第14話 那由多愛の好みのタイプ
昼食の時間、俺はずっと
楽しくワイワイ話してさりげなく……俺は那由多さんの好みのタイプの男を聞きたかった。
彼女から好意を向けられている。その自覚はある。だが、どうしてかわからない。
俺はまだこの学校に来て、この美里市に来て、まだ何もやっていないのだ。
ヒロインを攻略しようと意気揚々とやって来て、その自分磨きをした腕を披露する前に、勝手にあっちからやって来てる。
その理由がわからないし、その理由がどうしても知りたかった。
「———こんなところに呼びだして申し訳ない。
放課後の屋上で、俺は一真子を呼び出した。
「うん……」
親友である那由多さんに内緒で。
俺はどうしても彼女から聞いておかなければいけないことがあった。
「
「……うん、いいよ」
もじもじして、
何だか、発情しているみたいだ。
こんなことを口に出したらデリカシーゼロなので絶対に口に出さないが、どうして彼女がそんな〝フリ〟をしているのかはわかる。
「———告白はしねぇよ?」
「えぇ~~~~‼ 夕焼けの屋上! 男の子と女の子が二人っきり! それで言いたいことがあるっていったら告白だけじゃ~ん! この
そう言って、痩せて薄い胸のボディをくねらせる。
俺の好みとして、彼女のスレンダー体系は好きだが一般的には肉付きのいいボンキュッボンの体系の女性の方が魅力的だと思われるだろう。そんなスクール水着がばっちりに似合いそうなやせっぽちの身体に、どうしてそこまでの自信を抱いているのか疑問ではある。
口に出したら絶対にぶん殴られるから、そんなことを考えているなんておくびにも出さないようにキリッと真剣な顔を作る。
「全然違う。聞きたいことと言っているだろう。俺は那由多愛さんについて聞きたいんだ」
「あ~……はいはい。知ってた知ってた。知ってた速報。まぁ、愛が黒木君にぞっこんなのは見てわかるし、黒木君も愛にメロメロで間に入る余地がないのは知ってたよ。で、何が聞きたいの? 中学以降のことなら愛とはずっと一緒にいたから、そこらへん以降は何でもわかるから聞いていいよ」
スパッと冗談モードを切り替えて、わずかに口角を上げてこちらの話を聞くモードに切り替えてくれる一真子。
ありがたい。
ちゃんとこちらが質問したいことを理解してくれている。
俺は一真子をビシッと指さし、
「そこなんだ」
「どこなんだ?」
真子は不快そうに「人を指さすな」と叩く。
「那由多さんが、どうして俺にぞっこんなんだ?」
俺は、無礼に人を指さし彼女に不快感を与えてしまったことを心の中で謝るが、あえて無視して話を進めた。ここで一々口に出していると話がいつまでたっても進まない。
真子は人差し指をあごに当てて、首を傾げる。
「カッコいいからじゃない?」
「嘘だ」
「えぇ~……それ以外に理由がある?」
「
ハートマークを描いたお弁当を渡すほどに。
「何かしらの理由がないと納得ができない。中学校でも彼女はテニス部に入ってモテていたんだろう?」
「? アイアイ、中学時代はテニス部入ってなかったよ?」
「あれ⁉」
那由多さん言ってなかったっけ? 中学時代テニス部だったから高校でもテニス部に入るって……。
「アイアイ、スポーツは万能だからテニスも当然うまいけど、中学時代は部活、何もやってなかったよ?」
「あるぇ~……? だって、何か、そこにいて当たり前のようにテニス部に入ろうとしていたからてっきり……」
「
「それは……まさに
「だっしょ?」
どこかの方言っぽい言い方で、真子は同意した。
「そんな———誰ともつるまない氷姫と……よく友達になれたな」
「ああ見えて、意外とアイアイと私って共通の趣味が合ったりするんだよね~」
フッフ~ンと自慢げに鼻を鳴らす真子。
「そ、それはなんなんだ?」
「教えてあげない☆」
ガクッと肩が落ちる。
引っ張っておきながらそれか……。
「どうして?」
「アイアイがあんまり人に知られたくないみたいだもん。こんな意外な趣味があるんだよって皆に紹介しようとしたら、アイアイすごく嫌がったし。どうしても知りたかったらアイアイから直接聞きなよ」
「聞けたら苦労は……ただでさえ、好きな男のタイプを知ろうとして右往左往しているって言うのに」
「アイアイの好きな男の子のタイプ聞きたいの?」
「え? 知っているのか?」
キョトンとしている真子に期待を抱いてしまう。てっきり、
「うん、知ってるよ」
「教えてくれ。俺は幼馴染に紹介するために、那由多さんを攻略したいんだ」
「幼馴染? 攻略?」
「あ……」
失言だったと気づいた時にはもう遅い、真子はどういうことと、ジト目を俺に向けていた。
ここまできては仕方がない。
俺が、どうしてこの街に来たのか、こうなった経緯を話した方が早そうだ。
俺は一真子に向かって、俺を振った幼馴染の事、俺が自分磨きを怠っていたのにも関わらず、可愛い彼女をゲットしようとしていたこと。それを改め、気づきを与えてくれた幼馴染に感謝を伝えるために、「お前のおかげでこんなに可愛い彼女ができた」と幼馴染の橘陽子に負けないほどの彼女を手に入れて、陽子に挨拶しに行くという目的のためにこの美里市に来た経緯を話した。
「それで、愛はお眼鏡にかなったわけだ」
「ああ、そういう言い方だと偉そうだが、俺は陽子のためにも怠けていた過去の自分のためにも、可愛い彼女、那由多さんと付き合いたいんだ。だから、好みの男のタイプを知っていたら教えてくれ。俺は自分をその那由多さんの好みのタイプに変える覚悟はある!」
ドンと胸を叩く。
そうするためにいろいろ勉強をした。自分の髪質、顔立ち、体つき……生まれ持った素材をちゃんと理解し、どのように俺という素材を加工すれば、カッコ良くなるのか、一流美容師さんや芸能人のメイクアーティストの動画を見たり、中学の時のクラスカーストトップのイケメン男子にいろいろとアドバイスを貰ったりなんかして、よくよく勉強した。
だから、どんな那由多さんの好みにも合わせて見せると気合を入れたつもりだが、真子は困ったような表情をした。
「ごめん、それは知らない」
「今! 好みのタイプを知っていると言った!」
「外見は知らない。中身、心の話。那由多愛はね、ヒーローみたいな男の子が好きなの」
真子はそう言って自分の胸に手を当てた。
「ヒーロー? ライダー的な?」
「外見の話じゃんそれ……そういった見た目じゃないって言ったでしょ!」
いや、俺も中身の話のつもりで例を出したんだが……特撮ヒーローのような精神性が好みなのか……と。ああいう綺麗ごとを信じ、泥にまみれてどんな苦境でも信念を貫くような人間が好みなの、と。
「愛はいじめっ子から救ってくれる。どんな時でもどんな相手が敵でも、自分のために立ち上がって守ってくれる。そんな、ヒーローみたいな男の子が好きなんだって」
やっぱりそうだ。俺が思ったようにライダーみたいな精神性だ。
だが———、
「やけに具体的だな。まるでそんな男の子が昔いたかのようだ」
「いたんだよ」
「え?」
「愛の好みは、子供の頃に、愛を守ってくれた幼馴染なんだから」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になりそうになった。
那由多愛は子供のころの自分をいじめっ子から守ってきた男の子を、未だに好みのタイプと言っているということつまりそれは、その面影を追っていると言うことに他ならないんじゃないか……?
「つまりは……つまりは……」
那由多愛さんには———他に好きな男の子がいるってことじゃないか。どこか知らない、那由多さんのヒーローのことを彼女はいまだに好きなんじゃないか……。
茫然とする俺の耳に、屋上の扉がギィッと開閉する音が届く。
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