第73話 豪邸か理想郷か

 俺の家が出来上がった。

 壁に丸太の感じを残したハンドカットのログハウスである。

 二階建ての2LDKだが、寝室にした二階の二部屋だけでも、寝るだけなら四人いても問題ない。詰めればもう少し入るはず。一階はリビングとキッチン、バストイレ付き。キッチンの調理器具にも照明にも、ラスリューの所有する魔導具が使われていた。定期的に魔石の補充がいるだろうとのこと。

 一階にはウッドデッキ、二階にはバルコニーがあるので、どちらもくつろぐには最適。

 

 慎ましくやりたいという俺の願いを反映したそうだ。


 なるほど、ありがたい。


 俺の家の前には、ちょっとした広場が作られた。円形にレンガを埋め込んだ、焚き火のできるスペース。周辺は芝生。キャンプ椅子でも持ってきて、ちょっとした焚き火やバーベキューには最適だろう。


 その広場を中心に、向かって左手に二つの小屋がある。これはミスティアと千種のもの。こちらは一人用のログキャビン丸太小屋とでも言うべきものだった。コンパクトで、一部屋六畳にトイレとロフト付き程度の大きさ。

 ミスティアと千種が一つずつ使っている。


 そして広場の右側には、片流れのシェッドハウス物置小屋の家がある。一見すると大きいが、実は半分以上はキッチンと食堂で、使用人の使う小屋だ。

 ここの小さな部屋の一つがマコの部屋で、二階では鬼族が寝泊まりできる。 でもキッチンがあるとはいえ、見た目では千種やミスティアの家より大きいので、マコは恐縮していた。

 ちなみに、石窯もついている。


 さて、これらの建物は、みんな一度外に出ないと、別のところには行けない。しかし、それでは風雨が吹き荒ぶ時などは、移動が大変なことになる。

 まあ、それくらいの不便はあると思いながら、このデザインを受け入れた。みんなの希望を、そのまま持ち越すためだ。


 しかし、ラスリューは満足しなかった。俺の住む家に、そんな不便はあってはならないと主張している。

 また、この程度の建物群では、新天村開拓での働きに見合わないと。


 そういうわけで、ラスリューの持つ、とっておきの宝珠が使用された。『天禍不災の龍珠』というらしい。

 この宝珠を使うことで、一定範囲に降り注ぐ豪雨風雪をはね除けるらしい。例によって、神性と魔石は必要らしいけれど。


 飾る台座を探していたので、それは俺が作ってみた。せっかくなのでこの家をデザインしたラスリューの姿を彫刻したレリーフに、宝珠を嵌め込む形で作り、家の飾りにできるように。

 これはラスリューがとても喜んでくれた。


「光栄です、総次郎殿」


 この天龍の加護により、だいたいこの広場とその入り口あたりまでの範囲で、雨風や雪が降り込まないエリアになった。

 つまり、見えない壁があるようなものである。


「まあまあ悪くない出来栄えになったかと思います」


 このセンターハウスを中心としたグランピングエリアのような環境が完成して、ラスリューはうんうんと頷いていた。


 俺もたいしたものだと思う。

 さらにここから草花や裏庭なども整備すれば、まるで別荘地の母屋と離れだ。軽く壁か生け垣で囲えば、もはやそのひとかたまりでお屋敷に見えるだろう。


 ところで、疑問が一つだけある。


 母屋と離れと、使用人室。キャンプファイヤーができそうな中庭。各種の魔導具によって便利で快適にされた家。

 それらを囲む、悪天候を許さぬ見えない壁。

 これらをひとまとめとして見た場合、それはもはや豪邸ではないだろうか? いや、豪邸を一つ超えている気がする。最後のやつで。


 ……慎ましい、か?


 果たして、そうなんだろうか。

 俺が希望した条件はすべて叶ってるけど、見方を変えれば四人の希望を叶えるために四つの家と土地を内包する邸宅を作った、とならないか。


 しかし、


「みなさんの希望を全て叶えつつ、まとまりの良さを出すのに苦労しましたね。神樹の森の自然をたっぷりと感じられる、我ながら力作の建築です」


 とても満足げにしているラスリューに、下手なことは言えなかった。


 ……ま、まあ便利で住み心地が良いのは良いことだよな!


 それで納得しておくことにした。


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