[23]祟子様(※読むと祟られる可能性がなきにしもあらずなので、自己責任ってやつでお願いします)

前書き

タイトルの注意と重複しますが

※読むと祟られる可能性がなきにしもあらずなので、自己責任ってやつでお願いします※

※呪われるのではなくて祟られる。ここ重要※

※水没都市編とはなんら関係ありません※


**********

 ナターリアの話を書こうと思ったのですが、続きを書いている最中、中学時代の知り合いから「剣崎だろ? 祟子様と連絡つかない?」と……だから私と連絡を取るために小説家になろうさんを使うなと!

 祟子様こと「たきさん」とは正月にサバチーと共に会ってアドレス交換したので、教えてやりました。でもよ、刀山。あの人は幽霊関係は専門外だぞ。

 この関係でちょっと思うところがあったので、祟子様について ――


 ここまで読んで下さった方はお分かりだろうが、私は田舎の生まれである。

 全国放送の番組で喋っていることが分からなくて、字幕になったり、字幕すら「※△◇○※~×▲■☆※」みたいに書かれてしまう所だ。

 私くらいの年代になると「※△◇○※~×▲■☆※」されるくらい見事な訛りは使えないが、それでも訛っている。


 そんな田舎はどこでもそう……かどうかは知らないが、私の故郷には土着信仰がある。基本「拝み屋」が多い地方なので、

「拝み屋なんているの?」

「祖母さんの家の三軒隣に居るよ」

「ええ!」

 普通にいたりする。

 看板が掛かっていたりするわけではないので、分からないことも多いが、とにかく居る。

 そして私の中学の同級生にも居た。

 拝み屋とは少々違う、土着信仰の「かみさま」こと「祟子様」


 祟子様というのは”祟られた人”

 字を見りゃ分かるよと言われそうだが。祟子様たちは神仏に祟られている人のことを指し、彼らはその特異な力を使い、神を祀ることを仕事にしている。

 県外では「まつりごとや」として知られている……らしい。

 この祟子様たちにも能力の違いがある。祟られ度合いが大きいほど、強い力を持つ。

 私の中学の同級生「たきさん」と呼んでいたのだが、この「たきさん」当時も今も最悪最凶な祟りを背負っていた。

 「たきさん」は本名は人には教えられない。これは呪い関係では基本なので驚くに値しないが、仮名も数年、短ければ半年で変えなくてはならないほど。「たきさん」の名を呼ぶと祟られる、それを防ぐための仮名なのだが、使われているうちに名前が馴染み「障る」ようになるのだ。

 ちなみにこの「たきさん」は私が付けたあだ名で「祟忌さん」……中学生って恐いよね。厨二病って本当にコワイ。「たきさん」本人は笑って許してくれ、いまでもそうやって呼んでるけど。


 「たきさん」は中学三年間で名前を五度ほど変えた。

 私は在学中「たきさん」の数少ない「お相手」に選ばれた。書いた通り「たきさん」は相当祟る。半端なく祟る。話しただけで「障る」

 だから話せる相手はそれほどおらず、話しても影響の少ない人が数名選ばれる。その一人が私だった。

 ”恐くないの”と聞かれそうだが「たきさん」は落ち着いた良い人だったし、年配の人たちが断ることを許さない。祟子様からの指名を断るなんてとんでもない! ってのが実情。土着信仰のかみさまからのご指名だからね。

 「たきさん」は良い人だが祟っている神が尋常じゃない。

 私が知っている範囲では「たきさん」小学生の頃、理由なく叱責されたことがあった。叱責した教師の娘は、その日のうちに上半身が潰れて死んだ。自宅のコンクリート塀を染めて、脚だけ残って。どのように潰されたのかは不明。警察はひき逃げ事件でさっさと処理したそうだ。トラックがぶつかったような形跡はないらしいが、人間には不可能なのでそうなったらしい。


 理由がしっかりとしていて「たきさん」が悪い場合はそんなことは起きないらしいが。


 中学の入学式が終わり片付けが終わった体育館に連れて行かれ、そこに「たきさん」と他の「お相手」がいた。男女同数くらいで、新入生から三年生まで、私を含めて四十人ほど。

