1-2.人の見る夢と書いて儚いと読む
こんにちは鈴木です。
なぜか学生時代は佐藤と呼ばれる事の多かった影の薄い男、鈴木です。
夢の中は痛みを感じないと言いますが、虫歯の夢とか「痛い」という記号を感じる夢ってありますよね。
ない?
まぁ、そんな事はいいのです。
◇
流星群が地上を抉った余波と思われる土埃の波に攫われる直前の激痛で2時間ほど気絶していたらしい。
時間は表示しっぱなしのメニューに表示されていた。地味に便利だ。
半ば土に埋もれていた体を起こす。
あれ? 起き上がれない……。
冬の朝、ベッドから起き上がれない感じに似ている。
手は動くようだが、だるくてメニュー操作をするのも億劫だ。
超能力でもあればメニューを操作してログを確認できるのに。
ダメもとで指で操作するようなイメージを浮かべると、ちゃんと操作できた。さすが夢。へんな所は自由自在。
そんな感じに思考操作でログを見ると、「サトゥーはレベルがあがった」が嫌がらせのように並んでいる。「ちゃらららっちゃら~」と有名なレベルアップ音を脳内で再生させながらログをバックスクロールさせていく。
しばらく続けて、ようやく違うメッセージログを見つけた。
>スキル『召喚魔法:異界』 を取得した。
>召喚魔法『流星雨』を取得した。
『流星雨』は隕石を召喚する魔法という事か。
FFWには存在しない魔法だな。あれの召喚魔法はゴーレムや精霊の召喚しか無いはずだ。 後ろの厨二っぽいワードが気になる。「異界」なんてFFWにもWWにも無い。夢の中で悩むのもなんなのでスルー。
このメッセージの後に「レベルが上がった」が続いている。
つまりレベル上昇でスキルや魔法を覚えないタイプのRPGという事だ!
「いやいや、何を夢の中で解析してるのやら……」
どうもゲーマー時代の解析癖が出てしまった。
しかし夢の中で恥ずかしがってもしかたないので欲求どおり解析を続けてみよう。
こうしている間にもリアルの体は、ゆったりと休養をとっているはずなのだから!
いったんログを放置して、魔法やスキルのタブを確認してみることにした。
「でも、その前に」
「設定」を開いて基本表示に「ログ」画面を追加する。
いちいち切り替えるのも面倒だ。
魔法には「流星雨」「全マップ探査」の2つが並んでいる。
スキルには「召喚魔法:異界」「術理魔法:異界」の2つだ。
「全マップ探査」は術理というカテゴリーらしい。
使った魔法やスキルが登録されるのか。
しかし覚えていないと使えないわけだし、今回みたいに初回ボーナスで使った時専用のイレギュラーパターンか。オレがプログラム担当だったら即拒否する仕様だな。
ステータスはかなり変化している。何せレベルが1から一気に310まで上がったのだから。寝る前に作っていたFFWはサーバー側で上限を50で制限していたはず。もっとも開発用のテストサーバーだと無限に上げられたので、そっちの記憶が影響しているのかもしれない。
9が並ぶ経験値の欄も天文学的な数値で何桁あるのか読む気にならない。3桁ずつにカンマをいれるくらいして欲しいものだ。次のアップデート時に提案してみるか。
プランナーによると全部バラバラに上昇させると調整が面倒だから、らしい。
さらにスキルポイントも3100になっている。
さっきスキルを取得したと出てたから割り振れるか?
スキルの欄をちゃんと見ると、先ほどの2つのスキルがグレーで表示されている。「術理魔法:異界 Lv0」となっているのでタップしてみる。Lvの所をタップすると「割り当てるスキルポイントを指定してください〔1-10〕」となっていたので10まで一気に入れてみる。
特に効果音も無く表記が白文字で「術理魔法:異界 Lv10」に変わった。スキルポイント残り3090。1レベルで1ポイント使うのか。分かりやすい。再度タップしても「最大レベルです」としか表示されなくなった。
魔法の欄を見ると「全マップ探査」が白文字に、「流星雨」がグレーのままだった。
スキルポイントを割り振ってスキルレベルを上げないと、魔法を使える条件を満たさないという事らしい。「召喚魔法:異界 Lv0」も10ポイント割り振っておく。
称号欄も色々追加されている。
まず「魔物殺し」。うん、これはわかる。続いて「鱗族殺し」「鱗族の災い」「鱗族の天敵」鱗族が何かはわからないが爬虫類系の亜人か魔物とかだろう。さらに「翼竜殺し」「竜殺し[下級]」「竜殺し[幼竜]」「竜殺し[成竜]」「竜殺し[古竜]」、ほかにも[]の中が固有名になった「竜殺し」が延々と続く。
そりゃ、これだけたくさんドラゴンを倒したら300とかありえないレベルアップも分かる。攻撃前のマップが真っ赤に染まるくらいだもの。
そして称号の最後の方に鱗族とおなじように「竜族の天敵」が来て最後に「神殺し」。
アナタハカミヲシンジマスカ?
