[15]<F>私のはなし・名状しがたき ~ ロール・エンド・ロール
蕃神の儀式も終わったので、あとはかけ足で ――
無事に儀式を終えたことを告げると感謝されて……
「日本の若い女性は好きだろうとのことだ」
目の前にはカリフォルニア・ロール。
あのーほら、カルテルのボスがね、日本人女性の好みをしっかりと調べて来いと命じたようで――日本の女性、アボカド好きじゃないですか。
とりあえずアボカド入っていると女性向けみたいな、空気、あるじゃないですか。いや否定はしないけどさ、しないけどさ!
……で、アボカドですよ。カリフォルニア・ロールですよ!
厳選された素材なんですが、まあ、カリフォルニア・ロールなんです、それだけなんです。小市民小娘(当時)が麻薬組織のボスに「別にカリフォルニア・ロール、好きじゃないけど」などと言えるわけもなく、滞在中……っても二日程度でしたが、とにかく滞在中「ご飯」の部分がカリフォルニア・ロールに。
あと量が多くて。料理を残すのに罪悪感があるので、必死に食べて――あの時以来、カリフォルニア・ロール食ってないなあ。一生分のカリフォルニア・ロール食った気がするよ。
その後、私はアメリカへと戻ることに。
大塚の若頭が「見た目はヤクザとは分からない」舎弟を通訳代わりに付けてくれて、アメリカの空港に着いた所で別れました。
本当は大学まで送ると言われたのですが、空港に友人たちが迎えにきてくれていたので。
お前、大学時代、友達いたのか! 言われそうですが、それなりにいましたとも!
**********
カルテルさんたちのその後――
ホセ
私が大学四年の時にガンで死去
蕃神の儀式に向かった当時、すでにガンだったとのことで
延命治療とか興味なし
長年の功績(主に蕃神関係)で南洋の方で痛みを緩和する治療を受けて亡くなった
死後、遺産管理人みたいな人から死んだというメールを貰った
前途ある大学生(←私のことらしいよ)とカルテルの関係者が知り合いなのは悪かろうということで、最期のメールを貰った時点でホセの携帯は破棄されたそうです
ベラスコ
現在でも連絡を取り合っている
次の蕃神の儀式の時はもっと攻める――謎の決意を持っている男
帰る時に目出し帽取ってくれるかと頼んだら、あっさりと
最近は物理学に目覚めた
物理学に目覚めた理由は、メキシコの殺し屋の嗜み「交通標識に死体を吊す(画像検索しないように。マジで検索するな)」を得意としていると聞き、だったら物理を学べばもっと上手くできるんじゃね? と、冗談で言ったところ、大塚の若頭が訳してくれて……
たまーに「上手に吊せた」と映像つきのメールがきたり、最近は動画で送ってきたり(吊すところだけだよ)楽しく元気に全力でメキシコの殺人鬼やってるようです
ちなみにメキシコ麻薬組織の伝統晒しとして、首を斬って車のボンネットに並べるという技があるのだが、ベラスコがやったその映像が送られて来た時、思わずメール返信してしまった
「こんなネット上に無数にアップされているものを送ってくるな」と……
スペイン語が下手だったことが原因なのか、遠回しに「映像送ってくんな!」と言ったのが通じなかったのかは不明だが、最近はバリエーションを考えているとか……
無駄に凝った晒し首が出てこないことを、なんか適当に祈ってる
カルテルのボス
息子だか部下だかにボスの座を譲ったそうです
新しいボスから日本語メールがきて戦慄した
マウロ
良い具合に死んでた。映像見るかと聞かれたが、丁重にお断りしてもらった(大塚の若頭に)
瑞原
華麗に拷問されて死んでた。映像を見るかと聞かれたが、丁重にお断りして、彼の経歴を見せてもらった。スペイン語の書類だったので、大塚の若頭に読んでもらった
大塚の若頭
輝かない..事件以降は会ってなかった
元気にやってるみたいです
姐さんはお元気なのでしょうか
舎弟
アメリカまで付いてきたヤクザ
見た目は普通、まあ、普通
瑞原あい
最期に会った時は生きていたが、いまはどうか分からない。死んでいたとしても私の心は痛まない
トニオ
今日も元気に誘拐を指揮しているらしい
何でこの人捕まらないの? →背後に大きいのがついているらしいよ。うん、背後にね……
**********
瑞原たちが救おうとしていた右腕だけ残ったやつ――面倒なんで右腕呼ばわりしておきますが、この右腕は頭の良い研究者でした。なんかねえ、良いこと開発してたらしいよ。非合法な人体実験をしてね。
その流れでメキシコにいたのですが、人体実験の他に、右腕の性癖は異常で、五歳未満の子供を誘拐して性の対象にした上に殺すんだそうです。
そこを突かれて誘拐されたあたり、頭良くてもバカなんだな……と。
重要な研究ですが、誘拐された現場が現場で、あまり大っぴらにできないし、誘拐した相手が相手だったので、誘拐された人を助けることを仕事にしている民間企業に依頼して――瑞原がやってきたようです。
**********
タイトルを「貴之(たかゆき・仮)がひでぶとタイムスリップでサバチー」にしてやる!――言ったものの、長すぎるので「輝かないトラペゾヘドロン」とします。
