[10]<F>私のはなし・名状しがたき ~ 過程が重要
マウロは必要経費を預けられ交渉する立場の男でした――マウロはその必要経費が入った通帳と、私に渡された通帳を奪い瑞原と共に途中で帰った。
マウロは蕃神の儀式に金をかけるなんて馬鹿らしいと――実父の幹部が漏らしていたのだそうだ――だから然程悪いことをしたとは思っていなかったようだ。
日本語とスペイン語に堪能な男性(場所が場所なので、男性以外は無理。私は除く)を捜していると言われて、瑞原に話を持ちかけ二人で計画を練り実行する。
登場人物紹介でさくっと書いたが、瑞原がマウロに近付いたのは人質奪還のためで、そのために私は危険な目には遭わなかったが、マウロを信用させるために子供を”殺されると分かっているのに”買収したので、殺されてさっぱりしたかな。
瑞原に言わせれば子供たちも立派な反政府組織の一員だから殺しても――ってことなんだろうがね。
彼のお陰で私は無傷だったけれども、嫌いなのだから仕方ない。
とある山中の反政府組織の拠点、面倒なので「トニオの家」ってことで。
蕃神の儀式は高地で執り行われるので、平地で生まれ育った日本人には辛いわけですよ。富士山山頂近辺でまだ道半ばとか……。
日本人は高地向きではないことは、トニオ(某反政府組織の偉い人)はよくご存じなのですよ。日系企業の社員を誘拐して身代金を要求して資金源にしているので。連れてきた日本人が、高山病で死にかかるのを何度も見ているので。
体質的に合わないこと解ってるなら、誘拐しなければいいのに……
私も多くの誘拐された人たち同様、高山病に罹って――高地トレーニングとかそれっぽいことをしてきたのですがメキシコの大自然に敵わず。
トニオの家でしばらく体を慣らすことになりました。これは元々予定されていたことで、その間にホセがトニオの部下たちと一緒に私が進む道の調査と、トニオの家よりも高地にある村で育てるように命じていた生贄用の山羊が揃っているかを確認しに行った。
その間私はマウロと瑞原と一緒で、ホセがいなくなって三日目くらいに通帳を奪われて縛られることになったとさ。
マウロは私を殺そうとしたらしいが、瑞原が止めてくれたので生き残ったそうだ。
気がついたら転がされててね。
見張りの少年と食事を運ぶ少女をたった10USAドルで買収したのだ。
料理に睡眠薬を盛られ、私が眠っている間に荷物から通帳を捜し当て、瑞原が私を縛って二人は”街に酸素ボンベを取りに行ってくる”と言い残して ―― その10USAドルで少年と少女は殺されてしまいましたとさ。
もちろん名前も知らない。少女は世話をしてくれていたから、名前聞きたかったんだけど苦しくてさ。もう少し高地に慣れたら話しかけようと思っていたのに。
なんか”イラッ”とするのは間違いだろうか? マウロはいいんだよ、マウロは。心底屑だから。瑞原のこと任務遂行のために――とか言われると、なんかこう、胸がむかつくんだよね。
瑞原は死んでいるのでどうしようもないが、あとで私に瑞原が死んだことを伝えにきた同僚……が、ここを見ているとは思わないが、あの時教えなかったことを此処に書いておこうか。
おまえらが20USAドルで信頼を勝ち取り、後々助けようとした人質はもう死んでるよ。名前聞かされた時、思わず噴き出すかと思った。
無駄死に、やーい! やーい!
あの少女はさあ……当時私はまだ十九歳だったから、少女と年齢が近かった、だから殺されたことはショックだった。今はさあ……瑞原無駄死に、やーい! やーい! 同僚、てめえも人生無駄に使ってざまあみろ!