 「お相手」に選ばれたと言われ封筒に入ったプリントが渡され「たきさん」から直接名前が入っている封筒を渡された。

「なんで私が選ばれたんだろ」

「昔お母さん、祟られたことあるからじゃない」

「ええ! お母さん、祟子だったの?」

「そんな凄いものじゃなくて、遊んでる時に龍神様の像の口に手を突っ込んだら、その日から顔痛くて痛くて。歯医者いってもどこも悪くないって言われて、あんたの祖父さんがこれは神様だと思って近くの拝み屋へ連れて行かれたら”龍神様が悪戯っ子にちょっとなあ”言われて数珠で頬撫でられたら治ったの」

「ええー」

「龍神様が本気で怒ってたわけじゃなくて、ちょっと懲らしめるつもりだったから拝み屋さんでも痛みを収められたって」

 祟りって簡単に遺伝するらしく、私も若干祟られ? ていたようで。「たきさん」こと祟子様のお相手をするとなると、一度くらい祟られた人じゃないと色々とあるようで ―― 祟子様になるほどの祟られではないので。ただの残り滓みたいな感じだけどさ。

「祟子様から貰った名前は?」

 帰宅後「たきさん」から渡された封筒を開き、中の紙を取り出した。そこには毛筆で、

「剣崎”けんざき”だって」

 剣崎と書かれていた。


 祟りを払うために「お相手」の名前も「切れる」タイプを選ぶのだそうで、突然連絡を寄越した刀山とうざんもそれの一つ。


 「たきさん」は良い人で、クラスメートが障らないように気をつけてくれ、とくに問題なく卒業を迎えた。「たきさん」は地元の高校には通わず、日本各地にある祀らねばならぬ場所へと出向き鎮めながら、定時制の高校を点々とした。

 成績は良かったのですが、色々と問題があったようで。

 この前会った時には、時間はかかったそうですが大学も卒業していました。

 「たきさん」お金はあるんですよ。ただ一定の場所に長時間滞在できないだけで。ちなみ祟子様は選挙前とか引っぱりだこですよ。なにせ神様ですし、神様をおろせますので。

 話が逸れましたが、卒業するとき「たきさん」に「お相手」こと「剣崎」と書かれた紙を返すのですが……

「ちょっと待ってくれるかな、剣崎さん」

「はい」

「これ、貴方が持っていて」

「え?」

「剣崎は貴方の名前になった。難しく考えないで、ペンネームとかに使ってくれたら」

「はい」

 名前が手元に残ったのは私だけだったようです。今にして思えばSAN値がないので祟られないだろうと判断されたような……。


 実家に帰省しない私と、あちらこちらを移動している「たきさん」が出会ったのは、熊谷さんを通じて。

 いまだ入院している熊谷さんが行方不明だった頃、ご家族が私の故郷まで行き、霊媒師さんに行方を占ってもらったのだそうで。藁にも縋る思いだったのだろう。

 その霊媒師さんは「たきさん」程ではないが祟子様で、熊谷さんがどこぞの神に捕まっていると ―― 熊谷さんのご家族はカルト教団のことだと思ったそうですが、熊谷さんの証言ではカルトなどではなく……なにに捕まっていたのかはまだ私も聞いていません。

 ただ霊視(?)した霊媒師は、熊谷さんを捕らえている<ご神体>が奇怪だったことが気になり、たまたま道場(祟子様と呼ばれる人たちは、とある道場に集められて共同生活を送り祀る方法を覚える←地元では誰でも知っているのですが、多分全国的には知られていない……でしょう)帰省していた「たきさん」に自分が見たことを伝え……「たきさん」が独自に調査したところ”君が消えた六月三十一日”に辿り着いたのだそうですよ。

 ”剣崎”の名を見て私だと気付き、コンタクトを取ってきました。

―― 久しぶりに会えませんか

 聞かれたので……相変わらず、腰が低いというか、低姿勢というか。

―― サバチーさんも連れてきてくれませんか

 「たきさん」ならサバチーの裏側見ても平気っぽいし、連れて行くというか、鯖缶で召喚すりゃあ良いだけですし。

 それで年始に、久しぶりに故郷で再会しました。

 サバチーを連れて会うので、「たきさん」がいる道場が所持している建物の一つ。人里離れたところにありますが、前もって人を派遣して部屋を暖め雪かきをして、食料などを運び込んだ所で。

