第四章 ~『アレックスとの改めての会話』~
マリアはシロの無実を証明し、ティアラの傷を癒すヒントを得るため、医務室へと向かう。
(シロ様とティアラの証言をすり合わせれば、きっと事件に進展があるはずですわ)
渡り廊下を駆け足で進む。すると、第一王子のアレックスが扉の前で待ち構えていた。
「よぉ、やっぱり来たか」
「私に何か御用ですか?」
「あ~、用事があるわけじゃないんだ。ただ謝罪したくてな。すまなかった」
王族であるアレックスが男爵令嬢に頭を下げる。普通ならありえないことだ。恐縮しながら頭を上げて欲しいと伝える。
「アレックス様の怒りはもっともですし、気にしないでくださいまし」
「そういってもらえると救われるが、正直、あの時の俺は頭に血が昇っていてな。いつもこうなんだ。ティアラのことになると理性が働かなくなる」
「ふふ、ティアラのことを大切に想っていますのね」
「まぁ、俺は繋がりを大切にする男だからな」
気恥ずかしそうに、アレックスは頬を掻く。少年のように愛らしい仕草だった。
「でもティアラとは最初から仲が良かったわけじゃない。出会った頃のあいつは、傲慢な貴族令嬢をさらに酷くしたような女だったからな。当時の俺は正直苦手だったくらいだ」
「今のティアラからは想像できませんわね」
「はは、俺もマリアの立場なら同じ意見になるな。でもあいつは変われた。レインのおかげでな」
「レイン様が……いったいなにをしたんですの?」
「あいつは王子の権威を使って、ティアラの罪を糾弾したんだ。貴族社会で爪弾きにあったティアラは、父親の将軍からも折檻を受けた。これがきつかったみたいでな。いまのあいつに変わったんだ」
人格に影響を受けるほどの劇的な体験だ。いったいどれほどの出来事があったのか、想像さえできなかった。
「それから俺たちは友好を深めた。ティアラとも共に過ごすことが増えたし、楽しい毎日だった」
「ふふ、その中でティアラのことを愛するようになったのですわね」
「――ッ……わ、分かるか?」
「もちろんですわ」
ティアラについて話す時だけ声音が違うのだ。どんなに鈍感な者でも、彼の恋心に気づくのに時間はかからないだろう。
「実は傷の件を謝罪したのも、俺は別にあいつの外見に惚れたわけじゃないってことを思い出したからだ。一生、あの傷が癒えなくても、俺は愛し続ける。だから許すことにしたんだ」
「ふふ、アレックス様は愛情深いですわね」
「一方的な愛だがな。なにせティアラが俺を好きになることはない」
「そんなことありませんわ。諦めるには早いですし、私は応援していますわ」
「でもなぁ、あいつはレインが好きだろ」
「え……」
「あ、もしかして知らなかったのか?」
「気づいていませんでしたわ」
「鈍感なのか、鋭いのか、分からない奴だな……まぁいい、どちらにしろ、ここだけの話にしてくれ。ティアラは隠し通せているつもりでいるはずだからな」
「でも驚きですわね。まさか、あのティアラが……」
「レインは良い奴だし、それに、あいつはティアラを救ったからな」
「救った?」
「色々とあったのさ」
疑問を残したまま、アレックスは役目を終えたと去っていく。その背中はどこか哀愁を漂わせていたのだった。
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