……話が逸れました。いやいや、大人げなくて申し訳ない。
薬を盛られた時の話だが、無味無臭な代物ではなかった。味はしていた……でも混入されたのが初めて食べるメキシコ料理だったから、正しい味が分からなかった。
ずっと持参した日本食のレトルトを調理して貰ってたんだけど、その時だけ特別にってメキシコ料理を出してもらったら――日本人なら多少口に合わなくたって食うだろ? 食いきるだろ? 多少口に合わなくたって、美味しかったですって言うだろ? なあ、兄弟。
だから薬入ってる料理食べ切っちゃったんだよ。
だがトニオがこの異変に気付いたのは早かった。
理由が飯の支度をしている人たちが、私のレトルトを食っていたのがトニオにばれたんだ。和食って独特の匂いがするから、匂いの出所がおかしいことに気付いた。
彼らは”私が彼らがいつも食べている料理を希望して、替わりに日本食をくれた”と答えたそうだ。トニオは彼らのことをこれっぽっちも信用していなかったので、私のところに確認に来て、部屋の散らかり具合に驚き、そして声をかけても反応ないので医者に見せて薬物を飲んだことが判明した。
私が意識を取り戻した頃にはホセが戻って来ていました。
事情を聞いて――通訳が居なくなったので、トニオは日本人の人質を通訳に使っても良いと言ってきたのだが、瑞原が瑞原だったし、最後まで付き合ってくれないような奴では役に立たないので丁重に辞退――は言葉が足りなくてできなかったが、なんとか辞退した。
マウロと瑞原が居る間は口も聞いてくれなかったホセだが、銃弾がたくさん入っているリュックサックの底から、ポケットサイズの「西日辞書」を取り出した。(西=西班牙・スペインのこと)
その辞書をファーストフード店でメニューを指さし注文する人のように単語を選び、私と会話を始めた。そこで私は少しばかり待って貰い、鞄の奥底に隠していた「日西辞書」を持ち、ホセと会話することに。
辞書を持っていたのにどうして使わなかったのか?
そりゃあ、一応通訳が付いているから、通訳の顔を潰さないようにという気遣いで、隠しておいたんだよ。そんな気遣いしてやる必要なんて無かったし、顔は本当に潰れやがったが。
やーい、やーいざまーみろ! 瑞原
ホセは顔は悪役で、やって来たことも悪人以外の何者でもないのだが、蕃神の儀式を執り行う人間を丁重に扱う人らしく”一度戻り、人員を揃えてからもう一度来よう。通訳がいないと大変だろう”と言ってくれた。
良い人だよ、ホセ。
その優しい提案を私は断った。もちろん通訳は居た方が楽だが、女なので……
▲メッセージボックスにメールが届きました▼
ユーザーページに赤字でメッセージが届いたとあり、クリックしたら、まさかの二宮医師でした。わざわざ小説家になろうに登録してメッセージを送ってくれた。
何を送ってきたかというと、自分のことを隠す必要はないと。
もしかして二宮医師、露出狂なのだろうか……相手が観ているのを知っていながら、露出狂と書く私も相当おかしいが。
メキシコの蕃神の儀式の話を突然区切ったのは、私が帰らなかった理由と二宮医師が関係しているからだ。
第一に私がそのまま進むことにした最大の理由は”多い日も安心”――男性読者がいるかどうかは分からないが、最大限に考慮してみた――要するに”多い日も安心”を使わないため。結構な長丁場なんですよねー蕃神の儀式。人里離れた場所に行くし、荷物は食料品を優先したいので他の荷物は極力減らしたい。
「二ヶ月半停止までできる」
私が蕃神の儀式に赴くことを知っている二宮医師からの提案だった。
要するに薬で止めるということ。
「二ヶ月半ですか?」
「それも一回の注射で」
もの凄く危険だなと……普通の人なら誰でもそう思うだろう。
で、語って良いとメッセージを貰ったので、二宮医師の概歴を説明しておくと……第二次世界大戦中、三桁数字、合計すると11になる部隊と似たようなところに在籍してました。合計11部隊は有名ですが、それ以外にも、それなりに――
で、前に二宮医師は三十代と書いたが、正式には【見た目は三十代】実年齢は百歳間近。所属していた部隊は「10」とでもしておきましょう。
見た目は三十代、実年齢は百歳、中身はマッドサイエンティスト。それが二宮医師。
人間の研究の最終目的は不老不死。みなこれを目指して日々実験を繰り広げる――二宮医師が所属していた部隊「10」は少々他の部隊と違い、同盟を組んでいたややオカルト好きな国家と共同で研究しており、科学というよりオカルトで不老不死を目指していました。
二宮医師はそれに不満を持っていたそうです。
そして色々ありまして自ら不老実験の被検体となり、いまに至るのですよ。
かなり割愛しましたが、二宮医師は人体実験を躊躇わない人だってことです。正真正銘の屑ですが、自分が被検体になることも厭わない筋が通った屑でもあります。
お前に言われたくないと聞こえてきますが、多分気のせいでしょう。
ですが二宮医師は男性なので、不老不死を目指す過程でどうしても女性を使った人体実験が必要であり、
「治験アルバイトだと思って引き受けろ」
「めちゃくちゃ危険じゃないですか」
その一環として繁殖機能の初期段階の制御薬を作ったらしい。
詳しいことは当然聞いていない、訳が解らないこともあるが、旧日本軍のヤバイ部隊に在籍していた人プロデュース薬とか飲めるか?