 卒業して随分と経っていますが「たきさん」は「たきさん」でしたねえ。

 「たきさん」サバチーによっぽど会いたかったのか、

「日本全国の鯖缶買ってきたんだけど、お口に合うかな?」

 なにしてるんですか「たきさん」

「サバチー。おいで」

 現れたサバチーは貢ぎ物をたくさん用意してくれた「たきさん」に一礼? なんか今まで見たことないけれども、お礼しているような雰囲気を見せてから、鯖缶を貪り食っていた。

 私は六月三十一日で書いているような話を、「たきさん」からは祀る話について色々と。「たきさん」から聞いた話は面白くて、少々脚色して物語にしていいと許可をもらったので、機会があったら話にしたいと考えてます。


 祟られる可能性がなきにしもあらず、ですけれども――


 熊谷さんが早く元気になってくれないと、六月三十一日はまとまらないので、まだまだ先ですが。

「それと、これ」

 「たきさん」が別室から持って来たのは注連縄。

「サバチーさんにどうかと思って」

 「たきさん」サバチー用の注連縄を作ってくれた。

 手作りだそうで、丸みを帯びているサバチーの頭部であり全身に……やや楕円を帯びた名状しがたき水っぽい餅が化粧まわしを着けたような。

 でもサバチーは気に入ったらしく「まあ、食え」と言わんばかりに「たきさん」が持ってきてくれた鯖缶の食い残しを勧めてた。

 こうしてたきさんと楽しく過ごし、アドレスを交換。通話やメールについての注意事項が書かれた可愛いノートと、お土産にと大吟醸と鯖缶をもらって「たきさん」と別れた。


 刀山、アドレス教えるが、言った通り、使い捨て携帯でかけてくれよ。「たきさん」の祟りは携帯電話越しでも障るからな。


 水没都市の話の間に、これを挿入したのは、会って話をしてるとき「たきさん」が語ったことが気になって。

 私ずっと気になっていたので「たきさん」に”何に祟られているのか”を尋ねてみたんです。中学生の頃は聞けなかったんですよ。恐かったし、変なこと聞いたと知られたら教師に怒られるので。

 「たきさん」ははっきりとは答えてくれなかったんですよ。

 そして ――

「祟子は最近になって民俗学の学者が作った当て字」

 そう言った。


 前振りで普通の人には「※△◇○※~×▲■☆※」って聞こえると言いましたが、民俗学者は外部の人だったらしく、正しい発音を聞き取れなかったのだそうです。

 通訳……笑えますが、必要だとは思います。それで通訳が祟子様の意味を説明した時、民俗学者は「祟子」だと勘違いしたと。

 「祟子」これ、なんて読むと思います?

 民俗学者は「祟子」と書いて「たたりご」と読ませましたが、私たちは「祟子」のことを「たごん」と読みます……正確な発音は、巻き舌混じりで外国語みたいな感じですが。

 民族学者は「たたられたこ」が訛り、また前後が逆転したと考え「たごんさま」は元々は「たたりごさま」と解釈し「祟子」と漢字を当てたのだそうです。

 「たきさん」曰く「たごん」には意味など当初からなく、該当する漢字もない。発音のみであったと。それは太古の昔より存在した名であり、人間が作った文字では決して表すことができない。……ま、間違って当て字してても問題はないそうなので。

 ところで「たきさん」はどうしてそのことを知っているのでしょうかねえ。

 それともう一つ気になっていたことがあったのです。直接本人に聞きはしませんでしたが……「たきさん」は仮名が変わる都度、見た目も変わるのですが、あれはどうしてですか?

 もしかして中身が入れ替わっているとか? まさかそんな、暗黒神タゴンでもあるまいしねえ。


「あ、メールだ。……サバチー!」

―― サバチーさんからメールが届いたのですが、読めませんので、通訳をお願いしたいのですが

「「たきさん」読めないって……ん? 読めると思ったって? なんで。理由はいいや、それで「たきさん」に何を送ったの。代わりに……鯖缶の催促かよ!」

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