第27話 戦争を始めよう!
レッサーオリジンが生物か生物でないか、という問題に解答は得られなかった。
最もその存在に詳しいと思われるサイルミ・トロッケンが情熱を失ってしまったのだから、文章が残っている訳がない。
僕は、とりあえず『レッサーオリジンは現象である』という何だかよく分からない答えだけを得て、次の日を迎えた。
まだ次の
僕はやらなければならない事をリストアップしていった。
羊皮紙を読むのは続けよう。兵法などはシナに任せても良いかもしれない。
僕はその周りを埋めようと思った。
シナができない事、しない事をするのだ。
まず僕は
シナはおそらく今まで多くの人を助けてきたのだから、シナを助けたいと思う人もいて当然だろう。
そう考えて、今までの依頼者を探した。力を貸しては欲しいというお願いをした。
次が正念場だと伝える。もちろん負けたら次以降から、本国オレンフェスの支援が受けられない事は伝えていない。
誠心誠意、ただお願いをしただけだ。
けれど、誰1人として、ちゃんと答えてはくれなかった。冷たくあしらわれるだけならまだ良い。極力手伝いますよと、愛想の良さはにじませるけれど、本気で頑張る気がない人が大半だったのが、少し以上に厳しかった。
メリットを提示してない、というのも問題だろう。しかしレッサーオリジンを殺した数で報奨金を得られているのだから、これ以上何をメリットにすればよいのか。
それにそもそも、
お金を支払ったから、助けてくれたんだろう? という反応が普通だった。
--まぁ、それはそうだけど、さ。
お金を払っても助けてもらった事に感謝する、なんてのはザラにあるだろう。
感謝はするけれど力になろうとする人は少ないのかもしない。
あるいはお金さえ支払っていなければ、可能性は--。
ふと、そこで金銭以外の繋がりがあれば良い事に気づいた。
そしてそのまま、一つだけ策を思いつく。
いや、策なんて大それたものではない。
案ぐらいのものだ。
しかし、それはシナに危害が及ぶ可能性あった。それも致命的なほどのダメージである事も。
ただ、もう後がないのも事実なのだ。
ならば、提案だけはしてみる価値はあるかと思った。
僕は残り日数の事を考える。
その案を実現させる為に、何をしなければならないか、自分に問い続けた。
レッサーオリジンは現象でしかない、という事も一つのヒントになった。
◇ ◇
「さて、シナ。今回は
シナはもう退院し、ある程度の体調は整いつつあった。身体は問題ないようだった。
ただ、あの急に出た笑い声については何も分からずじまいだった。
いや、僕も住環境なりが変わって冷静に見れていないのかもしれない。
今度、ちゃんと調べみようと思った。
念の為、シナにも問うてみた。けれど何も知らないという。何が起こっていたのか。
そんな答えを探す暇はもうなかった。
そろそろ戦争に対して何をするかは、決める必要があった。
僕らは
第4支部の事務所の真ん中に、通信の宝玉が置かれている。
その宝玉を囲むように、シナ、僕、カリオストロ、リーブルの順で4人は椅子に座っていた。
シナが通信の宝玉を手に掴んだ。
これから行われるシナとクスクスの会話は、それぞれの通信の宝玉によって各支部に届いているはずだ。
彼女らの決定がそのまま
僕はその会話に耳を澄ませていた。
「1班はいけるって聞いてる。2班はお留守番。どこかの班が残らないと、クリミナルシティで何が起こった時、対処のしようがない」
「クスクスはクスクスと笑ったよ。3班は前の
「5班は今、クリミナルシティ内で依頼を受けているところ。だから手が離せない」
2人の会話が、
概ね話がまとまったようだった。
僕は昨日、僕の案をシナとクスクスに伝えていた。その際には、あのシルバー・P・ジェクションにも入ってもらった。
僕、シナ、クスクス、シルバーで案ついて協議しあった。
僕の案は、クスクスには反対された。やはりシナに危険が及ぶ可能性が高すぎるからだ。
けれど、何故かシルバーがその声を封殺してくれた。
シルバー曰く、
「勝つ可能性を上げるなら、それは試すべきだ。何より今回は後がない。いずれにしろ、大博打は打つ必要がある。私が悪役を演じる事にデメリットなどない。ハッキリ言って今更だ」
との事だった。
彼女とは通信の宝玉を挟んでの会話だったが、とにかく生真面目という印象が強く、騎士の中の騎士という感じの人だった。
いずれにしろ、シルバーが入った事で僕の案は大幅に強化された。彼女がさらに案を足したのだ。いくぶんかでも、勝率を上げれたかもしれない。
あとは、それを実行するだけだった。
「この細かい配置を考えたのは、お前か?」
クスクスの告知が終わった途端、隣に座っていたカリオストロが声をかけてきた。
「ええ、そうです」
僕は返答した。
「だろうな。こんな事はクスクスと笑うクソガキは提案しないだろうからな」
「……僕も、あまり提案したくはなかったです。こんな作戦」
「……ッチ。
やっぱりって辺り、そもそも嫌っていたのか。というか男とガキが嫌いなんだったか。
一度、普通に友好的になっていたのは、彼なりの努力なのかもしれない。
カリオストロはそれ以上何も言わずに、椅子から立ち上がった。
どうやらどこかに行くらしい。事務所からも出て言ってしまった。
「わわわ、私は、さ、賛成、です!」
そうフォローするように慌てて声をあげたのは、リーブルだった。
僕はリーブルに微笑む。
「いや、そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ。確かにかなり際どい事をやろうとしてるので」
「け、けど、この、さささ作戦は、し、シナちゃんの、力を、さささ最大限、使っていますし、わ、わたしも、今までよりも、ま、前向きに刀を、ふ、振るえ、ますし。えへへ、へへへ、へへへ」
リーブルは
どうやら、この子は本当に暴漢の
いずれにしろ、やはり変人ようだ。
もうこれ以上は触れない事にした。
「私は感謝してる--」
そう言ったのはシナだった。
ビシィッと自ら効果音を入れて、勢いよく僕を手の甲で触ってくる。
「--私は何度か思いついた事はあった。けど、皆んなに反対されるから、なかなか難しかった」
「それは当たり前だと思いますよ。シナが失われれば、多分この戦争は負けます。そんな人間に危害が加わるかもしれない作戦なんて、下策中の下策です」
シナの手の甲は僕に触れたままだった。
「けど、私もこれでいけると思ってる。だから心配しなくてもいい。やれる」
恐怖心は無くなっただろうか。分からない。けれど、何とかなる。そんな気はしてきた。
「じゃあ、皆んな、そろそろ明日に備えて寝ようか。明日は70年ぶりに人類が勝利して、クスクスと笑おう」
宝玉から声が聞こえてきた。
戦争が始まろうとしていた。
絶対に負けられない戦争が。
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