輝かないトラペゾヘドロン編【0】
空港まで迎えにきてくれた大学の友人について説明する……輝かない..編には何ら関係ないのだが。
ついでに全員仮名なのは、事情があるため
アリ
アラブ系アメリカ人
家長の兄と折り合いが悪かった
男気のあるアラブ人
ナターリヤと良い関係だった
三年の時、大学を中退
以降は分からない
ナターリア
ロシア人
ウクライナ系の超美人さん
優しかった
姉がまさかのバラライカ(ブラックラグーンというマンガに出てくる女マフィア)
アリといい感じだった
三年の時、カールハインツたちの魔手により落命
柳生(やぎゅう)
白い蝶の如き月の回でぼやいてたベトナム人
なぜか格好良い日本名のあだ名を! と頼まれたので柳生
けっこう良い奴
いまも元気に生きている模様
この三人が空港まで迎えにきてくれたんです。……懐かしいねえ。
三人とは休みの日なんかは遊びにいったりしました。近くのチャップマン農場跡地に私が作った弁当を持ってピクニックに――その跡地にピクニック行くのかよ! 突っ込まれそうですが、一度は足を運んでみたい場所だったので。
柳生は同じ学部だったので接点はあった。
でもアリは医学部だったので、とくに接点はりませんでした。でも最初に仲良くなったのはアリ――その仲良くなった経緯なのだが……
実家から送られてきた鯖缶を食べる→久しぶりで食べる手が止まらない→片付けないで食べ続ける→そのまま寝る→外国人には耐えられない独特の生臭さ(鯖の味噌煮缶が原因)→ナターリア、これはもしかしたら<旧支配者>がやってきたのかもしれない→匂いの出所を発見→日本兵の部屋→一人では踏み込む勇気がない(姉ちゃんはマフィアだけど)→男子寮に助けを求める→尻込みする男たちの中でアリが来てくれた→寮管理者(女)とナターリアを後ろに、アリが銃を構えてやってくる→部屋の中は鯖缶でいっぱい
――という経緯で知り会った。
ちなみに私はその後アリからナターリアと仲良くなれる切欠をありがとうと、随分と感謝されたものだ。
私は寮の皆様に「生臭くても気にしないでください」と言って歩いて、そして――蕃神の儀式から戻って来てすぐのこと。鯖缶をつつきながらレポートをまとめていたところ、手にありえないと本能が告げる感触が。箸を握って鯖の水煮を取ろうとしている手に触れるそれ。
「……」
見たくないと思うも、見なければ始まらないと覚悟を決めて振り向くと、そこには「鯖の水煮を食っているヤツ」が。
「……」
人の餌を勝手に貪る、白く発光しているかのようで、表面はつるつるしていながら、見たこともない文字が刻まれ、石のようでありながら呼吸をしているように蠢く”あれ”
ただし、小さい。
サッカーボール2.5個分くらいの大きさ……が、私の鯖の水煮をじゅるじゅると食ってるんですよ。
あり得ない光景でしょ?
その後の私はもっとあり得なかった。
「てめえ、なに勝手に食ってるんだよ!」
そいつを持ち上げて、床に投げつけて、壁に向かってガンガン蹴りまくり、床が抜けるほど踏みまくり。
食い物の恨みは怖ろしいぞとばかりに、殴る蹴るの暴行を加えて……効きはしないのだが。ある程度の暴行後、会話できることに気付いた。
っても、もの凄く愚鈍で知識を得るとかそう言う類の存在ではなかったが。
頭良かったら、人が食ってる鯖の水煮に食いついてこないわな……で、これがサバチーである。
サバチーから話を聞くと、ナイアラルトホテップと一緒にメキシコに来た。そこで鯖缶を発見、食ったら美味かった。鯖缶の持ち主を捜してここまできた。
「おーまーえーがーはーんーにーんーかー」
丸い体を両手で掴んで床に投げつける。
あの時 ―― ナイアラルトホテップの末端が現れた ―― 私は持参した最後の鯖缶食ってたんですよね。食いかけのところで呼ばれて、戻って来たら舐めたかのように綺麗になくなってた。
誰か食べたのだろうとは思ったが、ここで騒いだらトニオがまた拷問の末、食ったやつを殺してしまうことを恐れて見なかったことにしたのだ。
だ! が!
「食ったのが人間じゃねえなら、容赦はしねえ!」
サバチーと出会ったころは、本当に話が進みませんでした。小説なら「かけ合いはもういいから、話進めろ。さっさと進めろ!」と言われるくらいに。
殴りに殴り、蹴りにけってサバチーと意思疎通ができるようになり、鯖缶は私が良いと言った物以外は食うなと躾けることに成功! したのですが、非常に貪欲で食い意地が張っていて愚鈍なため、空気は読まないわ……。
歪んだ星図の世界に行った時、腹が減ったので鯖缶をぱかっと開けたら、次元の狭間っていうの? あそこからサバチーがもぞもぞと這いだしてきて、その世界の人たちが恐怖で次々と失神する状況に。
「私が本来いる世界以外では食わせない」
「……」
さっくりと連れ戻されることに。
学舎に向かっていたのに、寮の部屋に連れ戻され、顔はないけどドヤ顔で積み上がった鯖缶の上にいるサバチー見る度に、私の中に名状しがたき気持ちが沸き上がってくるのです。
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