「バイト代なら出すぞ」
「お金持ってますし」
カルテルから振り込まれた一億円が。
「お前みたいなのは、カルテルから振り込まれた金を使えないな。自分で稼いだ金以外は後ろめたく感じるタイプだ」
二宮医師が仰る通り、趣味の本を買うなら治験バイト代で買いたいなと――
バイト代も魅力的でしたが、メキシコ行くなら多い日を消し去るのも大切だろうと考えて、引き受けることに。
▲二宮医師と私について、簡単に説明終わり▼
二ヶ月半しか止められないため、さっさと蕃神の儀式を終終わらせる必要があるので、計画通りに進めるように頼みました。
私の意志が最優先なので、用意が整うと出発することに。
蕃神の儀式を行う場所までは、車で移動する――楽そうでしょう? そう思うよね……道路が舗装されているならな!
蕃神の儀式を執り行う場所とコカイン畑は近い位置にあるので、人を阻む仕様にしておく必要があるから悪路で悪路で……いま思い出しただけで吐けるね!
元々北国の田舎者なので、悪路には強いんですよ(田舎は移動手段がほぼ車。豪雪地帯は雪が半端に解けたり凍ったり、除雪不備があったりして道路がもの凄く凸凹になる)でもね、ダメだった。
好待遇だったよ。車中泊ができるように改造されてて、移動の最中は寝てて良いって言われたし……まあ、言われなくたって車酔いで動けなかったけれども。
そうそうベラスコだけれども、彼が運転してくれたんだ。ホセは完全に警備担当なので、ハンドルを握るわけにはいかないそうだ。
話がとっちらかっているが、移動手段は車。ハイブリッド車で、太陽光パネル付き。私が乗っている車は、私の荷物すべてとホセとベラスコの武器が積まれている。他にも燃料車と物資運搬車が二台、そして雑用係が積み込まれたトラック一台。
他所の人がトラックの荷台で我慢しているときに、最高の座席用意されておきながら車酔いごときで! 叱られそうだが、あの悪路は悪魔の所業だぞ! マジでアレはヒデエ。他の人たち、なんであの道で酔わないのか? 慣れ、慣れなの? 絶対慣れだけじゃないって。絶対麻薬やって……! また話が逸れた、車はその他に護衛用に二台。前後を守っている。
並びとしては(前)■△◇▲●■(後)こんな感じ。
(■護衛車 ▲物資運搬車 ●燃料車 △トラック ◇私が乗車)
道が狭いので一列になって移動したのですよ。
前もって先の村に運び込んでおいた物資を補給したり、トラックに生贄用の山羊を積み込んだりして……私は寝てましたけどねー。もうねこの世界とあの世を行き来してた。あの時ほど星図が歪んだ世界に逃げたいと思った時はなかった。
そして私は私と遭遇することになる。<旧支配者>と共に――
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