に滅亡してしまった。

 その状態だったので***を移植する時間はなかったとのこと。


「なる程ねえ。それじゃあサバチー、ナターリアのところに案内してもらえるかな?」

 ***の棒を持った私が立ち上がると、サバチーが再度移動する。その後ろをついて行き、透明な硝子扉のような所へと辿り着いた。

 あの映像で見た通りの場所。

 蒼い水 ―― 蒼い?

 よーく考えると、上が黒い物質で覆われているのに、どうしてここは蒼い水なんだ? えっと……ええ! どう見ても、普通の海中なのよ。普通に人間が潜れる程度の深さで、海面を見ると太陽が水越しに見えるような感じなんだ。


――おい、なんでここに来るまでおかしいことに気付かなかった、自分! だが今更引く訳にはいかない! 戦うのだ!

  私は鍵手を扉に当ててみる。すると扉が開いた ―― だが水がこちら側に流れ込んで来ることはない。

 どう考えても水じゃない、水っぽい物。だが、覚悟を決めて***の棒を持ち突っ込む! ……その前に、指先を入れてみる。

 なにがあるかわからないからな! 感触は水と同じ。今度は頭を突っ込んで、周囲をうかがう。ナターリアがどの辺りにいるのかを確認しなくてはならない。

―― ナターリア! いま助け……殺しにいくよ!

 目で確認できるくらいの距離ではあったのだが……平行に遠いのではなく垂直に遠い。泳ぐのではなく潜らなくてはならない場所。

「……だあっ! はぁはぁ……一分二十秒」

 水っぽいものはやはり呼吸は不可能。息を止めていられるのは八十秒。戻って来ることを考えると、ナターリアの所まで四十秒で辿り着かなくてはならないことになる。

 浮かび上がる際に潜水病を心配してゆっくりと……それ以前に、潜れるのか? という問題がある。泳ぐのならば自信はあるのだが、潜る練習はしたことはない。

 ナターリアの居る場所まで***の棒を持って潜ることができるのか? やってみなければ分からないので、私は勇気を持って水らしき物に踏み出した。

―― もしかしたら、浮上できない液体だったらどうしよう

 なんで体を預けた瞬間に、その点を思い浮かべてしまうのか? 事前に気づかなかったのなら最後まで気づくんじゃない。

 自らを叱責しながらも、ナターリアが居る場所を目指す。

「潜れねえ!」

 入り口すぐの所で藻掻くだけの状態。

 その後も何度か試した。助走を付けて飛び込んだこともあった。助走を付けて入り口に***の棒がひっかかり、腕が痺れた時も。

 あの時ほど私は、自分がサバイバル芸人ではないことを悔やんだことはない。


**********


 あの時の私について、サバチーに話を聞いてみた。するとサバチーは突如なにかを写し出し始めた。サバチー視点の私の姿をダイレクトに脳内に。

 映し出された私は、良い具合に半土左衛門。

 潜るために藻掻き、息が続かなくなり藻掻く。潜ろうとしているのだが、力を抜くとぷかーと浮いてくる物体。

 自分では結構潜れていたような気もするのだが、全然潜れていないところもまた……。


 さて、唐突に水没都市の話をぶった切り、サバチーによる自分上映会の話を挿入したのには理由がある。

 この話を書くに当たって、協力してくれたサバチーに当時のことを聞いたのだ。

 愚鈍なサバチーだが、あの時のことは良く覚えており(鯖缶フェスティバル)鯖缶をつまみに、チーカマをお供に、ほっけのすり身を蒸した物を肴にして、舌などないのに饒舌に語ってくれた。

 話を聞いていると、あの時は聞き取れないので適当に流した単語や言葉が、どこかで覚えがあることに気づいた。

 あくまでも無理矢理表記なのだが、

「***の棒」の「***」は【りおふでるああ さまな】

私が勝手に生物と言いたいのだろうと解釈した「▲▲▲」は【べお ろで みほうあでであおしはなるへる (りおふでるああ さまな) あろうらむあえると える がっるでとどえせふろたざでたっっっっ ゆでぃしあるでぃあっとろっとあぎゅんば つておと ささささか】

 焦ってる時に、これ↑聞き取れってほうが無理ってもんだろ……。

 蒼い水を示していた「・・・・・・・」は【どるもともるがらぐたおもうごとうさすさせるともびあだろ】

 住人を指していたらしい「♭♭♭」は【つともつですがとたるがと (ぎいつ) させたらささらつとも】

 若干私には違う聞こえ方なのだが、これに近い。誰かが聞いた音をそのまま打ち込んだとしたらこうなるだろう。

 そしてなによりも「※※※※」水没都市の正式名称は【あふゅわ あたら わたひふら めどいどるう せこて】

 知らぬ間に投稿されていた話のタイトル。どうりでどこかで見たことあるような、ないような気がするわけだ。


「……もしかして、放置してきた名状しがたきフィギュアの手相プリント使って<旧支配者>なネットに繋いだヤツがいるってこと?」

 書き込んだ人が水没都市にいるのだとしたら……だがどうやってそこへ? 行き方を知っているのは……。

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