6-13.ムーノ男爵領の人々(4)
サトゥーです。見ると聞くとは大違いと言いますが、実際にやってみるまで判らない事は多いと思うサトゥーです。
◇
「あ、あのっ、美味しい御飯、ありがとうっ」
「気にしなくていいよ、さっきも皆からお礼を言われたしね」
「そのっ、それにお昼は、ごめんなさい」
お昼の赤毛の子だ。たしかトトナという名前だった。わざわざ野営しているオレの所まで来たのは、何か用事でもあるんだろうか?
少し俯き気味だった少女だが、少しルルに視線をやってから意を決したように顔を上げた。
震える手でスカートを握り締め、何かの決意に満ちている。
まさか、また「私を買ってください」とかじゃないだろうな。
正直なところ食傷気味だ。
だが、彼女の行動は少し違った。
ガバッと音がしそうな勢いでスカートを脱ぎ去る。スカートと言ってもワンピース状になった服なので、そのままアバラが見える所まで一気に服を捲くった――
――のだが、ルルが後ろから慌ててエプロンで前を隠してくれたので、見えなかった。という事にしておく。
服を着なおす気は無いようだが、ルルがエプロンで前を隠すのを払いのけたりはしないみたいだ。
「おっ、お詫びとお礼です。あたし達には、何もできないから、だから……」
「体で払うと?」
「うん、お姉が言ってたんです、『何かをしてもらったら、何かをしてあげなさい』って、言葉だけじゃダメだって……」
その人が言いたかったのは、こういう事じゃないと思うんだけどな。
「裕福な人からの施しは感謝するだけでいいんだよ。当たり前だと思われたら、ちょっといやだけどね」
「でもっ」
「お姉さんは、その日、その日を精一杯生きている人から、何かを分けてもらった時の事を言っているんだよ、きっと」
「そっ、そうなのかな……」
そこで黙ってしまったので、ルルが服を着せてあげる。もちろん、幼女の裸に興味の無いオレは目を逸らしていた。
ルルが、服を着終わったトトナをお茶に誘う。一緒に夜番をしているはずのミーアは、俺の背中にもたれて眠っている。一連の騒動でも起きないとは、夜番に向いてないやつだ。
「あのっ、これは?」
「青紅茶です」
「飲んでも大丈夫なの?」
「美味しいですよ」
ルルの言葉に、おっかな吃驚とした感じでカップを傾けるトトナ。美味しかったのか、顔がほっこりとしている。
オレはリザ用の投げ槍を作りながら、その様子を眺める。
「こんなの初めて飲んだよ」
「この辺では飲まれていないのかも。ご主人様が好きなお茶なんです」
この辺というか、富裕層しかお茶を嗜む余裕がないせいだろう。
このお茶の名前は「青いルビー」並みに納得いかないが、ダージリンっぽくて飲みやすい。入れたては薄っすらと青い色が出ているのに、冷めると普通の紅茶の色になる。原理が気になって仕方ない。
お茶を飲み終わって、トトナも少し落ち着いたみたいだ。
今度は自分を買ってくれとか言いそうだから、先手を打っておくか。
「トトナ、朝になったら、力持ちの子を何人か手伝いに寄越してくれないか?」
「うん、そんな事でお礼になるなら、全員で行くよ」
「頼むよ、爺さん達に芋を大袋に2つほどあげる約束をしてるんだ。君たちも、しばらく食いつなげるだろう?」
「うんっ、うん、ありがとう、お兄さん」
泣きながら礼を言うトトナの涙をルルが拭いてやっている。
もっとも、芋2袋じゃ、半月も持たないだろう。
これ以上の事をしてやる義理も理由も無いんだが、オレに迷惑が掛からない範囲で何かしてやろう。その方が偽善者っぽいからな。
◇
今、オレは野営地を抜け出して、夜の森の中にいる。
初めは、老人や子供たちの為に、
水源の側で、腐葉土がたっぷりある場所、尚且つ日当たりのいい場所が良いと老婆が言っていた。
ストレージから取り出したよく切れる聖剣で、樹木をサクサク切ってはストレージに仕舞っていく。何の抵抗も無く切れる上に、切った木をストレージに一瞬で収納できるので何か現実感が無い。300メートル四方の木を伐採するのに10分も掛からなかった。
伐採スキル無しでも何とかなるもんだ。
見通しが、だいぶ良くなった。
次に、前に取得していた開拓スキルを
切り株を一つずつ抜いていくのが、なかなか大変だ。引っ張るとヌルっと持ち上がるんだが、反動で足が柔らかい地面に埋まってしまう。
なので、そのまま引き抜くのは諦めて、切り株を浮かしたところで、木の根を聖剣で切り払うだけにした。この作業が意外に時間がかかり、1時間近くかかってしまった。
次は雑草や藪の除去だ。力任せに一気に引き抜くと途中で切れてしまうので、微妙な力加減が難しかった。雑草を抜く過程で「採取」スキルを得た。抜いた雑草の中に薬草が混ざっていたみたいだ。「草刈」スキルとの違いはココなのか。
火魔法で「なぎ払え」とかやってみたいもんだ。
雑草の除去が終わったら、残っている木の根を引っ張って抜く。土に埋めたヒモを引っ張るような変な感触だ。これも雑草と同じで、一気に引き抜くと途中で切れてしまうのが面倒だ。
途中に巨大な岩とか石があったので、ストレージに入れていく。畑にする以上、石は邪魔モノだろう。
さて、これで農地確保はいいかな?
開拓スキルのおかげなのか、何かをやり忘れている気がする。
開拓モノのマンガとか小説って、あんまり読んでないんだよな。
地面を見つめていても判らないので、前に廃村で拾ったクワで耕してみる。
「う~ん、普通だな」
10メートルほど耕したところで、何か硬いものに当たった感触がした。
土を退けてみると石がある。拳くらいの大きさの石だ。その後も、ちょっと耕す度に石に当たる。クワの刃先が、少し傷んできた。
マップの範囲検索を調整して、石を検索する。まず、深さ30センチまでのモノを表示する。多いな。採取スキルの
大体の石の除去が終わったので地面を耕す。子供の頃、田舎の爺ちゃんの家で1回だけ振るった事しかないので、正しい耕し方は知らない。地面を適当に柔らかくしておけば、爺さんとかが上手く采配してくれるだろう。
採取した雑草だが、全体の1割ほどを、開墾した場所の端に積み上げておいた。肥料とかにでも使えるだろう。
伐採した木も枝を掃った後で、10本ずつ、3箇所に積んでおいた。そのうち20本は、加工しやすい様に適当なサイズにカットしてある。
材木の下に布で包んだガボの実を数個入れておいた。これなら獣に荒らされる事もないだろう。
「ふう、流石に疲れた」
スタミナが2割も減っている。石の除去が一番辛かった。
「さて、開拓はできたが、どうしようか」
そう、一夜にして畑にできる場所が森に生まれるなんて不自然極まりない。
ここは、このまま放置して、子供達が食料探しの途中で見つけるのを期待しよう。2キロほど離れているが川沿いだし、見つけてくれると思いたい。
その時、森の中から、昼間にお婆さんとの会話で出ていた
自分から狩られに来るとは殊勝なヤツだ。
◇
この
現れた5匹の
残り1匹は、仲間が居なくなった事にも気がつかずに、付かず離れず逃走するオレの後ろを追いかけてきている。
危機感知に従い体を横に跳躍させる。
そこに振り子状に逆さ吊りの状態で襲ってきた
振り子の頂点まで行った蜘蛛が糸を放して前方に着地する。後ろで支点になっていた大木が、メキメキと鳴りながら折れる。
前方で蜘蛛の前肢を持ち上げて威嚇のポーズを取る
その横を駆け抜け、街道に走り出る。
ダッシュで野営地まで走り、夜番をしていたポチ達を呼ぶ。
食料にする前に、みんなのレベル上げにも利用して一石二鳥を目論んでみたわけだ。
「ポチ、タマ、戦闘準備。ナナ、魔物に
「てき~?」
「ふぁいなのれす」
「はい、マスター」
ナナから放たれた
おれは短杖を片手に
蜘蛛の長い足を盾の裏側に伸ばしてくるが、それはタマの小剣が防いでくれた。
「ありがとう、タマ」
「のーぷろぶれむ~?」
ポチが
反対側の胴体に赤い光が突き立つ。
リザの一撃だ、
怒った
「こっちだ、蜘蛛やろう!」
オレは怒声を上げて挑発し、
>「挑発スキルを得た」
挑発スキルを即座に
このスキルがあれば、迷宮で楽ができたんだろうな。
遅れてやってきたアリサとミーアの魔法が入ってからは、獣娘達の一方的な殺戮劇となった。
野営地の傍で戦っていたので、起き出した老人や子供達が遠巻きに見ている。ミーアの魔法やリザの魔槍が光るたびに、子供達から小さな歓声が上がっている。
最後にリザの一撃を受けた、
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【あとがき】
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