第27話 戦争を始めよう!

 レッサーオリジンが生物か生物でないか、という問題に解答は得られなかった。




 最もその存在に詳しいと思われるサイルミ・トロッケンが情熱を失ってしまったのだから、文章が残っている訳がない。

 僕は、とりあえず『レッサーオリジンは現象である』という何だかよく分からない答えだけを得て、次の日を迎えた。






 まだ次の簒奪さんだつ戦争までは5日ある。

 僕はやらなければならない事をリストアップしていった。

 羊皮紙を読むのは続けよう。兵法などはシナに任せても良いかもしれない。

 僕はその周りを埋めようと思った。




 シナができない事、しない事をするのだ。



 


 まず僕は簒奪さんだつ戦争に参加する人たち、それぞれにお願いをしようと思った。精一杯戦って欲しい、と。

 シナはおそらく今まで多くの人を助けてきたのだから、シナを助けたいと思う人もいて当然だろう。








 そう考えて、今までの依頼者を探した。力を貸しては欲しいというお願いをした。

 次が正念場だと伝える。もちろん負けたら次以降から、本国オレンフェスの支援が受けられない事は伝えていない。

 誠心誠意、ただお願いをしただけだ。



 けれど、誰1人として、ちゃんと答えてはくれなかった。冷たくあしらわれるだけならまだ良い。極力手伝いますよと、愛想の良さはにじませるけれど、本気で頑張る気がない人が大半だったのが、少し以上に厳しかった。






 メリットを提示してない、というのも問題だろう。しかしレッサーオリジンを殺した数で報奨金を得られているのだから、これ以上何をメリットにすればよいのか。

 それにそもそも、CHUSチウスとは金銭での繋がりしかないという認識しかない人がほとんどだった。


 




 お金を支払ったから、助けてくれたんだろう? という反応が普通だった。

 --まぁ、それはそうだけど、さ。





 お金を払っても助けてもらった事に感謝する、なんてのはザラにあるだろう。





 感謝はするけれど力になろうとする人は少ないのかもしない。

 あるいはお金さえ支払っていなければ、可能性は--。




 ふと、そこで金銭以外の繋がりがあれば良い事に気づいた。

 そしてそのまま、一つだけ策を思いつく。

 いや、策なんて大それたものではない。

 案ぐらいのものだ。




 しかし、それはシナに危害が及ぶ可能性あった。それも致命的なほどのダメージである事も。



 ただ、もう後がないのも事実なのだ。

 ならば、提案だけはしてみる価値はあるかと思った。

 


 僕は残り日数の事を考える。

 その案を実現させる為に、何をしなければならないか、自分に問い続けた。

 レッサーオリジンは現象でしかない、という事も一つのヒントになった。


◇ ◇


「さて、シナ。今回はCHUSチウスから何人転送させる?」




 簒奪さんだつ戦争はもう明日に迫っていた。

 シナはもう退院し、ある程度の体調は整いつつあった。身体は問題ないようだった。

 ただ、あの急に出た笑い声については何も分からずじまいだった。

 いや、僕も住環境なりが変わって冷静に見れていないのかもしれない。

 今度、ちゃんと調べみようと思った。

 


 念の為、シナにも問うてみた。けれど何も知らないという。何が起こっていたのか。

 そんな答えを探す暇はもうなかった。

 



 そろそろ戦争に対して何をするかは、決める必要があった。





 僕らはCHUSチウス第4支部の事務所でクスクスの言葉を聞いていた。

 第4支部の事務所の真ん中に、通信の宝玉が置かれている。

 その宝玉を囲むように、シナ、僕、カリオストロ、リーブルの順で4人は椅子に座っていた。



 シナが通信の宝玉を手に掴んだ。



 これから行われるシナとクスクスの会話は、それぞれの通信の宝玉によって各支部に届いているはずだ。

 彼女らの決定がそのまま簒奪さんだつ戦争の趨勢すうせいを決めるのだ。





 僕はその会話に耳を澄ませていた。






「1班はいけるって聞いてる。2班はお留守番。どこかの班が残らないと、クリミナルシティで何が起こった時、対処のしようがない」

「クスクスはクスクスと笑ったよ。3班は前の簒奪さんだつ戦争で大立ち回りをしたところだからね。怪我をえきってないだろうし、今回は後陣で指示を出すのに徹してもらうよ。何人かは前に出る事もあるだろうけど。4班は前陣で戦ってもらう」

「5班は今、クリミナルシティ内で依頼を受けているところ。だから手が離せない」



 2人の会話が、CHUSチウス全員に広がっていく。

 概ね話がまとまったようだった。CHUSチウス全員で何人いるのかまで知らないが、配置についての細かい告知は今からのようだ。



 僕は昨日、僕の案をシナとクスクスに伝えていた。その際には、あのシルバー・P・ジェクションにも入ってもらった。

 僕、シナ、クスクス、シルバーで案ついて協議しあった。



 僕の案は、クスクスには反対された。やはりシナに危険が及ぶ可能性が高すぎるからだ。



 けれど、何故かシルバーがその声を封殺してくれた。




 シルバー曰く、

「勝つ可能性を上げるなら、それは試すべきだ。何より今回は後がない。いずれにしろ、大博打は打つ必要がある。。ハッキリ言って今更だ」

 との事だった。





 彼女とは通信の宝玉を挟んでの会話だったが、とにかく生真面目という印象が強く、騎士の中の騎士という感じの人だった。

 いずれにしろ、シルバーが入った事で僕の案は大幅に強化された。彼女がさらに案を足したのだ。いくぶんかでも、勝率を上げれたかもしれない。




 あとは、それを実行するだけだった。




「この細かい配置を考えたのは、お前か?」

 クスクスの告知が終わった途端、隣に座っていたカリオストロが声をかけてきた。

 



「ええ、そうです」

 僕は返答した。

「だろうな。こんな事はクスクスと笑うクソガキは提案しないだろうからな」

「……僕も、あまり提案したくはなかったです。こんな作戦」

「……ッチ。CHUSチウスにいるやつは全員、姫さんに何らかの恩がある。それに無茶するやつだって知ってる。だから、こんな作戦を絶対に実行しなかった。俺はやっぱりお前の事、嫌いだわ」





 やっぱりって辺り、そもそも嫌っていたのか。というか男とガキが嫌いなんだったか。

 一度、普通に友好的になっていたのは、彼なりの努力なのかもしれない。

 

 



 カリオストロはそれ以上何も言わずに、椅子から立ち上がった。

 どうやらどこかに行くらしい。事務所からも出て言ってしまった。





「わわわ、私は、さ、賛成、です!」

 そうフォローするように慌てて声をあげたのは、リーブルだった。

 僕はリーブルに微笑む。

「いや、そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ。確かにかなり際どい事をやろうとしてるので」

「け、けど、この、さささ作戦は、し、シナちゃんの、力を、さささ最大限、使っていますし、わ、わたしも、今までよりも、ま、前向きに刀を、ふ、振るえ、ますし。えへへ、へへへ、へへへ」




 リーブルは光悦こうえつしているかのように、笑っていた。

 どうやら、この子は本当に暴漢のがあるらしい。いや、人斬りのか?

 いずれにしろ、やはり変人ようだ。

 もうこれ以上は触れない事にした。






「私は感謝してる--」

 そう言ったのはシナだった。

 ビシィッと自ら効果音を入れて、勢いよく僕を手の甲で触ってくる。

「--私は何度か思いついた事はあった。けど、皆んなに反対されるから、なかなか難しかった」

「それは当たり前だと思いますよ。シナが失われれば、多分この戦争は負けます。そんな人間に危害が加わるかもしれない作戦なんて、下策中の下策です」




 シナの手の甲は僕に触れたままだった。

「けど、私もこれでいけると思ってる。だから心配しなくてもいい。やれる」

 恐怖心は無くなっただろうか。分からない。けれど、何とかなる。そんな気はしてきた。




「じゃあ、皆んな、そろそろ明日に備えて寝ようか。明日は70年ぶりに人類が勝利して、クスクスと笑おう」

 宝玉から声が聞こえてきた。



 戦争が始まろうとしていた。

 絶対に負けられない戦争が。

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