「まて、そんなのいつ殺した!」
ログの端っこをタップして検索バーを出し「神」で検索する。
>竜神アコンカグラを倒した!
あったよ神殺しの原因。そうか流星雨って神をも殺すのか。
そっか殺すのか……。
あと2回、神をも殺す技が!!
いやいや、殺してどうする。
しかしログにダメージ表示が無いのでどの程度の威力かは不明だ。FFWの仕様でもWWの仕様でも、たとえ一撃死でもダメージ量が表示されるはずなんだが……。夢に仕様を追求してもしかたがないか。
すこし楽になってきたので体を起こす。
うっかり人里でクリックして人類の敵になりたくないので「設定」タブにある基本表示を変更して「流星雨」アイコンの表示をOFFにする。
そういえば魔法欄にも追加されてたな。
タブを魔法に切り替えて「流星雨」「全マップ探査」を表示する。はて、どうやって使うんだろう。普通にタップするだけでいいのかな?
「全マップ探査」を軽くタップするが特に変化はない。
ログを確認すると「魔法:全マップ探査を使用した」と出ていた。ステータスを見るとMPが3090に減っている。10MPで発動するみたいだ。いちいちタブを切り替えるのが面倒になってきたので、HP/MPバーを基本表示に追加する。
レーダーには自分以外映っていない。
敵がいないのはいいが、すべて虐殺した後だと思うと夢でも笑えない。いやゲームならいつもの事か。
被害者がいないならいいか? おもむろに「流星雨」をタップする。すごい勢いで体から血が引いていくような感じがする。視界の端のMPゲージがグググ~っと減っていく。ちょうど1000ポイント減ったところで止まった。
初回の時はこんな感覚が無かったから、あれは自前の魔力を使わないのかもしれない。
空を見上げる。まだ隕石は降ってこない。前のときから考えると、もうそろそろのはずだ。
そして雲を裂いて隕石群が降ってくる。
デカイ。なにそれ。
降ってくる隕石はさきほどの100倍近い大きさがある。
理由を追及するまえに本能的に走る。
もちろん隕石の落ちるほうと逆側にだ!
隕石というにはあまりに大きな塊が大地を打つ連続音を背後に聞きながら、懸命に足を動かす。
水の中を走るように空気の抵抗が強い。走る夢はいつも体が重い気がするがオレだけだろうか?
最後は転がるように小さめのテーブル大地っぽい岩壁の向こう側に回り込んだ。小さめといっても半径100メートル以上あるので遮蔽物にはなるだろう。
ちょうど避難が完了するのを待っていたかのように津波のような土煙が流れていく。時折土煙の中を人の大きさほどの岩が転がっていくのを見て、ちょっと背筋が寒くなる。
どれくらい経っただろう。土煙の流れが一段落したところで岩壁の上に登って落下地点を見る事にする。
結構急斜面だが足場が多そうなので軽くジャンプして50cmくらいの段差の上に飛び乗ろうとする。
ぽーん。という擬音が聞こえてきそうな感じで5mほど跳ぶ。
軽くパニックになりながらも岩の出っ張りに着地。
「ステータス上昇ってシャレになんね~」
安心と体の震えを誤魔化すために独り言が漏れる。
「さっきの隕石巨大化も
ゲームや漫画のニンジャのように壁の出っ張りを交互に連続で蹴りながら岩の上まで駆け上がる。便利、便利。夢とはいえ我ながら順応性が高いものだ。
遠方に形の崩れたようなきのこ雲が見える。おそらく隕石で巻き上げられた土砂か。これがリアルなら粉塵の堆積と日照の減少で農作物の不作や健康被害が問題になったりするんだろう。
「夢だし、考えてもしかたないか」
リアルすぎるのが悪いと思う。
-------------------------------------------------------------
【あとがき】
応援、フォローはお気軽に~。星を入れていただけると作者が喜びます。
【宣伝】
・2023/3/3より新作「セイの異世界生活~賢者の知識と現代グッズを携えて~」を投稿予定なのでお楽しみに!
・2023/3/9 にデスマ漫画版15巻とスピンオフ漫画「デスマ幸腹曲」が発売予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます