036 クールな姉と天真爛漫な妹の顔が似てない双子で売り出そうとしてるのにぃ!!

「は? あたしの肌がボロボロ? 戯言も大概にしていただきたいねぇ!!」


「戯言じゃねーよ。鏡見たことあンのか? すげー肌荒れしてるじゃねーか」


「は、はあ? お、お姉ちゃんはどう思う?」


 メビウスは目をそむけた。そして彼女は教師を指差した。


「そこの3人、自由と無秩序は似て非なるものですよ? 退室してください」


 騒がしいから出ていけとお怒りである。そりゃそうだろう。モアとフロンティアの声の大きさを考えれば、誰でも追放を決断するに決まっている。

 モアやフロンティアは噛みつくつもりにはなれないのか、大人しく退室するようであった。メビウスも立ち上がり、「これくらい不運にも入らん」とぼやく。


 教室から出たメビウスは、広々とした宮殿のような廊下でモアたちより謝罪を受ける。


「ご、ごめん。お姉ちゃん」


「すみませんでした」


「先ほど返事しただろう? これくらい不運ですらないよ」メビウスは淡々と、「それより、ウィンストンという生徒について知りたい。彼が復学を考えているとして、なぜ私とモアの首を献納しようとしているのだ? そもそもウィンストンはあの傾奇者に敗れたのであろう? だったら復讐したいはずだ」


「……。ウィンストン先輩は心をへし折られたんですよ。相当手酷い拷問されたって話だし。もうあのヒトはルーシ先輩に逆らえない。ルーシ先輩は敵の心をへし折って戦力にするのがとても上手いので」


「あんな子どもに恐怖心など抱くものか?」


「お姉ちゃん、あたしのことディスってるの?」


「他意はない。すまなかった」


 すっかり元気になったモアだが、元々はルーシ・レイノルズによってメンタルに深い傷を負わせられた立場だ。いつその傷跡が膿を出すのか分かったものではない。


「まあ、そのウィンストンとやらは私たちを潰せると思って懸賞金を懸けたのであろう? ところが私たちはまったく襲われない。仲良くお喋りしながらケーキを食べる時間があるほどだ。つまり1億メニーを超えるカネは当然眉唾だと捉えられている。となれば、だ」


 ぐるぐるメガネをデコの上に乗せたモアが、意気揚々とした態度になった。


「悩む必要はない、と思わせておいて、ウィンストン先輩がなんかしらの秘策を用意してると思うってことでしょ?」


「その通りだ。ウィンストンはなにかを用意している。それこそセブン・スター級の大物を」


「え? セブン・スター級? めび、バンデージさんそれはないって。確かにウィンストン先輩は未だにMIH地区へ権力持ってるらしいけど、そんな高価な鉄砲玉買えるほどじゃないって」


「そうか? ひとつ思ったことがあるのだ」


「んん? なに、お姉ちゃん」


「ウィンストンがあの幼女から資金提供を受けているとしたら、国の最高戦力であるセブン・スターに匹敵する魔術師も雇えるのではないか、とね」


「なるほど。でもそんなくどい方法使わなくても、ルーシ先輩自らヒトを雇えば良いじゃないですか」


「いや……」メビウスは弱々しく首を横に振り、「おそらく彼女はもう自分の手でわしらを追い詰めるつもりはない。本来は関わりたくもないだろうな」


「まーた“わし”なんてしわしわワード使ってる!!」


「また理不尽に怒られてしまったよ」


「別に一人称なんてどうでも良いんじゃねえの? ロスト・エンジェルスは無駄に一人称が多いけど、なに使おうが当人の自由だろ」


 フロンティアは常識的なことを言ってきた。ただ、モアはそれでも納得しない。


「やー! お姉ちゃんの一人称は“私”なの!! クールな姉と天真爛漫な妹の顔が似てない双子で売り出そうとしてるのにぃ!!」


「バカじゃねーの……。あれ、バンデージさんは?」


「ありゃ? お姉ちゃんがいない」


 モアとフロンティアが取り残された頃、メビウスは非常に強い殺気を感じて念のため外へ退避していた。ウィンストンとやらが本当にセブン・スター級の化け物を雇っているのであれば、合点が合う。そうでなければ説明できないほどの殺意だ。


「……。裏で手を回されているのが気に食わないな」


 メビウスがそうつぶやいたときには、空中はるか高くに砲身の長い大砲が広がっていた。

 誰しもが空を見上げ、写真すら撮る者もいる。このままでは危険である、とメビウスは射線をずらすべく空へ舞い上がった。


「こんなところで殺し合いを始めるなど……いや、つい最近わしもやったな。やはり加齢で前頭葉かなにかが溶け始めているのかもしれん」


 そう自嘲して、メビウスは超高速で戦線へと向かう。


「おお。さすがの接近力。こりゃ危険な匂いがするねェ」


「危険なのはどちらだろうな。そのような大砲を天空に展開するとは」


「別に砲弾頼みってわけじゃないぜ? まどろっこしい真似が嫌いってだけさ。その点砲撃は良いぞ? その気になりゃ都市区画も吹き飛ばせる。ヒトがいなくなって問題がすべて消し飛ぶわけだ。ただし……!!」


 なにかが、精霊のような何者かが、高貴な鳥のようないきものが、その紫髮の青年の身体を割って現れた。


「でけェ攻撃頼みだと思うなよ? おれァエアーズ!! てめェに恨みはねェが、ある小娘に近づくためだ!! その首捻り潰してやらぁ!!」


 その赤い鳥は、まるで不死鳥を思わせた。伝記に出てくるような神々しさは、このであることを国是とするロスト・エンジェルスにまったく似合わない。


「……!?」


「フェニックスの炎は攻撃力を持たねェ。所詮は再生用だからな。ただしそこへおれの魔術理論を付け足すことで……!!」


 火の鳥に飲み込まれたメビウスであったが、痛みはなかった。されどこれで終わるわけがないと、メビウスは、かつてロスト・エンジェルスの英雄だった男は、いまや白い髮の少女になってしまった存在は、確信している。

 その証拠に、メビウスの身体がジリジリ……と熱を帯び始めた。


「この炎は一定期間相手から!! ってことだ! それに加え──」


 エアーズは拳銃を取り出し、メビウスの肩に発砲した。

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